見る目ないな
次の日、俺は仕事に行った。
昼休憩、いつもの階段にきていた。
「おはよう、葉月さん」
「おはようございます。」
いつもより、葉月さんは少し声が出ていた。
「また、栄養のない昼飯?」
「いえ、今日はちゃんと作りました。」
そう言って、葉月さんは卵焼きを俺にくれた。
「うまー。ありがとう」
「おにぎりもどうぞ」
ラップに包まれたおにぎりを渡してくれた。
「ありがとうね。」
「いえ、喜んでいただけてよかったです。」
「いや、マジで嬉しいよ。あっ、今日も晩御飯一緒に食べない?」
「いいのでしょうか?」
「いいって、いいって。」
「何が食べたいですか?」
「さばの味噌煮」
「いいですね。作りましよう」
葉月さんが、笑ってくれた。
なんか、嬉しいな。
「じゃあ、家で待っててよ。迎えに行くから」
「わかりました。」
「じゃあ、俺。電話するから」
「はい、どうぞ。」
葉月さんは、そう言うと耳にイヤホンをいれた。
「もしもし、
『嘘ー、めちゃくちゃ嬉しい』
「さばの味噌煮お願いした。」
『定食屋さんでしか食べた事ないやつだよ。楽しみー。』
「だろう?じゃあ、早く帰ってこいよ」
『もちろんだよ。愛してるよ、かずくん』
「俺も、愛してるよ」
そう言って、電話を切った。
葉月さんに、近付いた。
ポンポン
「終わったよ、ありがとう」
「はい」
葉月さんは、笑った。
俺は、葉月さんが幸せになったらいいと思った。
でもさ、その為には今、ここから変わらないとダメなんだよな。
「先、戻ってください」
気を使って、そう言った葉月さんの手を掴んだ。
「一緒に、戻りましょうか」
「いえ、それは崎谷さんに悪いです。」
「かずさんやかずくんにしませんか?」
「えっ?」
「俺は、りーちゃんって呼びますから。」
「勘違いされますよ?」
「結構ですよ」
「さ、かずさん。」
そう言って、葉月さんは泣いてしまった。
「戻りましょうか、りーちゃん」
俺は、笑った。
葉月さんは、ゆっくり立ち上がった。
並んで、歩く。
「足を少し引き摺ってるの、気づかなかったな。上手に歩きますね。」
「褒められたの初めてです。」
「もしも、そうならなかったらりーちゃんの人生はかわっていましたよね。」
「運命を呪った時もありましたけど、今は受け入れてますよ」
力強く笑う笑顔に、俺はやっぱり葉月さんの世界を少しだけ変えれる存在になりたいと思ったんだ。
「じゃあ、ここで。また、迎えに行きますね」
「はい、では」
そう言って、更衣室の前で別れた。
俺も、仕事にもどろうとしたら…
「なあ、崎谷。ちょっといいか?」
「はい」
先輩に、呼ばれた。
「ちょっと、こっち」
小さな休憩スペースで、コーヒーを渡された。
「何でしょうか?」
「崎谷さ、掃除のブーちゃんと、付き合ってんの?」
「どういう意味でしょうか?」
「いや、昨日も見たやついて、さっきも一緒にいるの見たやついるって聞いてさ」
「彼女と付き合っていても、藤井先輩には関係ないですよね。」
「そうだけどさ、崎谷の評価下げなくてよくないか?そんな見た目なのに、わざわざブーちゃん選ばなくてもいいだろ?」
「俺が、彼女が好きで近づいてるだけですから…。彼女には、関係ありません。」
「マジで、言ってんの?崎谷、見る目ないね」
「言ってますよ。結婚して子供もいるのに、そんな風に人を見た目でしか判断できないってどうかと思います。」
「人は、見た目が100%だろ?あんなのと歩いてたら、嫌われるだけだよ。まあ、崎谷の同期の今井から伝えてって言われただけだから…。ブーちゃんと一緒にいたら、崎谷も色々言われるって覚えていた方がいいよ。じゃあ」
そう言って、藤井先輩は去っていった。
色々…。
一緒にいると…。
俺はよくても、葉月さんがダメではないか。
あんな風に、平気で傷つけられてきたんだな。
葉月さん
俺のせいで、また何か言われないかな?
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