第3話「旅商人、元竜王を拾う」
「ふんふん♪ふふん♪」
とある森の中、馬車に乗りながら陽気に鼻歌を歌う小太りの男が一人。
「今月は売れたな〜。次の街では贅沢しよう」
彼は名はオレゴ、しがない旅商人だ。
(次に行く街、【アレアス】は確か冒険者が多い街だったなぁ、売り物は武器多めにするかぁ)
オレゴはアレアスで何を売るか考えながら馬車を走らせる。
「いやーそれにしてもやっぱり森の中は空気が澄んでて良いねぇ〜。最近ろくな街に行ってないからアレアスに行くのが楽しみだなぁ〜」
「嫌だぁ………………誰か助けッ……」
「ん?」
オレゴが馬車を走らせ街を目指していると、前方から誰かの助けを呼ぶ声が聞こえてきた。
「今のは、人の声!? それに助けを呼んでいる様だ。早く助けに行かないと!」
オレゴは手に持っていたムチを打ち、馬を急がせる。
(う〜ん、でも僕あまり強くないからなぁ〜。倒せるとしてもスライム、頑張ってゴブリンぐらいだし助けられるかなぁ)
そんなことを考えている間に何かにを襲われている人が見えてくる。
「おーい!大丈夫かーい!今助けるから少し待ってて〜!」
オレゴは近くまで行くと馬車から降り、護身用に腰に差していた70センチ程の剣を抜き、構えながら徐々に近付く。
(ん?あれは………スライム!? 何故スライムに襲われているんだ!?スライムは弱くて臆病だから普通、人は襲わないのに………けど、今は好都合、スライムなら僕でも勝てるッ!)
オレゴはスライムに近付きそのまま剣を振り上げ、スライムの中にある赤い宝石の様な物、目掛けて剣を振り下ろす。
「はぁッッッッッ!」
パキンッ! と音を立て宝石の様な物が割れると、スライムの体は蒸発する様に消えて行く。
「大丈夫かい!助けに来たよッ!」
「うぅぅぅぅぅぅ……」
スライムに襲われていた人物は、目を擦りながら気だるげに起き上がる。その人物は灰色の髪に赤い瞳をした、15歳程の少年だった。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫な訳なかろう………」
「だよね……」
少年は目に違和感があるのか何度か瞬きをする。
「ふぅ………人族の男よ。この度は助太刀、感謝する。お主がいなければ我は大変な事になっていただろう」
「う、うん。当然の事をしたまでだよ」
(この子、何で全裸なんだろう………)
全裸の少年は立ち上がりオレゴの前までやってくる。
「それで褒美は何が欲しい?」
「え?褒美?褒美なんて要らないよ。そんなつもりで助けた訳じゃ無いし」
「そうか……でもお主は命の恩人だ、何か恩返しせんと我が納得出来ん。何か無いか?」
「う〜〜ん」
(何だか偉そうな口調だしもしかしたら貴族様かも、だったらせっかくだから何か貰おうかなぁ)
「まぁ強いて言うならお金、かな?」
「ふむ、そのお金とは何だ?」
「え?お金はお金だけど……」
「だから、そのお金とやらは何なのかと聞いておるのだ。食べ物なのか宝石なのか、はたまた生き物なのか。それを教えて欲しい」
「え〜と…大丈夫、頭でも打った?お金の事なんてスラムの子供でも分かると思うけど…一応言っておくと、お金は人間の間で使われる硬貨の事だよ。それを払えば、食べ物が貰えたり、武器が貰えたり、色々な物が手に入る人間には無くてはならない物だよ。…分かるよね?」
「なるほど、人族の間ではその様な物があるのか……してそれはどうすれば手に入るのだ?」
(もしかして、とんでもない子助けちゃったかも……)
「う、う〜んと。お金は食べ物を売ったり、家を建てたり、あとは魔物を倒したりその体の一部を売ったりすると貰えるよ。他にも色々な方法があるけど、それを説明すると長くなるからやめとくね……」
「ほう……魔物の体の一部が売れるのか。ちなみにどんな物でもいいのか?」
「そうだねぇ、基本的にはなんでも売れるけどスライムやゴブリンみたいな下位の魔物はほとんどお金にはならないかなぁ。逆に、ブラックウルフやバジリスクみたいな上位の魔物は売ったらとんでもない大金が貰えるけど」
「そうか、なら簡単だな」
「え?」
少年はそう言うと自分の髪の毛を数本、頭から引き抜いきこちらに差し出した。
「ほれ我の髪だ。これを売ってお金に変えてくれ」
「え、ちょっと何やってんの!?髪の毛はもっと大切にしないと、将来禿げちゃうよ!それで後悔した人何人も居るんだから……僕もその内の一人だし………」
…オレゴは禿げていた。
「そ、そうか…すまない。しかし我は上位中の上位、最上位の魔物だからきっと売ったらとんでもない大金が手に入るはずだ」
「い、いや人間は魔物じゃないから売れないよ、お金がないんだったら無理しなくても…」
「まぁまぁ、そう遠慮せずに受け取ってくれ」
「いや本当にいらなッッッッ!!」
少年がオレゴに近づいたその時。
(いやくッッッさぁッッ!!!何だこの臭いッ!まるで腐った卵に鳥の糞を混ぜ込んだみたいな臭いだッ!とても人から出ているとは思えない!)
