元最強の殺し屋が三人の最強能力者と異世界に渡ったのだが、世界樹を手に入れるのが無理ゲーすぎて自分の世界が破滅しそうなんだが。

@yuzukitoumu

出会いと転生、黒竜現る。

第1話 回想


 勝たなければならない。

 絶対に。

 恋をした、少女達のために。

 そう思った。

 目の前には、空想の中でしか存在しないと思っていたドラゴン。

 黒く、硬い鱗を持ってして俺達の前に立ちはだかっていた。

 妃(きさき)がサイコキネシスを利用して、ドラゴンを押さえつけている。

 そのスキに、梓紗が精霊術を使った二本の剣さばきで目を潰す。

 最後に魔術師のルーナが、巨大な紅蓮炎を作り出す。

 三人のコンビネーションで、ドラゴンを翻弄する。

 しかしそれに負けじと、ドラゴンの大きな口には魔法陣が浮かび上がり蒼い炎を撒き散らす。

 三人は散開する。

 それを高みの見物をかましている俺は、彼奴等に比べればただの人間にすぎない。

 俺はなにもできないのだ。

 世界樹の力(ヴィータ)を使っても、ただの銃や剣にしか変形させることはできない。

 そんなもので、あの三人の少女達に及ぶことはできない。

「『朱雀』!」

 銀色の二本の髪をなびかせた、精霊術士。星見梓紗(ほしみあずさ)は叫ぶ。

 すると体に赤色の炎が宿り、まるで体重などないかのように空高く跳躍し空中で反転する。

 持っている小太刀と脇差しを振りかざし、左の翼を斬り落としにかかる。

「『白虎』!」

 炎色が変わり、白銀の炎が梓紗を包み込む。

 先程の軽さが嘘のように、強い重力でもかかったように重くなった二刀を突き刺す。

ギャアァァアァァァァ

 ドラゴンが叫びを上げ、空に逃げようとする。

「我から逃げることなど、不可能だと知れ!」

 美しくなびく金髪を纏い、右目の金色と左目の白銀の瞳を大きく開く魔術師。ルーナ=ウィリアムズ。

 青いベレー帽が跳ねたかと思うと、ドラゴンのものとは色も形も違う巨大な金色の魔法陣が空に展開する。

 そこに渦雲が発生したかと思うと、強力な雷が炸裂する。

 梓紗はそれを縫うようにドラゴンから離脱する。

 麻痺しているのか、硬直している。

 待ってましたと言わんばかりに、超能力者である妃=マルチネスが首元へテレポート。

 そして、蒼く短い髪をなびかせて空中で二回転回り、右手のまわりの空気をサイコキネシスで圧縮する。

「あたしの全力、受け取りな!」

 その手刀が首元にあたった瞬間。

 ドラゴンの首は、綺麗にスッパリと斬れた。

 妃は地面に落下する前に、サイコキネシスでゆっくりと梓紗とルーナの元へ駆けつける。

 三人は、間違いなく、俺の居た世界では<最強>だった。

 俺の知らない、能力、力、を使い、異世界の門番となった黒竜をあっさりと倒してしまうほどに。

 俺だけが、平凡だった。

 ヴィータを扱える自分は天才だと思っていた。

 少なくても、殺しにおいては。

 手に収まるものなら、構造を知っていれば兵器だって作り出せるのだ。

 ヴィータを使えば、その時だけ体は強化される。

 しかし、黒竜相手にあんな大立ち回りは不可能だ。

 なぜ俺があの三人と、呼ばれたのだ?

 俺がここに来たのは間違っていたのか?

 それとも運命なのか?

 それを深く、考え込んだ。



 ◇

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る