第一章 メンタルブレイク編

第1話「その者、人間につき」


 『ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ〜〜〜』


 涼しげな風が澄み渡る洞窟の奥、一人の少年が仰向けに寝ている。


 『ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ〜〜〜』


 風通しの良い洞窟に、木の葉が風に乗り入ってくる。そして木の葉はそのままふわりふわりと舞い上がり、優しく少年のおでこに乗った。


「ん…………………………」


 すると、今まで眠っていたはずの少年がゆっくりと目を開け、数回瞬きをした。


「クワァァァァァ………よく寝た。ん?…何処だここは」


 そして少年は起き上がり、周りを見渡し始める。


「暗くてよく見えんな……」


 少年が起き上がり少し時間が経つと。洞窟の天井の隙間から光が差し込み、辺り一帯が照らされた。


「……………な、なんと美しい場所だ」


 光に照らされた洞窟の中には、紅色の花が地面から壁まで全体を覆い尽くす。幻想的な光景が浮かんでいた。


「こ、こんな洞窟は今まで見た事がない」


 少年は興奮したように立ち上がり、壁まで近づき撫でる様に触り始める。


 『ガラッッ!バシャンッッッ!!』


 しかし少年が触った途端、壁は花と一緒に崩れ落ちてしまう。


「ッッ触れただけで壊れるとは……相当昔からある洞窟の様だな…残念ながらここに住むことは難しそうだ」


 少ししょんぼりしながら少年は壁から離れる。


「はぁ………この洞窟は惜しいが、いつ崩れるか分からん。速めに外に出るとしよう」


 少年はふらつきながらと出口の方へ歩いて行く。


「……身体が思うように動かん。我は一体、どのくらい眠っていたのだ?」


 そんなことを言いながらも少年は歩いき続け、遂に出口へ出る。


「クッッ!ま、眩しいぃ」


 外へ出ると太陽の余りの眩しさに、手を前に出し日差しをさえぎった。


「はぁ……どうやら相当長く眠っていた様だな。外がありえん程、眩しく感じる。……ん?何だ?……この細長くて気持ち悪い物体は」


 少年は自分の視界に、白く細長い奇妙な物体が映り込んでいる事に気付く。…そしてその物体をしばらく観察していると、それが自分の体から生えていることにも気が付いた。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!な、なんだこれはぁぁぁぁぁぁぁ!!!!一体、我の体はどーなっているのだぁぁぁぁ!!!」


 少年は理解不能の事にパニックなり、泣き叫びながら洞窟から離れ、森の方へ走り去って行く。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」


 そのままどんどんと森の奥へ入って行ってしまった。


「あぁァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!」


 そうして泣き喚きながら、しばらく森を進んだ頃。少年は森の中の川にたどり着き、少し我に帰る。


「ハァ…ハァ…ハァァ……………川か。い、一旦水でも飲んで落ち着くとしよう。」


 少年は川へ近づき、水を飲むため川を覗き込んだ。


「ッッッッッッッッッッ!!?!!?」


 その瞬間、少年の時が止まる。


「………い、一体何だこの体は、我の体はどーなってしまったのだ。……これでは、まるで人族のようではないかッッ!!?」


 そこには、真っ白な体に灰色の髪と赤い瞳を持った。人族の男の姿があった。


「……う、嘘だ。何故、我が人族の姿になっているのだ。一体、我に何があったのだ………」


 呆然と川を眺め、自分が眠る前の最後の記憶を必死に思い出す。


「うぅぅ………はッッッ!!そうだ!!たしか我はバランと戦っておったのだ。そしてその最中に雷に撃たれて……ん?、そう言えばあいつ、精霊の森やら神のいかずちがなんちゃら言っておったな。あいつなら、バランなら何か知っておるかも知れん」


 少し落ち着きを取り戻した少年は、川の水を飲み一休みしてからバランと言う男を探し始めた。


「バラーーーーーン!!何処におるのだ!早く出てこーーーい!!」


「早く出て来ないと、またお前の大事に育てている畑を荒らしてしまうぞーーーー!!!」


「ついでにお前の家も破壊してやるからなーー!」


「………おーい!本当に良いのか!本当にやるぞ!!」


 しかしバランは一向に姿を見せず、時間だけが過ぎて行く。


「クソッッ!!バランの奴め一体何処におるのだ。もうすぐ夜だと言うのに」


 そして、とうとう日が沈んでしまう。さらに雨雲がかかり、徐々に雨が降り始めた。


 『パラ…パラ…パラ……ポタ………ザァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……』


 雨は勢いを増し土砂降りになって行く。


「クッッッ!!こんな時に雨だとッッ、は、早く雨宿り出来る場所を探さなければッ」


 少年は土砂降りの中、雨が凌げそうな木を探し始める。


 『ザァァァァァァァァァァァァァ………』


「はぁ…はぁ…はぁ……あ、あの木なら雨が凌げそうだ」


 少年は森の中でも一際大きな木を見つけ、そこへ入り込む。


「はぁ……ひとまず安心だな。しかし前々から思っていたが、ここは一帯何処なのだ。我の知っている森には、こんな大きな木は無かったはずだが………」


 『ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ〜〜〜』と風が吹く。


「ッッさ、寒いぃぃぃぃぃぃ!………それに、腹が減った」


 落ち着ける場所に来たお陰で、少年は自分が起きてから何も食べていない事に気づく。


「うぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜腹が減ってまともに動けん。何か食べれるは無いのか〜」


 少年は余りの空腹に耐え切れず木の周りに何か無いか辺りを探し始める。すると奇跡的にも木の実が近くに落ちている事に気が付いた。しかしそれ毒々しい見た目をした見るからに危険で不気味な木の実だった。


「き、木の実だ!!」


 だが、あまりの空腹により完全に気が狂っていた少年はその木の実を手に取り、躊躇なくかぶりついた。


「うッ…………………うまぁいぃぃぃ!!な、何だこの甘みはッッ!こんなに美味いもの、今まで食べたことがないッッッ!!」


 空腹状態だった事もあり、少年はその不気味な実をあっという間に食べ尽くす。


「う、美味かった。色は少し変だったが食べれば美味しいではッッッッッ!!?」


 その直後、強烈な目眩と吐き気が少年を襲う。


「うぅぅ……き、気持ちわr……………オ、オロロロロロロロォォォォォォォォ!!!」


 そしてそのまま汚い音と共に胃の中のモノを全て吐き出してしまう。


「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ………もう…ダメ………」


 バタッッ!と、少年はさっき自分がゲロを吐いたところに勢いよく顔面から倒れた。そして自分の顔についたゲロを見ながら最後にこう言った。


「ゲロって……………意外と……………………うまいな」





 少年は頭がおかしくなっていた。

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