お誘いと。最後の夜

「さぁ、まずは好きな奴と組んでみろ」

 先生のその号令によって、クラスの中が一気に騒がしくなる。

 もちろん、こんな時にビスが席から立つことなく、じっと自分の席からまるで机の周りに国境が張り巡らされているかの如く、その場から動かないということはもぅ、織り込み済みです。

 しかし今回は違います。いつもなら当然のことながら待っているだけで誰もビスの元に歩み寄ってくる人はいませんですが、今回は。

「森君。もぅ、提出して来たからね」

「さぁ、じゃあ、当日どう動くかだな」

 そう言って近づいてくるキエフとダイアナ先輩を見て、ビクリと体を動かします。

「これは良い結果なのですかね?」

「まぁ、一般的にはひとりぼっちよりはいいだろう」

 そう言ったものの、ジョバンニもどこか対処に困ったようなどこか微妙な顔を浮かべています。

 今も二人を直視出来ずに俯いているビスですけど。

「どうやら良かったようです」

 俯いた顔を覗き込んでみたら、本当にわずかですが、笑っていました。

 もちろんキエフとダイアナもこのようなビスの性格は織り込み済みなので、ビスを放置してサクサクと話しを先に進めて行きます。

「しかし、いいのかよ。他にもお前と組みたいっていう奴いるんじゃないのか?」

 キエフの危惧にダイアナ先輩はあっけらかんと笑って。

「大丈夫。大丈夫。それにクラスのぼっちとあまり登校しない子と問題児と同じ班。それだけで委員長としては株価アップするのに、二人の恋愛も応援出来て、私がアッちゃんのことを好きになるきっかけになるかもしれないのだから、正に一石二鳥!」

 そう言って高らかに宣言していますが。

「暴言に区分されるのですかね?」

 悩みどころのようで、向こうの同生も難しい顔を浮かべています。キエフも微妙な顔を浮かべています。

 もちろん、ビスは何も言いません。

「ビスには全く暴言にならないようですね」

 ぼっちと自覚しているから。

 自分で言って、なんだか無性に悲しくなってきました。

 私は恐らく今月いっぱいで俱生神の任を解かれます。なのに。

「こんなんじゃ、安心して見送れませんよ」

 その発言にいつもなら突っ込んでくるジョバンニの突っ込みがありません。

「ジョバンニ?」

「……お前、本当にいいのかよ」

「?何がです?」

「だから、そのご主人と離れ離れになって」

 ああ、そのことですか。

 ジョバンニにはこの前、キャサリンから私の処遇の報告がいったようです。

「私は別に後悔していませんよ。やるべきことをやって、何より良い方向に向かっているじゃないですか」

 もし、ジュリエッタが死んだとしても一応ですが一人ぼっちにならずに済みそうですし。

「それにビスにとっては幸か不幸かこの駄目男の告白のシーンには立ち会えそうだし」

 キエフとダイアナ先輩が結局言いませんでしたという報告を許してくれるわけがありませんし。

 ところでさっきからインカムから全く声が聞こえなくなったことに気が付きました。

「ジョバンニ?」

「あ、あの実はな」

「え!」

 ジョバンニが何かを言いかけたところで、ビスが突如立ち上がり、驚くように二人を見る。

「だから、当日の自由行動の計画とか割り振りとかは私達が決めるから。森君は馬渡目さんを誘って来て」

「ぼ、ぼく?」

「お前しかいないだろ。この計画は馬渡目が野活に参加しないとなんの意味もないんだぞ」

「よし!善は急げね。これ、馬渡目さんの家の住所だから。今日の放課後行って来て」

「……」


 RPGというものがあります。仲間を増やして困難に立ち向かっていくあれです。

 ビスはものの見事に意地悪男と和解して、その男と超強力な助っ人を仲間に入れたのですが、残念ながら主人公のスペックが低すぎました。

 ほら、犬って自分より地位が低いと思った人が飼い主だったら、言う事を聞かないということがあります。あれと一緒です。

 故に今、ビスの行動権は完全にキエフとダイアナ先輩に委ねられているということです。つまり、その日の放課後にジュリエッタの家に行くことは決定事項で、さすがに臆病者のビスでも腹をくくって、彼女の家に向かっている最中なのですが。

