3人め/ とある盗賊の独り言
オカルトって信じるかい? まぁ、普通は信じねぇよな。
俺だって、オカルト信じてる奴なんざに関わりたくねぇんで、避けちまってたくらいだ。
――でもよ、今思えば、あいつらの言ってたことも、案外本当だったかもしれねぇな。
あの日、俺は追われてたんだよ。
少なくともまともな警察は、いきなり殺しに掛かってきたりはしねぇからな。
早い話、そのヤベェ連中と関わって、俺は命を狙われてた。
もう逃げ道は
そんな時に思い出したんだよ。
――そう、『異世界転生』の話をな!
俺は歩道橋に登り、大型トラックが来るのを待った。
そして、ドンピシャのタイミングで飛び降りたのさ!
――もちろん、トラックの真ん前に、だ!
「へっへっへっ! いい女だぜ!」
「キャー! 助けて! 殺されるわー!」
そして、気づいたら
――ああ、ちゃんと願いってヤツも唱えたぜ。
『異世界でも何でも良いから逃がしてくれ! ついでにイイ女も頼むわ!』ってな! 俺にしちゃ
神も悪魔も信じちゃいなかったが、まさか本当に叶うとはな。
そういや……ガキの頃に、犬の小便引っ掛けられてたお地蔵さんを磨いたことがあんだよ。それが効いたのかもしれねぇな。
「へっへっへっ! いい女だぜ!」
「キャー! 助けて! 殺されるわー!」
俺はこの穴蔵で山賊だか盗賊だか――まぁ、ゴロツキみてぇな姿になっててよ。
それ自体は悪かねぇ。元の俺だってこんなモンだ。
――んで、目の前にイイ女が居やがんだよ!
しかも、ご丁寧にベッドの上にだ!
俺は感謝したね! これだよ、これ!
俺が求めてた世界にありがとよ、ってな!
「へっへっへっ! いい女だぜ!」
「キャー! 助けて! 殺されるわー!」
――でもよ、
イイ女を見て『イイ女だぜ!』って言う!
ただそれだけなんだよ!
これ以上、指一本も動かせやしねぇ!
せめて
おまけに匂いを嗅ぐ事すら出来ねぇでやんの!
何だよこれは! どういう地獄だよ!
「へっへっへっ! いい女だぜ!」
「キャー! 助けて! 殺されるわー!」
しかもよ、何となく思い出したんだが――
これゲームの世界なんじゃねぇか?
ガキの頃やった事あんだよ。兄貴と一緒にな。
俺がこの辺まで進めると毎回、兄貴にデータ消されてたんで覚えてんだよ。
ここは『盗賊団のアジト』ってやつだ。
俺はボスでも何でもねぇ、ただのザコキャラになってやがんだよ。
「へっへっへっ! いい女だぜ!」
「キャー! 助けて! 殺されるわー!」
まぁ良いよ。
主人公なんてガラじゃねぇし、ボスなんて器じゃねぇのもわかる。
――でもよ、
「ねぇ!」
「なんだテメェは! ここは俺たちの縄張りだ! とっとと失せやがれ!」
俺が女を眺めてると、いきなり金髪のガキが話しかけてきやがった。
ああ、こいつ見覚えあるぜ! 勇者ってヤツだ!
懐かしいじゃねぇか!
俺も昔は、ここで三十回くらいやり直したモンだ!
「はい!」
「けっ! わかったら出て行け!」
――おいっ! 何が『はい!』だよ、コイツ!
そこは『いいえ!』だろうよ!
んで、その背中の剣で俺の腹を『グサッ!』よ!
それで俺も世界も救われる! そういうオチだろうよ!
そいつは俺と女を無視して、部屋の中の宝箱を
他人の物をパクるとは、とんでもねぇ野郎だ!
母ちゃん泣いてるぞ!
「――
おいおい! マジかよ!
勇者の野郎、魔法で帰りやがった!
アイツ何考えてんだ! この女と世界と、俺を救ってくれよ!
テメェは救世主様だろうよ!
「へっへっへっ! いい女だぜ!」
「キャー! 助けて! 殺されるわー!」
また俺は女を眺めるだけの仕事に戻る。
気のせいか、女が哀れむような目で俺を見てやがる。
いや、案外――コイツも俺と同じなんじゃねぇか?
たぶん、『イイ女になりたい!』とか願っちまったんだろうよ。
あと、今更なんだけどよ。
『転生』したってことは、つまり俺は死んだんだよな?
じゃあ、もしかしたら
異世界なんて良いモンじゃなく……。
「へっへっへっ! いい女だぜ!」
「キャー! 助けて! 殺されるわー!」
『助けて!』か……。
そう俺も叫びたい気分だぜ。
もしかしたら、俺らは最悪の選択をしたのかも、しれねぇな――。
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