第14話 僕、私
「ただいま……」
部長に渡された怪しげな薬を飲んだその後、僕の体に目に見えた変化は起こらなかった。経過観察を行いたいと部長は僕に経過シートを渡してきたが、面倒な事この上ない。
何故僕が部長の実験に無理矢理付き合わされにゃならんのだ。
愚痴りつつも早く疲れを取りたい僕は、足早に帰宅した。
「お帰り、にぃさん。ご飯できてるよ」
玄関のドアを開けるとアラタが立っていた。扉を挟んで直ぐ目の前にいるため、偶にそのままの勢いでアラタに衝突してしまう事がある。
ていうか怖いよ。いつから待ってたのさ。
まぁいいか。
「ただいま、アラタ」
アラタの横をするりと通り抜けようとすると、アラタの腕がぬるりと俺の腕を組み締めた。
これもいつもの事なのでスルーする。
しかし、どうも体が重くてならない。フラフラする。これはどうも日頃の疲れとかそんな言葉では表せないような気がする。
「今日は
バタッ
£££
「—————っつ、あったま痛い……」
目を開けると、そこは僕の自室のベッドの上だった。最後の記憶は玄関でのアラタの声だ。どうやら僕は意識を失っていたらしい。
窓から差し込む光が目に入る。どうやら、一晩経ってしまったらしい。どれだけ寝てたんだよ。
「あ、起きたっ!にぃさんっ!体、大丈夫?無理してない?今お水持ってくるねっ!」
隣がいきなり騒がしくなったと思い顔を向けたところ、そこにはアラタの顔があった。僕のベッドに共に収まっていた。いろいろと捲し立てた後、部屋を出ていった。
玄関で倒れた僕を、きっとアラタがここまで運んでくれたのだろう。先ほどの言葉を聞く限り心配してくれている気持ちは伝わってくるが、それでもベッドに収まっていたところを見ると、邪な動機があった事が予想される。
僕は天井を見上げながら考える。なんで急に倒れたんだろ。何か変な事なんて————あったな。麻里部長から貰った怪しげな薬の存在を思い出した。
経過を観察しろとは言われたが、まさか自分がぶっ倒れる経過まで観察する羽目になるとは思わなかった。
だがまぁ、体自体は今は落ち着いている。少し体が軽くなったような感覚はあるけど、それも僅かな違和感だ。
「にぃさんお待たせっ!お水持ってきたよ」
水を汲んできたアラタがコップ片手に扉を開けて入ってくる。
「ありがとうアラタ」
「にぃさん、大丈夫?突然倒れたりして、どこか具合が悪いの?診てあげようか」
診てあげるとは言われるが、アラタにそんなことをされた日にはもっと色々なことをされてしまいそうな予感があるので、遠慮しておこう。
「……いや、それはいいや。体は大丈夫そうだし、今のところ変なところも……」
体を起こしてアラタから水を受け取った時、それまであった体の違和感が確信に変わった。
……通りで、軽いと思ったわけだ。
「どうしたの?にぃさん」
「い、いや!なんでもないよアラタ。お水、ありがとうね」
不思議そうにこちらを見てくるアラタに、必死で誤魔化す。
何故かアラタにはこの事を知られてはいけないような気がした。
「……ふーん、まぁいいや。じゃあにぃさん、大丈夫そうなら下に来てよ。サキと朝ご飯用意して待ってるから」
アラタが部屋を出た事を確認すると、別の事態を急いで確認する。
そこには、やはり無かった。
「僕、私になってる……!!!」
?????
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