8人め/ とある少女の独り言

 突然だが、俺はロリコンだ。

 ――ああ、そんな顔をされるのはわかっている。

 この社会には、俺のような者の居場所が無いということもな。


 もちろん、普段は隠している。

 社会のルールには従ってきたつもりさ。


 ちゃんと大人の女と結婚し、子供も三人産んでもらった。

 残念ながら息子ばかりだったがね。

 ――なぜ残念かって?

 ははっ、察してくれたまえ。


 さすがの俺も、これ以上の子供を養える余裕はない。

 年齢的にも、経済的にもね。


 それに、現実世界で生きる以上、もう俺の『望み』が叶うことはないだろう。

 ――そう、残りの人生に絶望したのさ。

 そして選んだ。『異世界転生』だよ。



 準備はばんたん整えた。

 まずはの処分だ。


 PCをさり気なく処分した。

 故障したということにしてね。

 持っているだけで異常な罪人扱いされる以上――

 あれをとして遺すわけにもいかないだろう?


 蓄えも充分なはずだ。

 こう見えて俺は優秀な方でね? それなり以上の金は稼いできた。

 息子らが成人するまでは安泰だろう。


 なんなら二人くらいニートになっても問題ない。

 三人だと厳しいかもしれんが、あいつらなら大丈夫だろう。

 ――おい、大丈夫だよな……?



 俺は満を持して、異世界へのゲートをくぐった。

 第三者は巻き込まず、事故に見せかけるのも忘れていない。


 保険金が下りれば妻にも恩を返せるだろう。

 望みはもちろん『異世界で幼い少女になりたい』一択だ。

 ――実にけんきょだろう?


 なぜ自分が少女になることを選んだのか、疑問かね?

 これでも社会で真っ当に生きてきた人間だ。

 異世界に行ったからといって羽目を外すわけにはいかない。


 妻にも恩義がある。

 誰にも迷惑を掛けず、自分自身をことにしたのさ。



 ――嗚呼ああっ!

 異世界で、念願の少女になった俺は歓喜した――ッ!

 さっそく鏡の前で、溜め込んできたリビドーを解放させたよ!


 エプロンドレスを着た、金髪の――外国風の少女だ。

 黒髪の素朴な少女になることを期待したが、まあ悪くないだろう。


 ずっと楽しんでいたいところだったが――

 残念ながらすべき役割があるようだ。


 俺は服装を整えてカゴを持ち、花を摘みに向かわなければならない。

 花を摘んで、町で売る。

 それが俺に与えられた役割だ。


 ――ああ、どちらも言葉そのままの意味だ。

 妙な想像をするのは、よしてくれたまえよ?



 「綺麗なお花さん! 今日もよろしくねっ!」


 俺は、実に純真で無垢なる台詞せりふと共に花を摘む。

 誰が見ても健気で純潔な少女に見えることだろう。


 さきほどのおのが行為を思い出し、自然と含み笑いが漏れる。

 ――ははっ、綺麗なものほどけがれているものなのさ!

 摘んだ花をカゴに入れ、次は街角で売るとしよう。



 「ありがとうございましたっ! またお願いしますねっ!」

 「ぅひひっ。ああ、お嬢ちゃん。また……、また来るからね? げひっ」


 町の陽気な大人たちは爽やかな笑顔を浮かべ、次々と花を買っていく。

 不気味なほどに平和で、平穏な世界だな。


 ――だが、時折妙な視線を感じる。

 俺が客にお辞儀をした瞬間、足元に嫌な視線を感じるのだ。

 これはもしや――!


 俺が振り返ると――

 金髪の少年が芝生しばふの上に寝転がり、こちらを見ていた!

 ニヤニヤと鼻の下を伸ばし、明らかに俺を覗いている!

 あのロリコンめ! 実にけしからん!


 違うな、あの年代ならば『健全な異性』として認められてしまう。

 かつだった。

 それならば、俺も少女ではなくとして転生していればッ……!


 ――いや、だめだ。それは高望みというものだ。

 あくまで謙虚でなければ。


 それに、俺はもう自分を隠す必要も無くなった。

 家に帰れば存分に、好きなだけ楽しめるのだ!



 花を売り終えた俺は家へ戻る。

 これが俺の一日のルーティンらしい。


 行動に制限はあるが、比較的自由だ。

 どこに行ってもルールに縛られるのは仕方が無い。


 ちなみに、あの少年は最後まで俺のスカートの中を鑑賞していた。

 悪いがは俺だけのものだ!

 誰にもくれてやらん!



 しかし、こうも余裕があると前世のことを色々と思い出してしまう。

 家族のことはもちろん、遺品のことも心配だ。


 健全な社会人であった俺は、携帯端末にはお宝は保存していない。

 だが、それ関連のアカウントは消去しただろうか?

 クラウドは? アカウントから履歴を辿られる可能性も忘れていた。


 家族に――妻に保険は下りただろうか?

 もう戻れないというのに、どうしてこんなにも気になってしまうのか――。



 俺は鏡の前で指を汚しながらも、頭に浮かぶのは遺した家族のことばかり。

 思えば、事故を装うために仕方が無かったとはいえ――

 遺書や遺言の一つも遺せなかったな。


 妻には本当に感謝している。

 支えてくれてありがとう。一緒に居てくれてありがとう。

 来世では是非、君が可愛い幼女の頃に出逢いたいよ。


 息子たちよ、母さんを頼んだぞ。

 あと――くれぐれもニートは、二人までにしてくれよ――。

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