「どうして、この男はこんなにもテンションが低いんですかね」

 好きな女の子に行く男の心境なんて、緊張しているか心が躍っているかのどっちかのはずなのに、ビスの場合はどちらでもなく、貧血気味かというぐらいに頬は青白く、足取りはおぼつかないので、さっきから人や物にぶつかってばかりです。

「どう見ても、好きな女の子の家に行くというよりも、ガラスを割って謝りに行くテンションなのですけど」

 いつもなら二十分ぐらいで歩く通学路を今日は一時間ぐらいかけて、ようやくジュリエッタといつも逢うあの交差点に差し掛かりました。辿り着くまでに日が暮れる勢いです。

「私の貴重な時間を潰すまいな」

「おい、こら!」

 怒られましたが、時間の無駄遣いは重罪のように思えます。違いますかね。

 さて、いつもなら直進する交差点を今日は右折して、そこから約10分歩いたところがどうやら、目的地らしく、まだ先は長そうです。

 しかしそんな予想も危惧に終わりました。

「お前、まだこんなところにいるのかよ!」

 突然キエフに話しかけられて、アタフタするビス。その様子を見て彼は頭を抱えながら。

「アイの言った通りだな。来て良かった」

 そう言って、キエフはビスの腕をわしづかみにして。

「お前は俺の見込んだ男だ。こんなところでグダグダされたら、俺達が困るんだ!」

 そう言いながら、ビスを凄い力で引っ張って行く。完全に牽引です。引きずられているの足元に砂煙が立っています。

 そして徒歩10分を5分でジュリエッタの家の前に到着しました。白色基調の立派な一軒家ですが、たどり着いた時にはビスはボロボロです。時間は貴重だと言いましたが、流石にここまでしてくれとは望んでないので、心境は複雑です。

「じゃあな、後はしっかりしろよ!」

「……」

「影で見ているからな」

「……」

 もはや逃げ場はないようです。

「さぁ、さっさと押して終わりましょう」

 しかし流石ビスです。キエフに見られているのがわかっているのに、中々インターホンを押しません。

 何度も何度もインターホンに指を伸ばしてはやめて、深呼吸をして、もう一度伸ばしてはやめて深呼吸を繰り返しているうちに、

「おい、いい加減にしろよ」

 隠れていたキエフがインターホンを押して、そしてそのまま去って行きました。ピンポンダッシュ。もといピンポン置き去りダッシュです。

「上手くは言えてないな」

 同感です。

 しかし、上手かろうが、下手だろうが、インターホンを押されたという事実と置き去りにされた事実は変わりなく、しばらく放心状態でいたので。

 パン!

