第2話 『 優しくしないと怒るからな? 』


「ななボッチ、これってどうやって攻略するんだ。ふむふむ……なるほど、こうすればいいんだな。あんがと」


 ゲームに熱中するアマガミさん。その隣で、ボッチも動画を見る。


「よし、こうしてこうだ! うりゃうりゃ!」


 チラッと見れば、手だけではなく体全体を使って狩りを楽しんでいた。


「うおっしゃ勝った~! レア素材ゲットできるかな~……って、うお本当に出てきた⁉ マジか。口に出してみるもんだな。なあボッチ見てみろよ……」


 動画に集中していると、いきなり肩に腕が回って来た。

 慌てて振り向けば、アマガミさんがぷっくりと頬を膨らませていた。


「私を無視して動画見るとはいい度胸してるじゃねえか。しかも、見てるのがまさか〝綺麗なお姉さん〟の動画とはなあ」


 アマガミさんが怒っている。ボッチは慌てて説明した。


「なに? 声優さんの生ラジオだと? そういえばボッチは声優好きだもんな」


 こくこくと頷く。それから、アマガミさんがスマホを覗き込んで来る。


「綺麗で可愛いし髪も綺麗だな……ボッチはやっぱ黒髪の方が好きなのか? 好きだよな。部屋に飾ってあるフィギュアも黒髪の女の子がいっぱいだし。え、そんなことはない? 嘘吐け、ちゃーんとカノジョとしてチェックしてるからな」


 額にデコピンを喰らった。


「やっぱり、ボッチは黒髪の女子の方がいいか? どうしてって、ほら、私金髪だろ。いくら地毛とはいえ嫌かなって……は? 「アマガミさんの髪は綺麗だよ」って完全にお世辞じゃねえか」


 そんなことはない、と首を横に振っても、アマガミさんは少し寂しそうだった。


「……うおっ。なんだよ急に。いきなり頭撫でてくんな。やめろぉ。こういうの慣れてないんだよ。「アマガミさんの機嫌が直るまで」って、べつに怒ってないし」


 でも拗ねてるよね、と言えば、アマガミさんはほんのり頬を赤くした。


「……拗ねてなねぇし。やめろぉ。撫でんのやめろぉ。「え、嬉しくないか?」って……そら、どっちからって言われたら嬉しいに決まって……あっ。やっぱ今のナシ!」


 アマガミさん、慌てて顔を真っ赤にする。


「おい! そんな素直じゃない子どもを前にした親みたいな目で私を見るな⁉ 全然拗ねてないからな⁉ 「本当のこと言うまで止めない」って……悪魔か悪魔はっ⁉」


 アマガミさんの方が力強いからボッチの手なんかすぐに引き離せる。でもそうしないのは、内心やっぱり嬉しいのだろう。

 視線を逸らしたアマガミさん。ごにょごにょと口を動かしたあと、


「……うん。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけな。その、嫉妬した」


 恥ずかしそうに答えてくれたアマガミさん。


「なんでニコニコしてやがる……「アマガミさんが一番好きだよ」って当たり前だろ。私だってお前が一番だからな。それに、二番とか言い出したらぶっ殺す」


 アマガミさん、怖い顔をした。 

 でも、すぐに口許を緩めると、


「冗談だよ。ぶっ殺したらお前と一緒に暮らせないからな。監禁かビンタ百回で許してやる。――それと、ボッチ。今から私が一番だって証明しろ」


 どうしたらいい? と問えばアマガミさんは「んなもん自分で考えろ」と返されてしまった。

 数十秒。たっぷり考えて、ボッチはニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべるアマガミさんをソファーに押し倒した。


「は⁉ ちょちょっと待てボッチ! たしかに一番だって証明しろとは言ったが、こういうのはまだ早いだろ⁉ 「これが一番証明になるかな」って、タンマタンマだ! こういうのは早い! 別のカタチで証明してくれ! そ、そうだ! キスで許してやる! だから……ひゃん!」


 可愛い声を上げたアマガミさん。


「あ、あとで覚えてろよボッチ。お説教してやるからな。「挑発してきたのはアマガミさんでしょ」じゃねえよ! 私はべつに……その、ちょっとイチャイチャしたかっただけで……だぁ⁉ 可愛いって言うな! 照れちゃうだろうがっ」


 もっと照れて欲しいから、お説教の前にたっぷり可愛いアマガミさんを堪能しておく。


「あっ……本当に、こういう時はすげえ男前だよなボッチは。そういうところ大好きだぞ……「ならもっとカッコいい所見せないと」とか、これ以上魅せられたら私が耐えられないんだが、はぁ。もう好きにしろ。――ただ、優しくしないと怒るからな?」


 言下の優しい声音に、ボッチはこくりと頷くのだった。



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