Dazzling Desire

 ――アメリカ ネバダ州南部――


 広大に広がる砂漠。夜のこの場所では、熱も、音も、光でさえも全てが暗闇の中に吸い込まれている。


 しかし空を見上げると、闇夜に散りばめられた星空がどこまでも広がり、この場所もまた宇宙の一部なのだと錯覚させられるほどに壮大で、そして孤独だった。


 地平に広がる無限の闇の中、まるでその場所こそが銀河の中心であるのだと主張するような、目もくらむ程の眩しい光の塊が存在していた。


 暗闇の中に浮かぶ光の正体。それは砂漠の中心に存在する巨大な街だ。


 サイケデリックなイルミネーションに飾り立てられたその街は、そこにある物全てに現実感が無く、まるで幻想の世界を体現したようなその光景に、見る者の目にはその全てが空想の出来事のように映るだろう。


 光の中心を覗いてみると、街の至る所でギャンブルを執り行う店が軒を連ね、誰もが一夜の夢を掴み取らんと目の前のゲームに興じている。


 ギャンブルに興じている者は、その全てが漏れなく正気を手放していた。


 全ての財を失って絶叫する男。髪を振り乱して顔を掻きむしる女。しかしこの空間ではその在り方こそが正しいのだと言わんばかりに、誰もが狂喜、狂気、凶気の最中さなかで踊り狂っているかのようだ。


 この場所には紳士も淑女も存在しない。理性をはぎ取られ、強欲な本性が人の姿をした者だけが街を闊歩かっぽする。


 しかし、そうして誰もがギャンブルに身を焦がしている中、ぽつぽつと、人の中で完全に温度を失ったかのような空間が点在していた。


 そこには目の前のギャンブルなどには無関心で、冷めた目でただ自分の賭けた大金が動く様子を見守っている幾人かの者たちが見受けられる。


 その者たちの視線は時計か、或いは街の至る場所に取り付けられたモニターへと注がれていた。彼らは静かになにかを待ちわびているようで、異なことに、時間が経つにつれて彼らと同じような者の姿が増しているようだった。


 やがて、街の意識は時間を告げる時計にのみ注がれるようになり、絶叫の沸き立つこの街からは音が消え、全ての人という人が消え去ったかのように静まり返っていた。


 カチ、コチ、カチ、コチ――カチリ。


 時計の針が一点を指すと、今まで様々な映像を映し出していた街中の全てのモニターが、一斉に同じ映像へと切り替わる。


 そこに映し出されたのは、広い闘技場のような空間。司会者が口上を述べ、観客が沸き立ち絶叫すると、火が消えたように静まり返っていた街が再び一斉に振動を始めた。


 その後その空間の主役の登場を皮切りに、人々の高ぶりは最高潮へと達して行く。

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