 耳元で風船を割ってやりました。

「お前は、何をしている!」

 当然ジョバンニが飛んできて、胸倉を掴まれました。

「いや、これぐらいは許容範囲でしょう。別に直接触れたわけではないので」

「豪打君に見られたらどうするんだよ!」

「大丈夫です。車が通り過ぎた瞬間に鳴らしましたから」

 道路を挟んで向こう側にいるキエフには見えませんよ。

「……お前、どんどんそういうの、上手くなってきたな」

 どこか複雑な面持ちでこちらをみるジョバンニ。私の有能さに感服する前に手を放して頂きたい。

 ようやく手を放してくれたところで、現状に戻ります。

 確かにインターホンを押して、私の鳴らした音で縮こまっているビスなのですけど、誰の反応もありません。

 そのことにようやく気付いて、ゆっくり立ち上がるビス。ヒョコヒョコと確認した後にもう一度インターホンを押す。

「どうして二度目って、こんなにもハードル低くなるんですかね」

「慣れてしまうってことだろう」

 良いことも悪いこともですか。

 しかし反応がありません。どうやら誰もいないようです。病院にでも行っているのでしょうか。

 胸を撫で下ろすビス。

「こいつ殴ってやろうか!」

「お前、今、豪打君と同じ顔をしているぞ」

 キエフと一緒というのは気にいりませんが、まぁ、心中お察しします。

 しかしこんなので本当に告白まで辿り着けるのでしょうか、し……。

 目を開けた瞬間に言葉を失いました。私がそんな状態ですから、踵を返したビスなんて、そりゃまぁ、

「!!!!!!!!!」

 失神する勢いです。当然です。

「森君?」

 後ろにジュリエッタが立っていたのですから。あなたは忍者ですか。全然気が付かなかった。

「どうしたの?」

 ジュリエッタにそう尋ねられて、慌てて、後退するビス。しかし後ろにあるのは馬渡家の門。そして当然衝突して、激しい音を立てて、腰をぶつけて、その場にしゃがみこむ。

「器物破損マイナス5ポイント」

「いや、壊してないだろう」

「大丈夫?」

 そう言って、ジュリエッタもしゃがみこむ。

 突然自分の家の前に現れた不審人物を献身的な態度で心配するジュリエッタ。しかし、その態度も今は逆効果で。

「!!!!」

 近づいてくるジュリエッタの顔に今にもオーバーヒートしそうになるビス。やばい、そろそろ容量オーバーしそう。

 しかし後ろには門。前からはジュリエッタに挟み撃ちされた我がご主人にもぅ、逃げ場はなく。俯きそして振り絞るように必死で。

「が、がっこう」

「え?」

 当然、そんな小さな声届くわけなく、首を傾げるジュリエッタ。

 それからしばらくの沈黙がありましたが、ジュリエッタは何一つなく、その体勢を維持して次の言葉を待ってくれました。

「が、がっこう、き、きてないから、そ、その」

「お見舞いに来てくれたの?」

 ビスは全力で首を縦に振る。

 そのビスの様子を見て、ようやく顔がほころぶ。

「ありがとう!」

 その顔にまたもやオーバーヒートしそうになる。

「好きな人の存在って、その人の寿命を短くするとかいう統計ってないんですかね?」

「定義が曖昧過ぎるだろう」

 でも、心臓に悪そうだということは、明らかのようです。

「うん、ちょっと、またね。入院することはないらしいけど。でも最近は凄く調子良いから、またすぐに学校行くよ」

 そう言って笑うジュリエッタの顔は私には目の毒でビスもさっきまでの真っ赤な顔から一気に血の気が引きました。

 しかしこの時ばかりは幸をそうしたのか、次の言葉は随分あっさり出てきました。

「や、野活」

「え?」

 相変わらず、単語ですけど。

「野活。馬渡目さん。ぼ、ぼくとおなじはん」

 突然突っ込みましたね。これで嫌な顔をされたら終わりでしたが。

「あ、そうなんだ」

 無反応。一番困ります。

「こ、来れる?」

 再び審判の時です。ビスは必死で補足を加える。

「ほ、他のは、はんいんも、来るの、楽しみにしてる」

 主にガヤ気分で。

「だ、だから、そ、その」

 顔をあげて、はっきりした声で、

「来て欲しい!」

 そう叫びました。

 まさに渾身の一撃です。そして今度はそれを受けたジュリエッタが沈黙します。

 しかし、すぐにその無表情の顔は破顔して。

「うん、行けると思う」

 しばらくの沈黙の後、顔をあげて。

「ううん、行く!」

 そう言われて、ビスの目は見開き、そして。猛ダッシュで逃亡しました。

「なんでやねん!」

「口調おかしい」

 慌てて、追いかけましたが本当に早い。

 角を曲がり、交差点を渡り、駅前を通り過ぎて、大通りに出て、歩道橋の真ん中のところでようやく止まった。というかこけた。

 しばらく倒れていましたが、ゆっくり歩道橋の手すりに手をかけて、立ち上がったところで、後ろからドンと肩にのしかかって、前のめりになって、落ちそうになりましたが、肩にかけられた手がすっと後ろに引き付けました。

「お、お前、速すぎ」

 息を切らして、肩で息をしたキエフは俯きしばらく、必死で息を整えていましたがやがて、顔をあげて。

「お前、やっぱり最高だな!」

 そう言われて、汗まみれの顔にようやく笑顔が浮かびあがりました。

 その表情に一瞬顔を赤くするキエフ。もしかしてすごく面倒見良い?

