第0話-2
「では、エピタフ・オンライン(仮)の魅力について、開発者の、えー、え…?よ、黄泉坂ツキヤさんにお尋ねしていきたいと思いまーす」
あからさまに偽名であろう名前を見た司会者の女性は、若干困惑しながら番組を進行していく。
芸名とかならそこまで気にはしなかっただろうが、ゲームの開発者が偽名を名乗る意味がよく分からなかったのだろう。
「どうも」
黄泉坂ツキヤを名乗る男は、真っ黒なスーツをビシっと着こなしたイケメンと言って差し支えない容姿をしていた。
彼は番組側で用意したのであろう社長っぽい椅子に座って、何かを見下すような姿勢をとっている。
「えっと、その椅子は一体どこから持ってこられたんですか…?」
「失礼。どうせ座るなら心地良いモノにしたくてね。持参させてもらったよ」
番組側で用意したものじゃなかったらしい。
司会者は制作陣が控えている方を見て、「え?いいのこれ?」みたいな顔をしているが、無事に許可が出たようで、
「では最初から最大の質問なんですが、何故エピタフ・オンライン(仮)の情報をほとんど公開されていないんですか?元々はエピタフという名前と映像が公開されていただけで、それを見たユーザーがオンラインゲームだろうという予想の上で、勝手に呼び出したのがエピタフ・オンライン(仮)ですよね?」
「順番にお答えしましょう。まずはタイトルについて」
黄泉坂ツキヤはどこか芝居がかった喋りで、ゆっくりと語り出した。
「そもそも私が開発したエピタフという"ゲーム"のタイトルは『エピタフ』で完結しているつもりです。勿論エピタフを気に入ってくれた人達が、エピタフ・オンライン(仮)と呼んで下さる事も歓迎していますよ。実際にプレイする人からすれば、オンラインゲームであることは間違いありませんしね」
これはこのゲームの情報を集めている人間からすれば有名な話だった。
動画投稿サイトにアップロードされた映像と『エピタフ」というタイトル。その動画には見たことも無いような生物や、それと戦う人間達が映っていた。
"竜"と呼ぶしかないソレと戦う人達は、5人のパーティを組んでおり、空から炎を吹いたり、急降下攻撃を繰り出す竜に対して果敢に挑んでいた。
余りにも"リアル"な映像は現実にしか見えない、しかし現実に竜など存在しない。つまり映像美としか表現出来ない世界がそこにはあった。
「それと、情報を出していない事については一応申し訳ないと思っています。なんせお金が無くてね!」
「HAHAHA!!」と自嘲する黄泉坂ツキヤはやはりどこか演技でもしているような雰囲気だ。
あれだけのゲームを創り出した上に演技もできる多才な人なのかもしれない。
「しかし、ひとまずは1万台のエピタフ筐体が販売出来ましたので、これからは多少の広告宣伝も行うかもしれません。現時点では必要性を感じていませんがね」
確かに宣伝は不要だろう。500万人の応募者のうちで当選したのはたったの1万人なのだ。既に供給が追いついていないのに、宣伝をする意味は特に無い。
「それにこれからは1万人のプレイヤーが情報を流してくれるでしょう。今のところはそれで十分ですよ。『エピタフ』の内容についても同様ですね」
「つまり今後も開発・運営側から何かを告知することは無いということでしょうか?」
怪訝な表情をしながら質問を重ねる司会者。それもまた当然だろう。普通のゲームはとにかく内容を発信することでユーザーを増やし、なんとか利益を回収しようとする。
「ある意味ではその通りです。非プレイヤーの方への告知・宣伝は先程も言った通り、特に行う予定はありません。しかし、プレイヤーの方達へは色々とサービスを行っていくつもりでもあります」
おそらく499万人はがっかりし、1万人は喜ぶであろう発言が飛び出した。
「既に世界は完成していて、あとはプレイヤーを招くだけの状態にはなっていますがね、『エピタフ』はいわゆるオープンワールドの世界なわけです。基本的にはプレイヤー全員が共有できる目標というものが存在していないので、こちらから随時提供していければと考えています」
