14人め/ とあるゴブリンの独り言
我こそは魔王・ゾーゴンなり!
愚かなる人間どもを駆逐し、この世界を正しき闇へ導くものなり!
「ゴブッ! ゴブゴブゴブッ! ブッゴォー!」
ついに憎き勇者との決着をつける時が訪れ、我は満を持して戦いに臨んだ!
だが奴め――!
卑怯にも『光の剣』なぞを持ちだし、我に戦いを挑みおった!
――馬鹿なッ!
アレは確かに封印したはず!
しかもなぜ、あんなヘナチョコ勇者なガキが持っておるのだ!?
「ゴブゴブッ! ゴゴゴブゴッ! ゴブゴォー!?」
戦いは一瞬であった。
奴の卑しき剣が我の身体を貫き、そのまま邪悪なる光へ呑まれてしまったのだ。
だがそれは想定内ッ!
これこそが我が望みッ!
――そう! 我は生まれ変わるのだッ!
偉大なる大魔王・バリゾーゴンへと!
「ゴブッ! ゴゴッゴゴブッ! ゴゴゴーブゴッゴ!」
――さきほどから何じゃ?
どこぞのゴブリンめが
偉大なる大魔王の前であるぞ! 控えぬか!
ううむ、やはり新たなる肉体ゆえか思うように力が出せぬ。
――それに、ここはどこじゃ?
見たところ、かなり低レベルなエリアに見えるが。
「おい、おまえ新入りか? しっかり人間を襲うゴブ!」
「――なんじゃと? 貴様、我を誰だと思うておるゴブ!」
「エラそーだなゴブ! ゴブリンに名前は無いゴブ!」
目の前に現れたゴブリンめは暴言を吐き捨て、我に蹴りを食らわせおった!
なんという不敬か! 粛清せねばならぬ!
我は最大火力を誇る禁呪を唱え、反逆者へ腕を伸ばした――!
――その時、気づいたのじゃ。
我は大魔王の肉体ではなく、貧弱なゴブリンの姿へ変わっておったのだと……。
なんということか――ッ!
転生には成功したものの、これでは世界を闇へ導くことなどできぬ!
あの憎き勇者めが、卑怯な罠を使ったに違いない!
――とはいえ、いつまでも悔いておっても
我はゴブリンの習性に従い、人間を襲うことにしたのじゃ。
「綺麗なお花さん! 今日もよろしくねっ!」
声の方角を見ると、花畑の中で女が花を
女といっても未熟なガキではあるが、致し方あるまい――。
――我が獲物へ向かおうとした、まさにその時!
背中に鋭い痛みが走った!
「ゴビィィー! ビギィ――ッ!」
我は情けない叫び声と共に振り返る!
そこには――
「おか……さん……おに……たん……ゆくん……どこ……」
「ゴブゴブッ! ゴゴゴブッ!」
なんじゃ、こやつは!
これほどまでに闇を
そやつは謎の言葉を発しながら、なおも我に向かって剣を振り下ろす――!
「ギャビィー! ビギャア――!」
「とらっく……とらっく……どこ……とらっく……」
一撃でトドメを刺せるにも関わらず――
そやつは、我の身体を何度も斬り刻みおる!
なんという邪悪か! なんという暴虐か!
この大魔王をもってしても、恐怖を感じるほどの所業!
「かえ……りたい……まずい……きたない……とらっく……」
奇怪な呪文を唱えながら我を肉片へ変え、奴は
なんなのじゃ。あの闇は。
この世のモノとは思えぬ!
――そうか、あれが腹心より聞いておった『転生者』という
なんでも、想像を絶するような地獄から逃れてきたという――
異世界からの侵略者ども!
あの者に宿っておった闇も、それを思えば説明がつく。
「おい、おまえ新入りか? しっかり人間を襲うゴブ!」
気づけば我の肉体は元通りに再生され、初めの場所へ戻されておった。
ああ、ゴブリンとはそういうものじゃ。
何の不思議もない。
「わかったゴブ。行ってくるゴブ」
「おう、くれぐれも妙な戦士には気をつけろ! 奴は魔王様より恐ろしいゴブ!」
先輩ゴブリンは忠告を残し、去っていきおった。
――まさに地獄じゃ。
あの悪魔めは、ずっとこのエリアを周回しておるのか……。
「ギュビィー! ゴビャア――ッ!」
遠くから、
もはや我らは永遠に、あれに
それにしても――
異世界の、なんと恐ろしきことか!
たった一体の悪魔によって、一つのエリアが地獄へ変貌してしもうた!
「どこ……とらっく……かえ……りたい……おか……さん……」
背後から
また我に、恐怖と絶望の責め苦が訪れるのじゃ。
「ブルルギィー! ゴルビャア――ッ!」
嗚呼……。
こうなるのならば、転生などせねば……良かったの――。
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