ゲロ塗れのまま時間が経ち、カピカピの乾いた少年の体はとんでもない異臭を放っていた。
余りの臭いにオレゴがフリーズしていると、その隙に少年が自分の髪をオレゴのポケットに無理矢理入れる。
「受け取って貰わねば我が困るのだ。無理矢理にでも受け取って貰うぞ」
「ハァ……ハァ…ハァ…ハァ……わ、分かった。貰う、貰うよ……だから少し離れて……ハァ…ハァ…」
「ん?大丈夫か?顔色が悪いし息少しが上がっているが…」
「いいから離れてッッ!」
「わ、分かった。離れるからそう怒鳴るな」
少年はオレゴから少し離れる。するとオレゴの容態が落ち着いてくる。
「ふぅ……死ぬかと思った…」
「ん?なぜ死ぬのだ?」
「いや、何でもないよ。それより、僕ここに来る途中で見つけた川で水浴びする予定なんだけど、良かったら君も一緒にどうかな?」
少年の余りの臭さに同情したオレゴは、一緒に水浴びに行く事を提案する。
「おお!我も丁度、水浴びしたいと思っていた所なのだ。是非ご一緒しよう。」
「うん。じゃあ川まで行くからこの馬車に乗って」
「馬車?馬車とは、この馬の引いている物の事か?」
「馬車も知らないの!……君、一体今までどこで暮らしてきたの?」
「我は普通に森だが?」
「森!?どうして!?」
「どうしても何も、生まれも育ちも森だからに決まっておろう」
「生まれも育ちも森!?じゃあ君のお母さんは森で君を産んだの!?」
「当たり前であろう。逆に森以外のどこで赤子を産むと言うのだ」
「いや普通、街でしょ!森で赤ちゃん産むお母さんなんて見た事も聞いた事もないよッ!」
「街ぃ?なんだそこは?」
「それもぉぉぉ!?街だよ街!?周りを壁が囲んでて中にお城とか沢山の家がある奴だよッ!本当に見た事ないの!?」
「ふむ、そんな所があるのか。是非行ってみたいな」
「えぇぇぇぇ!?本当に知らないの?でも、そうか……だからお金の事も分からなかったんだね」
「うむ。我は人族のことは余り知らんな」
「へぇぇ……君みたいな子もいるんだねぇ。世の中は広いなぁ。所で君のお母さんはどうしてるの」
「知らんな。我は生まれた時から一人だったからな」
「え?なんで?」
「我の母は、我が産まれてすぐに何処かに行ってしまったからな」
「うえぇぇぇぇ!?君のお母さんとんでもない人じゃん!!君の事、産むだけ産んで森に捨てていくなんて………酷すぎるよッ!!」
「そんな事ないさ。我は母に感謝しているよ。」
(うぅぅ〜……な、なんていい子なんだッ。自分が捨てられた事を知りながら、それでも母親に感謝するなんて)
「そう……君は大人だね」
「ああ、我は確かに大人だな」
「所で、お母さんに捨てられたなら何を食べて生きてきたの?」
「そうだな………確か最初の頃は、草ばかり食べて生きてきたな」
「草?」
「ああ。丁度、我の産まれたところに生えてきた青くて良い匂いのする草だ」
「それ!きっと上薬草だよッ!」
「上薬草?」
「うん!上薬草はとても栄養豊富で一部では、食べ続ければ寿命が二倍になると言われる程なんだ。だからそれを食べていたなら君が生きて来れたのも納得だよ」
「なるほど。味は不味かったがそんな効果があったとは……」
「でも上薬草は普通、滅多に出て来ないんだ。だからとても希少な物なんだよ。それが産まれた所に生えてくるなんて……君はお母さんには愛されなかったけど、神に愛された子…なのかもね」
「うむ。確かにそうかも知れん」
…しかしその神に愛された子は後に神の使徒を焼き殺す事になる。
「じゃあ話はここら辺にして、そろそろ川に行こうか!」
そう言うとオレゴは馬車に乗り込む。
「さぁ、早く乗って」
「うむ。では失礼する」
そして少年もオレゴの"隣"に座った。
「…………」
「ん?どうした?川まで行かんのか?」
「………ごめん……悪いんだけど、僕の隣じゃなくて中に入ってもらって良いかな……」
オレゴは少年が隣に座った途端に顔を青くしながらそう言った。
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