「なるほど。通常のオンラインゲームのイベントのようなものと受け取っていいんでしょうか?」
「そうですね、厳密には違うと言いたいところですが、そのように受け取って頂いても構いませんよ」
司会者は仕事ができたことにホッとしているのか、少し表情が緩んでいるようだ。
黄泉坂ツキヤの風貌は確かにイケメンではあるが、その黒スーツや、わざわざ持ち込んでいる椅子、そして座り方、威圧感があり、どう見てもまともな人間には見えない。
司会者はインタビューが失敗する可能性を危惧していたのだろう。
「では次の質問なんですが、先程お答え頂いた内容に被ってしまうので、少し聞きづらいんですが、ゲーム内の情報を頂くことはできないんでしょうか…?」
今さっき情報を公開していくつもりは無いと言われたところで、その質問をするのは結構勇気が必要だったのだろう。司会者の顔にはまた緊張が走っている。
「別に構いません、隠している訳ではないんです。ただ必要性を感じていないだけですからね」
司会者はホッとしている。それにしてもやけに感情が表に出る司会者だな。
「では教えて頂きたいんですが、エピタフという世界はどんなところなんですか?」
「難しい質問ですね…」
ゲームの世界観なんか企画段階で決まっているようなものだと思うんだが、何が難しいんだろう。
「いやね、エピタフという世界は既にそこにある"新しい世界"なんですよ。例えば貴女に"地球はどんな世界ですか?"と聞かれたら難しいと思いませんか?」
まあ確かに。地球がどんな世界かと言われても、ただ普通の世界としか思えない。想像力が貧困なだけかもしれないが。
「う〜ん、確かにそうですね…」
司会者は納得したような、納得してないような、困り顔で考え込んでいる。
「では質問を変えさせて頂いて、エピタフに有って地球に無いもの、それを教えて頂くことはできますか?」
上手い質問だと思う。みんなが知りたいことはつまりそういうことだろう。
「その質問はとてもいいですね。ええ。エピタフには地球には無いものがいくつもあります。ですがそう珍しいものではないでしょう。"剣と魔法"いわゆるファンタジーがそこにはありますよ」
それは想定内、というか竜と戦っているならファンタジーだろうという決めつけが既にあった。
「あとは、そうですね。"新世界"がそこにあるとしか言い様が無いんですよ」
「はあ…新世界ですか…」
司会者は疑問を持ったような、納得いかないような、そんな生返事をしている。
「そうですね、例えば普通のオープンワールドのゲームには"自由度"という言葉がありますよね」
自由度とはよくあるゲームの面白さを表す指標だ。如何にルールに縛られないか、如何にプレイヤーの判断で動きを決めることができるのか、それがゲームの面白さに直結する。
「エピタフには"自由度"という言葉が相応しくありません。何故ならそこには新しい"世界"があるだけなのですから」
司会者は少しだけハッとしたような表情に変わり、また不思議そうな顔になっている。
「それはつまり、非常に高い自由度を保証する、そういう話ではないのですか?」
「全く違いますよ。少なくとも"人の身でできることは全てできる"、それがエピタフです。今みなさんが生きている世界でできるようなことはエピタフでも実現可能です。剣と魔法の世界ですが、技術さえあれば銃や爆弾だって作れますよ。なんならPCを1から製作することだって可能です。1から作る技術があれば、ですがね」
「しかし、それはもはやゲームというより」
「だから何度も言っているでしょう。『エピタフ』は新世界なんですよ」
黄泉坂ツキヤは"新世界"という言葉にこだわりがあるらしい。
確かに話が本当にであるならばそれは確かに新世界なのだろう。
「自由だからこそ不自由する可能性もありますけどね」
黄泉坂ツキヤの意味深な発言の後、無難なインタビューは続き、配信は終了した。
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