その者、元竜王につき

パンテノール

プロローグ


 ここは数多くの大型生物が生息する森【グランブル】。そこで何やら言い争いをしている一匹のドラゴンと一人の男が居た。


「魔王バラーーーン!!、貴様ぁよくも我の城を破壊してくれたなぁ、ぶっ殺してやる!!」


 白く巨大なドラゴンは、そう言いながら頭に大きな角を持った男を、空を飛び全速力で追いかける。


「そんなの理不尽だぁぁぁぁ!!あんなのただの穴じゃないっすか!あれがグラノールさんの城だなんて誰も気付きませんって!」

「なにぃ我の城がただの穴だと!ふざけるな!!どー見ても他の穴と美しさが違うだろ!」

「いや分かんねーよッ!」

「あれは我が大きさ、形、全て完璧になるように作った最高傑作だぞ、そう簡単に作れるものではない。それは貴様はまるでゴミを払うかのように消し飛ばしおってぇぇ、絶対に許さん!!」

「あんたがうちの家の目の前にあんな馬鹿でかい穴作るからっすよ!あれが邪魔で外に出られなかったんです!!」

「だったら貴様は一生外に出なければいい話であろう」

「ふざけんじぁねぇ!このクソドラゴン!!」


 グラノールとバランは言い合いをしながらどんどん森の奥に進んで行く。


「ク、クソドラゴンだと!! クハハハ……決めたぞ。もうぜっっったいに許さん。貴様に我が奥義ドラゴンブレスをお見舞いしてやる」


 グラノールは口を半開きにし、喉の奥に炎を溜め始める。


「じょ、冗談ですって〜〜、ほ、本気にしちゃいました?俺がそんな事グラノールの兄貴に言うわけないじゃないっすか〜〜」


 焦ったバランは言い訳を始めるが、グラノールが炎をためるのを止める様子はない。そして二人は異常な速度で更に森の奥に進んで行く。


「分かりました!!直します!直しますから許してくださッ………」


 突然バランが立ち止まり。周りを見渡し震え始める。


「ん、どうした。ようやく諦めて我のドラゴンブレスを受ける気になったか」

「グ、グラノールさんこ、ここ『精霊の森』っすよ。こんなことしてねーで早く帰りましょう!」

「『精霊の森』?意味の分からんこと言ってないでいい加減諦めろ」

「あの『精霊の森』ですよ!知らないんすか!何処にあるか不明、『神の使い精霊』達が住むと言われる神聖な場所で、ここに来て森を荒らした者には天罰として、どんな生物も一撃で死んでしまう。『神のいかずち』が降り注ぐと言われてるんです!!」

「は〜〜……そんな作り話するほどドラゴンブレスが嫌なのか?分かった分かった。今回は一発で許してやるから大人しくしていてろ」

「全然分かってないッッッッ!!!!」


 グラノールはバランに構わず口を大きく開き、ドラゴンブレスの発射準備を始める。ために溜めた炎が口から漏れ出す。


「フハハ、喰らえ。【ドラゴンブレスッッッッ】!!!!」


 そう言いながら口から灼熱の炎が一気に溢れ出る。その炎はバランに向けて森の緑を焼き尽くしながら進む。


「あ、終わった〜〜!!!このバカドラゴンの竜生ここで終わりで〜す!!」


 バランは陽気にそう言いながら右手を前に出し、目の前に半透明の壁を何十枚も展開する。

 ブオォォォォォォォォォォォ!!!!!と、

激しい音を立てながら半透明の壁とブレスが衝突する。


「はあぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」


 バランは足を踏ん張りながら右手を突き出し続ける。しかしバランの前にあった半透明の壁が次々と壊れ始める。


「ブオォォォォォォッッッッ!!!!」


 そのままどんどんとブレスは勢いを増し、壁を壊して行く。


 『パリンッ!パリンッ!パリンッ!パリンッッッ!!』


 徐々にブレスとバランの距離が近づき残りの壁はもう数枚程度に。


 『パリンッッッッ!!』


 そしてバランの壁は遂に最後の一枚が壊れ、グラノールの炎も尽き両者満身創痍の状態に。バランは地面に崩れ落ち。グラノールも空から降りてきた。


「ハァハァハァ………なかなかやるではないかバランよ」


 膝をつき、立ち上がりながらバランは言う。


「あんた何やっちゃってんのぉぉぉ!!!精霊の森、あんたの炎で燃え尽きて無くなっちゃったんですけど!もう森じゃなくてただの砂漠なんですけど!てかこれ森だけじゃなくて完全に神の使徒もやっちゃってるよねぇ!?

あんたもう世界一の大悪党だよ!?俺より魔王向いてるよッッ!!!」

「うるさい、少し静かにしろ…それより何か変な音がしないか——」


 そう言いグラノールは目を閉じ、耳に神経を集中させる。


 バチバチ。バチバチ。何かの音が空から聴こえる。バチバチッ!バチバチッ!その音は徐々にこちらに近づいてくる。バチバチッッッ!!バチバチッッッッ!!!


 グラノールは目を開けて空を見上げる。そこには、見たこともないくらい大きな雨雲があった。

 するとバランが突然、今までに見た事がないくらい凛々しい顔つきになり語り出す。


「グラノールさん。あんたと出会って数千年、今までまで色々な事があったよなぁ………。

俺が千年かけて作った家を燃やしたり、

俺が大事に育ててた畑を荒らしたり、

俺が苦労して手に入れた財宝を盗んだり、

思い出せばキリが無いほどあんたとの思い出は、忘れられない物ばかりだよ。」

「そ、そんな風に我の事を思ってっくれていたとは…す、少し照れるな。」

「グラノールさん……地獄に行っても、お元気で。」

「あ、ああ我はいつも元気だから心配せんでッッッ!。」


 『バチィィィィィィィィィィィィィンッッッッ!!!!!!』

 大きな音と共に巨大な紅色のいかづちがグラノーラールに降り注ぐ。


「グワァァァァァァァッッッッッ!!!!な、なんだこれはァァ!!体がどんどん縮んで行くぞォォォ!!!」

「クハハハハァァ!!ざまぁ見ろぉぉ!!このクソバカドラゴンが!!お前には地獄がお似合いだぜ!!せいぜい苦しんで死んでッッッ!」


 『バチィィィィィィィィィィィィィンッッッッ!!!!!!』

 大きな音と共に巨大な紅色のいかずちがバランに降り注ぐ。


「ギヤァァァァァァァァッッッッ!!!!!!なんで俺もォォォォ!!!!」


 二人は苦しみながら小さくなり徐々に形が変わって行く。


 まるで人間とネズミの様に。








 それから数千年、とある洞窟で一人の少年が目を覚ます。


「クワァァァァァ………よく寝た。ん?…何処だここは」

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