第5話 「逃げ道なんてなかったんだなって」
「リヴァイアサン」
『…』
「おい、無視すんなよ、聞こえてるだろ」
『ケルゥ?』
「小首傾げんな、リヴァイアサンが言葉を十分理解出来ているのはわかってんだよ!」
マーロ達が組んだ攻撃用の魔法陣や大砲を片付けている間。俺は必死にリヴァイアサンに話しかける。
急に物分りが悪くなったことをアピールし、俺と目を合わせようとしないリヴァイアサンの頭を無理やり俺に向けさせる。
「き、け、よっ!」
『…』
「無視すんな!俺は宿に帰りたいの!ベッドでゆっくり眠りたいの!!」
『…』
「こら!咥えようとすんな!」
だんだんリヴァイアサンに慣れてきた俺は半ば投げやりに怒鳴りつける。不快そうにリヴァイアサンが唸るのを気にせず睨みつけ、カチカチと不思議な音が背後から聞こえ振り返った。
リヴァイアサンも不快そうなまま振り返るもんだから、音を出した本人…冒険者ギルド員が全身を激しく震わせ涙を浮かべていた。
「あれ、泣き虫ヤーグじゃん」
『グゥルルルル』
「おい威嚇すんな」
「ひぃ!?」
剥き出しになった牙を隠す為、抱き着くようにリヴァイアサンの口を無理やり閉じさせると初めはキョトンとしていたリヴァイアサンは直ぐに機嫌が良さそうに目を細め喉を鳴らしている。どんな仕組みしてんだ。
泣き虫ヤーグ。マーロの同期で何があってもすぐ泣く直ぐに気絶する貧弱な体質なのに魔法スキルが多い為、緊急時に呼び出されている残念なギルド員。誰が呼び始めたのかは不明だが、泣き虫ヤーグという呼び名はそこそこ有名だ。
「どうしたんだよ」
「ま、ま、マーロが、アレンさんを呼んで、ます」
「それだけを伝えるのにどうしてお前はそんなに脅えてんだよ…」
呆れながらそういうだけでひぃ!と悲鳴をあげさらに目から溢れる水の量が増える。いじめてないのにいじめているような構図ができているのを遠くにいたマーロが見たらしく目を細めていた。
これはまたヤーグはマーロに怒られるだろうな。
どんまいと軽く肩に手をやるだけでさらに怯えられた。もう何をしても怯えられてるみたいなんだけど。
「うわ!こら、リヴァイアサン!」
『クルルル』
背後にピタリとくっつきまた首を回してくるリヴァイアサンに憤慨しても何処吹く風。もう完全に無視することを決めたようだ。
何とかマーロが指示をだして居る場所に辿り着くと深い溜息の後、びっと指をさされた。
「な、なに?」
「アレンさんは本日野宿してください」
「え!?は!?」
「リヴァイアサンを説得できるんであれば多少は考慮できますが、見る限りその様子もありませんし指示の聞かない魔物を街中に入れることはできません。そ、れ、に!アレンがリヴァイアサンから離れてその子が暴れたら私たちの街なんてぺちゃんこです!それも物理的にです!」
ぺちゃんこという単語に砲撃されたのをリヴァイアサンが踏みつけかき消したのを思い出した。確かに出来そうなのがすごく嫌だ。
「なのでギルマスから命令が出ました」
「ちょっと待って…ね、ほら!俺昇級試験でドラゴン倒したばっかりでリヴァイアサンのこともあって疲れてるの!ベッドで寝たいんだよ!!」
「ではベッドがあれば良いですね?」
「え」
「持ってこさせましょう」
「…お、俺お腹すいたなーって」
「用意します」
「湯浴みだってしたいし…」
「簡易的な浴場を作りましょう」
「装備の手入れだって…」
「アレンさんは手先が器用ですから道具があれば自分で出来ますよね?ギルドの予備をお貸ししますのでそれで行ってください」
思わず顔を手で覆う。嘘じゃん。逃げ道ないじゃん。全部用意してきそうだもん。なんだよ野宿で浴場を作るって、聞いたことないよ。
『ケルケルケル』
「機嫌良くなきやがって…」
「リヴァイアサン、アレンさんを無理に引き離さずこちらに置いていきます。ですが今日までです、アレンさんは数少ないS級冒険者。色々な仕事をしてもらわないといけません。頭の良い貴女なら分かりますね?」
『…グルル』
「ずっとアレンさんと居たいのならちゃんと相手を尊重せねば人間の心は直ぐに移り変わってしまいますよ」
『クルル!?』
「いや移り変わるも何も元々…あの、聞いてます?」
「アレンさんも、しっかりリヴァイアサンと話し合って落とし所を見つけてください。これもギルマス命令ですよ」
「リヴァイアサンと話し合いってなかなか使わないセリフだよね…?凄い心臓が痛いんだけど、無理そうかなーって…」
「命令で、す、よ?」
「ぅはぁい」
マーロがにっこりと再び鼻に触れるんじゃないかという程の至近距離で指を突きつけてくる。俺、人を指さすの良くないと思うんだ…。え?俺の意見は聞いてない?そうですか…。
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