 そんなことを思いながら、歩道橋で行われる友情劇を見ていました。

「通行妨害マイナス2ポイント」

「ひと回りして、お前が一番冷静な気がしてきた」

 そんなジョバンニのツッコミも聞こえないぐらいに、私の心は浮かれていました。


 そして月日はあっという間に流れて、野活前日の夜です。

 結局、ジュリエッタは一度も学校に来ませんでしたが、明日、来るという連絡が学校に来て、それを今日班長のダイアナ先輩から告げられて、これで明日の役者は整いました。しかし単純の告白の方は、

「雰囲気良くして、後は勢い!」

「好きだ!って、言えばいいだろう?」

 ざっくばらんなアドバイスしか受けられなかったので、帰りに本屋に寄ってました。よく考えればこの二人、恋とはなんぞよと言っていた口の人間でしたね。

 そして今、自室でその本屋で買った本を取り出そうとしています。

その日の晩、ビスはベッドの上で、本屋の袋と睨めっこしていた。

 さっき本屋で買った本です。

「よし!」

 意を決して、本を取り出すビス。

 出て来た本は…猥褻物図書。

「マイナス20ポイント!!」

「知っていただろう!」

 知っていますけど、何故その本を。しかも買った理由が本命の本を買うのが恥ずかしくて一緒に購入という、恥ずかしさのベクトルが明らかにずれている。

「あ、これじゃない」

 そう言ってビスはもう一つの本を取り出す。

『必ず成功する告白の方法』

「…本の趣味が悪い-10ポイント」

「…本の趣味が良い+10ポイント」

 お互いの見解に真っ向から衝突します。

「これのどこが良いのですか!」

「良いじゃないか、ストレートで。最近の本はわかりづらいのをまるで美学のようにして!やたら説明口調のタイトルばかりで。

「センスのかけらもないタイトルですよ。大体こんな本で告白が成功するなら、何の為に縁結びの神様がいるのですか!」

「こういうのは気持ちの持ち様なんだ。良いか、言いきるというのは大事な事なんだ。恥も外聞も気にしない。これこそ青春の醍醐味なんだよ!それを考えればやはりストレートが一番良いんだよ」

 そんな不毛なやり取りを私達がしている間、ビスはその本を必死で読んでいました。

「……」

「……」

 こんな真剣なビスは初めてで、私達も沈黙してしまい、かつてないほど静かな夜でした。

「私、少し夜空を見てきます」

 どうせこのまま寝てしまうので、ジョバンニ一人で大丈夫でしょうし。

 そう言って飛翔しようとする私の方をじっとどこか物寂しそうに見てきました。

「なんですか、その顔。あ、わかった。私と離れるのが寂しいのでしょう!」

 ビスの恋が上手く行こうが、私は数日後にはビスの元を去り、恐らくジョバンニともお別れですからね。全くこのシスコン兄……。

「寂しいに決まっているだろう!」

 突然真顔で言われて、思わず言葉を失う。しかし、すぐに開き直り。

「そうですか。私はあまり寂しくありません。大体、問題児の妹と離れられて、精々しているのでは?」

「家族と離れて、喜ぶ奴がどこにいるんだよ!」

「……」

 なんですか、なんですか。流そうと思っていたのに、冗談にしようと思っていたのに、冗談で納めたかったのに、冗談で終わらせたかったのに。

 目から熱いものが零れると同時に私は飛翔して、見られないようにその場から去りました。

 今日も夜空がとても綺麗です。昔も今も変わらぬその空を見るのが私は好きでしたし、今も変わりません。なぜなら、空だけが、何も変わらないからです。

 でも、今日の空は少し濁っていますね。ぼやけます。

「もう何年経つんだろう」

 ジョバンニと逢ってからだいぶんたちます。

 前にも言ったように、私とジョバンニは当然のことながら実の兄妹ではありません。

 俱生神になりたての頃、最初に組まされたのがジョバンニで、それ以来ずっと組んでいたら、いつしか周りの倶生神から兄妹みたいだと言われ続けて、否定するのも面倒になって、なし崩し的にそうなりました。

