第4話「元竜王、初めての魔法」

 

 その後、川で水浴びをした二人は馬車の周りで再び話し合っていた。


「それで、君はこれから先どうする予定なの?」

「そうだな………。特に決めていなかったがどうせなら、街とやらに行ってみるか」

「場所は知ってるの?」

「いや知らないが………」

「なら僕が送って行こうか?」

「良いのか?」

「うん!僕も丁度、街に行く予定だったから大丈夫だよ」

「何から何まですまんな…」

「全然いいよッ、世の中助け合いだからね!」

 

(人族にこの様な男が居たとは…………我がドラゴンだった時は、興味本位で近づいただけで何故か地面に頭を擦り付け、号泣しながら仲間を食ってくれと言い出したからとんでもないヤバい一族かと思ったが、この男を見る限りそんな事はない様だな)


「あっ。そう言えば君、服もって無いよね」

「服、とはなんだ?」

「服って言うのは、人が寒さなどから身を守る為にある物だよ。人は他の生き物と違って、体を覆う大量の毛や鱗が無いから普通は服を着て生活しているんだ」

「そうなのか、それを着ないと街には入れないのか?」

「そうだね。着ないと街の傭兵団に捕まって、厄介な事になるから着た方が身のためだよ」

「うむ……そうか。しかし我は服を持っとらん。どうすれば手に入るのだ?」

「それなら大丈夫。中々売れなくて困ってた服があるからそれをあげるよ」

「本当か!それは助かる!しかし無償で貰うのは悪い。是非、我の髪を……」

「いやッそれは"本当"に要らないから!!」

「そ、そうか……しかしこれ以外に渡せる物が何も無いのだが……」

「じゃあこうしよう。僕は商人って言う物を売る仕事をしているんだ。だから君が街でお金を稼げるようになったら僕の商品を買ってよ」

「なるほど、それは良いアイデアだ。それならば我も納得だ」

「よしッ!じゃあそれで決定ね。例の服持ってくるからちょっと待ってて」

「うむ」


 オレゴは服を取りに馬車の中に入っていく。そしてそれから数分後、服を手に馬車から出てきた。


「いやーごめんごめん、思ったより探すのに時間かかっちゃったよ」

「大丈夫だ問題ない」

「で、これがその服なんだけどどうかな?」


 そう言ってオレゴが手に持っていた服をこちらに見せてくる。それは少し汚れた灰色の服だった。


「最初は綺麗な白だったんだけど、売れ残って時間が経つにつれ汚れて灰色になっちゃって、丁度処分しようか迷ってたとこなんだ」

「うむ…少し地味だが我好みの色だ。気に入った、是非頂こう」 

「本当!よかったぁ。僕もこの服好きなんだけど、お客さんには評判悪くてね……気に入ってくれてよかったよ」

「そうなのか。それでこれはどう着るんだ?」

「ああ、これはね下に穴があるでしょそこから————」


 オレゴから服の着方を教えてもらいながら服に袖を通して行く。そして服の装着が完了した。


「おぉ〜!良いね〜!中々似合ってるよー」

「そうか。ならば良かった」


 全身が灰色で少し地味ではあるが、頭も灰色である事によって統一感を感じられ、赤い瞳がより際立ち良いアクセントになっていた。


「さぁ!服も着たしそろそろ街に行こうか」

「うむ」


 グラノールは馬車に乗り込み、オレゴがムチを打ち馬を走らせる。車輪が回り音を立てながら徐々に加速して行く。


「ところで街にはどのくらいで着くのだ?」

「結構近いから割とすぐ着くと思うよ」

「そうなのか」

「うん。…あ、そう言えばお腹空いてない?馬車に吊るしてある干し肉、よかったら食べて。…先に行っておくけど髪の毛は要らないからね」

「おお!それは有り難い!しかし本当に髪の毛はいらな———」

「——要らないから」

「そ、そうか……分かった、では有り難くいただくとしよう」


 グラノールは馬車の中に吊るしてある干し肉を何枚か手に取りそれを齧り始める。


「これはッ!噛みごたえがあって噛めば噛む程、肉の味が染み出してきてこれはうまいっ!」

「ふふっ、干し肉をこんな美味しそうに食べる人見た事ないよ」


 干し肉を気に入ったグラノールはそのまま凄いスピードで食べ進め、あっとゆう間に完食してしまった。


「ふぅ、美味かった。しかし喉が渇いたな……」

「干し肉食べると喉乾くよねぇ。水出すからちょっと待ってて」


 そう言うとオレゴは何も入っていない木製のコップを取り出し、手をかざしながら何か呟く。


「……【水よ、来たれ】」


 オレゴがそう言うと何もない空間から小さな水滴が生まれる。そしてそれは回転しながら少しずつ増え、最終的に拳程度の大きさの水球になりオレゴの手のひらに浮かんでいた。


「………………は?」


 それを見たグラノールは目を見開き、口を大きく開き固まった。


「ん?どうかした?」


 そう言いながらオレゴは手のひらにあった水球をコップに入れる。


「そ、それ…その水、一体どこから……」

「どこからって言うか普通に『魔法』だけど……」

「ま………ほう?」

「あ、そっか…魔法も知らないのか」


 そう言うと水の入ったコップを置き、鞄から何かを取り出す。


「まぁ、これ読めば分かるよ」


 オレゴはそれをグラノールに渡した。


「これは……本?」

「うん。魔法に関するね」


 それは本であった。グラノールは早速その本を開き読み始める。


(魔法の……始まり)

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