第7話 「起きたら全裸」


 強い陽射しに目が覚める。いつの間に寝てしまった。酷く夢見が悪かった気がするとぼんやりした意識のまま起き上がり、手探りに剣を探す。確かいつも枕元に置くようにしているはずだ。


 コツンと手に何かがあたる。剣だろうとそれを握り目を擦りやっと視界が晴れた。


「………は?」


 俺は全裸でベッドの中に入っていた。全て脱いで寝る様な癖はなかったはずだし、そもそも掴んだものが剣じゃない。


『クルル』


 嬉しげに尻尾を差し出しているリヴァイアサンに魂が口から飛んでいきそうになる。指先に触れたのはどうやら尻尾の一番細い場所らしい。


 そういえば昨日リヴァイアサンに出会ったなとか、夢じゃなくリヴァイアサンは着いてきてしかもそのせいで野宿になったなとか。


 思い出していくと色んなことが頭の中でぐるぐると周り気持ち悪くなった。


「うぇ…」

『!?』


 慌てて俺に首を巻き心配そうに見上げてくるリヴァイアサン。昨日よりますます恐怖心が薄れてきたし、この距離にも慣れてきた気がする。


 ───が、とあることを思い出し、目の前のリヴァイアサンの頭をがしりと両手で掴む。ギョッと目を丸くするリヴァイアサンをじろりと睨みつけた。


「お前、喋ったよな」

『……クルル』

とぼけんな!首傾げてもダメだ!しっかり聞いたぞ!つか、よくもお湯の中に引きずり込んでくれたな!」


 ぴゃっと首を巻くのをやめてリヴァイアサンは目を逸らす。変に人間じみた行動ばかりするコイツにふつふつと怒りが込み上げる。


「まただんまりか!」

『ケェ~』

「アホみたいな鳴き方してバカの振りをするのはやめろ…!」

『クゥルル…』


 リヴァイアサンが逃げる様に近くの昨日は風呂だった水が溜まった穴に飛び込む。それを追いかけ用としてふと昨日の光景を思い出した。



「…まさか」


 リヴァイアサンの姿を探すように水に頭を突っ込み覗き込んでみれば────底の見えない水の中を泳ぐリヴァイアサンの姿が見える。


 明らか深さがおかしい。掘ったのか?いや、掘ったとしてこの水はどこから来たんだ。リヴァイアサンが水魔法のスキルを使ったのか。海竜だから使えても可笑しくはない。



 だけど、確かなことは。それを行ったとしても昨日の記憶が夢ではないなら、俺が湯に浸かってる時にそれが行われたってことだ。



 勢いよく体を起こし、びしょ濡れの髪を全て後ろに撫で付けて余分な水は振り切り、乾く前に服を着てしまう。流石に全裸で居続けるのは、こう…倫理的にどうかと思うので。


 全て服を着てから剣を手にすると水音が背後からするので振り返る。


 水面から顔を少し出してこちらを見ているリヴァイアサンがいた。直ぐにみ無かったことにして剣を定位置にセットしようとした時。情けなくなくリヴァイアサンの声が聞こえた。


『クゥ…』

「…はぁ」


 威風堂々。竜の中でも上位に位置し、なんなら神としても崇められることがあるリヴァイアサンが、何を情けない鳴き声を発してるのか。


 それが、S級になったとはいえ、ただの冒険者に背を向けられたからなんて、故郷の奴らに話したら嘘つきと罵られそうだ。


「話す気は無いんだな?」

『クルル…』

「俺から離れる気もないんだな?」

『…』

「……もしも俺と共に来るなら人間はあんたら竜やドラゴンと違って制約が多いんだ。ムカついたからって仲間は殺せないし、許可がなければ通れない道や行けない場所もある。お前は自由に飛べる翼も優雅に泳ぐヒレもあるが、それを使うことすら許されないこともある。分かってるのか?」



 ざばっ


 また背後で音がする。今度は水の中から出てくる音。考えなくてもリヴァイアサンが出てきたのは分かる。そして控えめに俺の体に首をやんわりと巻き、また情けなく鳴いた。


『クゥ…』

「…あー、もうホントにさぁ!」


 どかりと地べたにあぐらをかき座る。自然にリヴァイアサンの頭の位置も低くなる。それに慣れてしまっている自分をやはり無視するのは気が引けた。


「人を殺すな、襲われたら脅かすだけにするんだ。もしも万が一殺されそうになったら俺をまず呼んでくれ。それでもどうにもならなかったら一緒に考えよう。あんたは長い時を生きてるだろうが、人間には人間の制約があって。それは人間にしか分からないものが多い」

『…クルル』

「あと、その体の大きさはどうにかしてくれ。それじゃどれだけ俺が気を付けても周りを驚かせちまう。できないなら俺から離れる事を覚えてくれ。街の中にはその大きさでは絶対に入ることは無理だ」

『クゥ?』

「そしたら…まぁ、お前を初の相棒にしてやっても…うわ!!おい!やめろ!咥えるな!」

『ケルケルケル』

「咥えたまま鳴くな!耳が潰れる…!」


 また頭から咥え込まれ視界がリヴァイアサンの口の中でいっぱいになってしまう。レロレロと舐められるし、鳴き声はうるさいし…少し早まったかもと後悔しても、もう遅いのだろう。

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