帰宅と考えること

「ただいま」


「りーちゃん、送ってきた?」


「うん、ちゃんと送ってきたよ」


「よかった、晩酌しようか?」


「うん」 


俺は、ソファーに座る。


美陸みろくは、ビールと乾きものを持ってきてくれた。


「俺、ズルいよな」


「何が?」


グラスにビールをうつしてくれてる美陸に言った。


「付き合えないのに、りーちゃんの頭撫でたり、抱きしめたりしちゃったわ。ごめん、美陸。浮気だよな」


「別に!僕も、りーちゃんが泣いていたらそうするよ。キスとかその先にはいけないけど…。抱きしめたり、手を繋いだり、頭撫でたりは、出来るもんね。」


「美陸。」


「なんか、幸せになって欲しいよね。ほっとけない。美味しいものを食べて笑っていて欲しい。僕は、そう思うけど…。かずくんもでしょ?」


チュッ………


「えーーー。今の全然、ムードなかったんですけど!!」


「ごめん、美陸が、可愛くてホッペにキスしたくなっちゃった。」


「なに、それ」


美陸は、笑いながらポテトチップスをボリボリ食べていた。


「変わってるよな。俺も美陸も…。」


「そうだね」


「普通さ、体の関係にもっとなりたいって思ってもおかしくないよな?」


「そうだね」


「なのに、俺…」


「野生の本能、死んでるよね。お互い」


そう言って、美陸は笑った。


そうだ、死んでる。


美陸を抱きたいとか、キスしたいとか、よりも…


美陸を笑わせたいとか、美味しいもの食べたいとかの方がかってる。


「隠居したジジイでも、まだ性欲あるよな」


チータラを食べる俺の頭を美陸は、撫でてくれる。


「僕ね、エッチが全てって人を知ってる。だけど、いつもどこか空しいって言ってるよ。でも、僕は何も空しくないし、寂しくもない。だって、かずくんが僕の体だけが目当てなんでしょ?なんて、心配しなくてもいいし。最初は、りーちゃんに焼きもち妬いたけど…。今は、妬く事もなく信じられてる。それって、体よりも心の距離感の方が近いって事なんじゃないかな?」


美陸の言葉に、俺は妙に納得していた。


「まあ、若い時にやりすぎたってのが正解かもねーー」


「いい事言ったのに、茶化して終わらせるなよ」


美陸の頭をワシワシ撫でる。


「りーちゃんも、僕達と同じなら傍にずっと居てあげれるのに…。一緒にいるうちに、頬にキスするぐらいは出来るようになるかも知れないよ。」


「あーあ。なんで、両方いけないのかな」


俺は、美陸をギュッーて

抱きしめた。


「悩んだって無理なものは、無理。」


「そーだ。りーちゃんってこれに似てる」


そう言って、スマホを取り出した。


「プニプニ?」


「うん」


「なんか、わかる気がする。」


「だろ?」


「うん、うん」


そう言って、美陸と笑った。


「いつかさ、りーちゃんに好きな人が見つかった時、りーちゃんを好きだって言う人が見つかった時まで、一緒に居てあげたいな。駄目かな?かずくん」


「紹介する相手もいないから、俺達は、待つしかないよな。」


「そうだよ。見つけてきたら、ゲイだしね」


「ハハハ、それな」


俺と美陸は、二人で笑い合った。


彼女が、幸せだと思える1日を一緒に作ってあげたい。


それを重ねていって、いつか彼女の自信にしてあげたい。


そして、あんな顔をさせたくない。


一緒にいたら、傷つけてしまうかもしれない。


コチョコチョ、人に言われて悲しむかもしれない。


それでも、傍にいたいのは我儘でしかないよな


「初めて、認めてもらえたから大切にしてあげたい」


美陸の言葉に、俺も頷いた。


「幸せだって、毎日感じて欲しいよな。」


「うん、それが一番だよね」


俺と美陸は、甘い考えしかなかった。


俺達が関わる事で、彼女の人生が変わってく事を気づかなかった。

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