葉月さんを送る

「助手席、座っていいよ」


「すみません」


「敬語やめていいよ」


「なれないです。」


「そっか、少しずつでいいから」


「はい」


俺は、車を走らせた。


「私といると崎谷さんが、嫌な思いをされませんか?」


「別に、したから何になるの。

俺は、居たいからいるんだよ。」


「そう言われるだけで、嬉しいです。」


「そう?なら、よかった。お弁当、無理な時はいいからね」


「大丈夫ですよ。自分のも作ってますから」


「あの栄養のないおかずは、もうやめときなよ。そんなダイエットしたって意味ないんだからさ。」


「はい」


そう言って、葉月さんは笑った。


「足は、いつから?」


「小学生の頃に、事故で。後遺症が出始めたのは23歳からです。」


「やっぱり、後からでてくるんだね。」


「そうみたいですね。」


「事故は、怖いね」


俺は、俯いた。


「そうですね。私も、今運転が出来るようになって気をつけています。その瞬間だけではなく、その先の未来も奪うと考えてしまうと怖いですね。」


「そうだね。俺も気を引き締めて運転するよ。」


「はい、お互い気をつけましょう」


葉月さんは、そう言って笑った。


「足の事も辛かったよね。後遺症がでてきて」


「それを証明する事は、もう不可能でしたけど…。確かに、ショックでしたね。ヒールは、3センチまでとか腹筋を含めて運動はダメ。そしたら、必然的に太ってきて。痩せろ、足がもたないと言われていました。もう、今さらですね。太り過ぎました。」


葉月さんは、そう言って泣いてる。


「葉月さん、どうして痩せにくいのか調べる方法はないんですかね?」


「わかりません。原因がわかれば気持ちは軽くなりますね」


「そうだよね。俺も、美陸みろくと一緒に調べてみるよ」


「是非、お願いします。」


「勿論だよ。」



そう言って俺は、葉月さんに笑った。


俺は、男が好きだ。


だけど、葉月さんを支えてあげたいと思った。


誰にも理解されない気持ち。


俺もわかるから…。


「自分が悪かったの事故?」


「もうスピードできた車にひかれました。通学路で、30キロオーバーしていました。生きている事が、不思議な事故だと言われました。贅沢ですね。生きているだけでも、すごい事なのに普通に歩きたいとか運動したいとかヒール履きたいとか我儘ばかりです。」


「そんなの我儘じゃないよ。当たり前だよ。だって、葉月さんは体動かすのが好きだったんでしょ?」


「はい、小さな頃から木登りをしたり男子にまじって遊ぶのが大好きなワンパク少女でした。大きくなってもそれはかわらず、運動は大好きでした。運動する事に、ドクターストップをかけられた時、正直ショックでした。手術を考えたのですが、お医者さんには、やめておきなさいと言われました。なので、私はやめておきました。」


そう言って、葉月さんは悲しそうな顔をしていた。


「自分だけが辛いわけではない。悲劇のヒロインになってはいけない。そう思いましたが、辛かったです。もっと、大変な人はいる。そんな事は、わかっているんです。小学生の頃、とまっている私は跳ねられました。自分が悪くない事故でした。だから、私は諦めが悪いようです。」


葉月さんの言葉に、胸が痛くなった。


何て、声をかけてあげればいいかわからなかった。


「すみません。なんだか、変なお話をしてしまって…。そこ、右です。」


スーパー近くのマンションに車を停めた。


「では、また明日」


「うん、おやすみなさい。あっ、美陸の番号メッセージで

送るね。」


「はい、おやすみなさい。」


葉月さんに、手を振って別れた。


葉月さんの痛みをわかってあげられなかった。


葉月さんの悲しみをわかってあげられなかった。


うちに秘めた葉月さんの何かに俺は、やはり惹き付けられたのがわかった。


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