【お試し読版】学校では怖いと有名なJKヤンキー。家ではめっちゃ可愛い。

結乃拓也/ゆのや

第1話 『 私も愛してるぞ、ボッチ 』

「いってーな。どこ見て歩いてんだ」


 休み時間の廊下で数少ない友達と話ながら歩いていると、ボッチは学校で有名な女子ヤンキーにぶつかってしまった。

 ごめん、とぺこりと謝ると、彼女は不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「ふんっ。せいぜい前に気を付けて歩くこったな。じゃないと、また私みたいな怖いヤツに絡まれるぜ、ボッチくん」


 八重歯を不気味に魅せて忠告するアマガミさんに、ボッチはまたぺこりと頭を下げる。


「あ? なんだその顔は、なんか文句あんのか? そうだよな、ないよな。なら人の顔をジロジロ覗くんじゃねえよ。分かったか? あぁ、分かればいいんだよ」


 アマガミさんは怖い顔のまま去って行った。


「……たくっ。しょうもないヤツだな」


 ***



 ――ガチャリ、と玄関を開けると、廊下からぱたぱたと足音が近づいて来る。


「おう、今日はいつもの友達とゲーセンに遊びに行かなかったんだな」


 うん、と頷くとアマガミさんは嬉しそうにはにかんだ。


「なんだなんだ。もしかして、そんなに早く私に会いたかったのか。お前ってやつは本当に可愛いやつだなぁ……ってそこは素直に頷くんじゃねえよ! ……たくっ、調子狂うな」


 照れたアマガミさんは可愛い。


「おいやめろ、そんな目で私を見るなっ……は? 「だってアマガミさんが可愛いからつい見ちゃうんだ」……って、だから私に可愛いとか言うな!」


 顔を赤くするアマガミさんは必死にその顔を隠そうとする。


「本当にお前ってやつは。学校だとあんなになよなよしてんのに、家だとすぐ強気になるよな。私を揶揄ってくるのなんてお前だけだぞ? ……「全部本音だよ」って、だから照れるようなこと言うんじゃねえよ! 私が恥ずかしいだろうが⁉」


 照れて、呆れて、困るアマガミさん。外ではそんな表情決して見せることはないけど、家だと表情がころころと変える。


「次私を揶揄ったらゲンコツだから」


 調子に乗りました、と慌てて反省すれば、アマガミさんは「ふっ」と笑った。


「冗談だよ。でも、あんまり調子に乗るとデコピンは食らわせるからな。いいな?」


 こくこくと頷けば、アマガミさんは満足そうに八重歯を魅せた。


「素直なやつは好きだぜ私。え、なになに……「僕はアマガミさんの全部が好き」ってだからそういう事を言うなって! どうしてって、んなもん恥ずいからに決まってるだろ。そういうところは素直じゃなくていいんだよっ」


 赤くした顔を隠すアマガミさん。


「はぁ。なんだかどっと疲れた。ほら、さっさと家の中に入ろうぜ。いつまでも外にいると冷えるだろ。私は寒くなってきた」


 ぶるぶると体を震わせるアマガミさん。

 なら抱きしめて温めてあげようか、と悪戯に言えば、アマガミさん、また顔を赤くした。


「そ、そんなことしなくていいわっ⁉」

 

 ***


「ふぅ。やっぱ家はサイコーだな」


 いつもの怖い顔もカッコいいけれど、家でくつろいでいるアマガミさんも可愛かった。


「なんだボッチ。私の顔になんか付いてるか? ……なんでってお前、さっきから私の顔ずっと覗いてるじゃねえか。あ、そういえば今日学校でもジッと見てきたよな」


 うん、と頷けば、アマガミさんは睨んできた。


「なーんで私の顔見てたんだぁ? 理由を言え……「学校のアマガミさんもカッコよかったから」……なるほど。それはそれで悪い気がしないな」


 カッコいい、と褒められてアマガミさんはご満悦気に鼻を擦った。


「で、家でも私を見てくる理由は? ……は⁉ 「家でも可愛い顔してるからずっと見てたくて」って……はぁ、お前は本当に、なんでそんな歯に浮く台詞を平気で吐けるんだ? 私にそんなこと言えるのお前だけだぞ」


 アマガミさんは少し悲しそうな顔で言った。


「こんな訳アリの女のどこが好きなんて、お前相当の物好きだよな」


 そんな事はないよ、と首を横に振ってもアマガミさんは納得してくれなかった。


「私を好きでいられるなら物好きでもいい……ってバカ野郎。私はお前の心配をしてるんだよ」


 頭にデコピンをくらった。けっこう痛い。


「お前はすげぇ優しい男だ。それに見かけによらず頼り甲斐がある。学校ではなよなよしてるけどな。でも、で、デートするときは男らしくリードしてくれるし。だから不思議なんだよな。本気になればカノジョなんてすぐに作れそうなお前が、なんで私を好きなのか」


 不安を孕ます瞳に、ボッチはありたっけの想いを伝えた。

 それはまるでプロポーズのように。

 するとアマガミさん、たちまち顔を真っ赤にした。


「わ、分かった! お前が私を好きな理由はめっちゃ分かったから! だから落ち着けって。……たく、お前はドストレート過ぎるんだよ。愛してるとか、いますぐ結婚したいとか……き、キスしたいくらい大好きだとか」


 事実だよ、と言えば、アマガミさんは照れた。


「お前、私のこと大好きすぎやしないか?」


 こくこくと頷く。


「やっぱ物好きだなお前は。でも、そうだな……その気持ちは、凄く嬉しいよ」


 アマガミさんは世界で誰よりも美しい微笑みを浮かべた。


「ふふ。私にたくさん愛情注いでくれるお前には、私からもご褒美をあげないとな」


 アマガミさんは凶悪な笑みを浮かべる。

 その顔にぞくぞくしながら何をされるのかと身構えれば、


「ジッとしてろよ、ボッチ」


 ゆっくりと、アマガミさんの顔が近づいて来る。


「喜べボッチ。私からのご褒美は――特上のキスだ」


 ニタリと笑った後、アマガミさんは僕の唇を奪った。


「私も愛してるぞ、ボッチ。――ちゅっ」


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