 その間にビスを含めれば三人の人の俱生神をしました。普通人が変われば組む俱生神も変わるのですが、駄目な私はいつまでも一人前の俱生神になれず、ようやく独り立ちが出来ると思った時に私が俱生神の在り方に疑問を感じてしまったこともあって、結局ずっと未だにジョバンニと組んでいます。

 ちなみに兄妹とは師弟関係に近いです。俱生神は普通一人前の同生か同名と半人前の同名と同生と組まされますので。つまりジョバンニは私の兄というより、師匠に近いのですけど。

「ジョバンニは全然そんな気がしなかったな~」

 良い意味でも悪い意味でもフレンドリーな我が師匠はやはり兄に近かったです。

 三角座りをした膝に顔をうずめます。

「これで良いんだよ」

 これでようやくジョバンニは出世出来ます。実力は元々あるのですから、すぐに出世して、地獄勤務になるでしょう。

 良いはずなのに、良いはずなのに、どうしてこんなに寂しくなるのでしょうか。

「また、辛気臭い顔をしている」

 そう言って現れたリタの顔はひっくり返っていました。

「天変地位?」

「何言ってるのよ」

 そう言って逆さ向きに飛んでいたリタはすっと体勢を立て直して、私の隣に降り立ちました。

「明日でお別れだから挨拶に来たわよ」

「どうせ明日も逢うのにいいんじゃないの?」

「明日逢うのはあんたのご主人と私のご主人。だからこうやって逢うのは最後だから」

 よく基準がわかりませんが、受動的か能動的かということですかね。

「で、今回はどうしたの?今になって、怖くなったの?」

「いや、別に恐怖はないよ」

「そういう肝の据わったところだけは認めるよ。大分語りぐさになっているわよ。あんたが一番のところに殴り込みに行ったの」

 別に殴り込みに行ったわけじゃ。

「ということはあれか、お兄ちゃんと別れるのが寂しいのか」

「……」

「え、図星?」

 なんで、そんな意外そうな顔をするのよ。

「いや、あんたもっと兄に対してドライだと思っていたから。

 でも、そっか当たり前だよね。何年?」

「う~んと、最初の人が80年。次が数日。そしてビスが16年だから」

「もぅ、100年か。凄いね。そりゃ愛着湧くわ。実の人間の兄妹より凄く長くいるじゃない!」

 人間の寿命と俱生神の寿命を一緒にしても。

「まぁ、でも、出会いが逢ったら別れがあるんだから。それにこの前の人とは違って、別に死ぬわけじゃないんだから、また逢えるわよ」

 そう言ってリタは立ち上がりました。

「え、もう行くの?」

「忙しいからね」

 じゃあ、なんでわざわざここに。もしかして、私と逢いたくて……いや、さっきみたいに揺り返しが来たら大変だからやめとこう。

「あ、言っとくけど。あなたに逢いたくてどうしてもじゃないから。義理ね義理」

「……」

 違うベクトルのゆり返しが来ました。ひどくないかな。

「じゃあ、またね。俱生神にこんなこというのもなんだけど、まぁ、人間らしく。元気でね!」

 そう言ってニコリと笑うリタ。

「うん、元気で」

 そう言って、リタは去って行きました。

 私は知っています。リタは私よりもよっぽど寂しがりやだということを。だから長くはとどまらない。長くなればなるほど、別れがつらくなるとわかっているから。

 これを作り話と言えればどれだけいいかとリタと別れる度にそう思ってしまいます。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る