11人め/ とある木こりの独り言

 プラスチックって知ってるかい?

 まあ、世界からぼくめつされちまって久しい。

 最近の若ぇのは知らねぇかもな。


 昔は夢の素材なんて呼ばれててな。

 信じられねぇかもしれねぇが、世界中の何もかもがソイツで出来てたのさ。


 でもな、ある時を境に急に悪モン扱いされ――

 あっという間に世界からちくされちまった。

 散々持てはやしておきながら、一時の感情や価値観に流されて『ポイ』だ。


 相手が人だろうが物だろうが関係ねぇ。

 どれだけ役にたとうが――

 ただ一つの側面でも『悪』と決め付けられちまったら居場所は無ぇ。

 いつの世も人間なんて勝手なモンなのさ。



 俺はドデカイ斧を背負って家を出る。

 丸太で出来たログハウスってやつだ。

 もしかしたら俺が建てたのかもしれねぇな。


 ――ああ、木材は素晴らしい素材さ。

 あの世界も、すっかり木ばっかになっちまった。

 そりゃ、木がありゃ、家でも道具でもなんでも造れるしな。


 もっと昔――プラスチックが台頭する前には、「森をだいじに!」だの「地球にやさしく。みどりをまもろう」だの言ってたそうだが、さすがにタチの悪い作り話だろう。


 もし本当だったら、人間ってのは心底身勝手で醜いいきものだと絶望しちまうわな! 



 ――もう察したと思うが、俺はこの世界のモンじゃねぇんだ。

 そう、俺自身も――正義に狂った連中に駆逐されちまったのさ。


 最期は酷ぇ拷問を受けたよ。

 これ見よがしに、俺の会社で作ったを使ってな。


 体の感覚が無くなるまで痛めつけられ――

 死の間際に、けんきょに謝った。

 『申し訳ございません! 来世では自然と共に生きてまいります!』ってな。


 無理矢理言わされたようなモンだったけどな。

 それで、気づいたら異世界ここに居たってワケだ。



 俺は小柄なジジイになってた。

 白雪姫って知ってるかい?――アレに出てくる小人みたいな感じさ。

 ドワーフだかなんだか、っていうんだっけか?


 体はっこいがパワーはある。

 俺は毎日樹をって、っとい丸太をヒョイっとかついで戻る。

 それを加工して売るのが仕事さ。

 まあ、悪くないね。


 最初はさ――

 早くも俺のが始まったのかと思ったんだが、どうも違うようだ。


 ここはいわゆる『異世界』ってヤツなんじゃねぇかな。

 娘の部屋に残ってた漫画に載ってたんだ。


 ――ん、娘かい?

 妻と一緒に出てったよ。俺をな。


 元々、反抗的な娘だったが――

 環境保護活動に心酔してからは、特に酷くてな。


 それで『正義の味方』に情報を流したのさ。

 「汚染物質をき散らした、悪の元凶がこの家に居る!」ってよ。


 俺は独りの寝込みを襲われて、ベッドに縛り付けられたまま……

 ――あとは思い出したくねぇな。



 ああ、ウチの会社が作ってたのは主に医療器具さ。

 やましいモンじゃない。


 プラスチックは、衛生面と防犯面にも大きく貢献してたからな。

 つまり、人間の命を守ってたのさ。


 ――だが裏切られて捨てられるのは一瞬。

 相手が肉親であってもな。皮肉なモンだ。



 今日も丸太を割り、まきや材木に加工する。

 すると丁度よく荷馬車を引いた業者がやって来て、全部引き取ってくれるんだ。


 死神みてぇに辛気臭ぇつらした兄ちゃんからカネを手渡されるが、あいにく俺は買い物にゃ行けねぇんだよな。

 動ける範囲は、この家の周りの森だけだ。


 理由? むしろ俺が知りたいね。

 ここへ来て以来、飯にも便所にも行ってねぇ。

 ――なぜなら、もうすぐ俺の一日が終わるからだ。



 「ねぇ!」

 「なんでぇわかぞう! まぁせっかく来たんだ、一泊してけ!」

 「はい!」


 いつものように現れた金髪の子供と、いつものやり取りをする。

 そいつが『はい!』って返事をしたと同時に――

 俺の視界は真っ暗になって、意識も飛んじまうんだ。


 次に気がついた時には、俺はまた斧を背負って家から出るところに戻ってる。

 った樹も元に戻ってやがるし、どうにも慣れねぇ感覚だ。

 体は疲れちゃいねぇし、別にいいんだけどよ。



 俺は森に入って斧を振る。

 ヨーホーヨーホーって歌いながらな。

 ――あ? それは海賊だって?


 おっと、今日も樹から真っ赤な樹液があふれてきやがる。

 まぁ異世界だ、そういう樹もあるだろうさ。

 現実むこうでも赤い汁を出す植物はあったしな。


 だが、景気よく斧を振り下ろす度に声が聞こえんだよ。

 若ぇ娘の、どこか懐かしい声がな。


 ――よく見たら、幹に顔みてぇな不気味な模様が浮き出てやがった。

 これのせいだろう。

 客からクレームが入ってもいけねぇし、ブッ叩いて潰して、綺麗に削り取っておこう。

 あとは持って帰って解体して、いつもの業者に売るだけさ。



 そういや、生物学的には人間も植物も、同じ仲間なんだってな。

 案外、この樹も『転生者』だったりするかもな。


 まぁ、そうだったとしても俺は決められた仕事を続けなきゃいけねぇ。

 悪いが――これからも毎日、父さんに付き合ってもらうぜ?

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