二人ぼっちのステージ

「はぁ~久しぶりにシャバの空気を吸えました」

「……そんな言葉どこで学んだ」

 当然マンガです。

 牢獄されていたのは、こちらの時間でどうやら一週間程度だったらしく、それでも色々変化あったようです。

「制服を改造。マイナス1ポイント」

「いや、これ衣替えだから。その前に、昨年も制服は違っていたけど、見ていただろう」

「あ~日常に戻ってきました」

 和みます。やっぱりこうやってジョバンニに突っ込んでもらわないとしっくりきません。

 とはいえ、のんびりもしていられません。これからもビスの傍にいる為には私は模範的な良い子ちゃんでいないといけないのです。大変です。

「一ヶ月はなんとか我慢しよう」

「お前、なんの反省もしてないな」

 捨てる神あらば、拾う神ありです。これは人間目線から見たら、見捨てられてもまた違う形で救済されるということですが、神目線から見たら。

「どの神もどっこい、どっこいということですよ」

「お前、絶対罰当たるぞ」

「これこそ、ジョバンニの教育理念です!」

「しかもあっさり、俺に責任押し付けたな」

 さぁ、今日も元気よく、働きましょう。とはいえビスの行動も精神力も一週間ぼっちじゃ何も変わらず、相も変わらず同じ道を歩いての、登校です。

「毎日、同じ道を歩いていて飽きないのですかね?

 たまにはルート替えたり、寄り道したりすればいいのに。寄り道程度じゃ悪行にならないし。

「あ、信号フライングマイナス1ポイント」

「で、どうするんだ?」

「仕事中に私語をしたら死後の裁判で罰せられますよ」

「全然上手くない」

 上手く言ったつもりはないのですけど。

「ちっ」

「本音と建前が全く逆だぞ」

「え、合っていますけど」

「お前、もう一回閉じ込めてもらえ」

 嫌に決まっているじゃないですか。

 私はフ~っと息を吐いて。

「で、なんです?」

「主人と馬渡目朱梨さんのことだよ」

「その二人がどうしましたか?」

 私のあっさりとした反応に拍子抜けしたのでしょうか、しばらくジョバンニは沈黙した後。

「……あんなに必死だったのに、やめるのか?」

「……やめるもなにも、私は二人の為には何もしてないですよ」

「はぁ?」

 私は目線をノートからすっと空にうつしました。空は青く小さな雲が真っ青な海を泳いでいるようでした。あ、でも、あの雲美味しそう。

 私のやっていたことは所詮、私の自己満足でやっていただけのことで、それは二人が紡ぐはずの物語の一端にもなれてないのです。つまり部外者はさっさと退場すべきです。

「ですから、私は傍観者になることに決めました。もちろん、ビスのことを見捨てるとかそういうつもりはありません。私でも出来ることを精一杯やっていくつもりです」

「……随分、大人しい発言だな」

「身の丈を知ったという奴です」

「嵐の前の静けさという言葉を知っているか?」

「‥‥‥‥何を言っているのでしょうか?」

 インカムの向こうからくる無言の圧力。

「わかった」

 やがて、まるで息を吐くようにそう言った。

 その残念なのか、ホッとしたのか判断のつかないジョバンニの反応に首を傾げると同時にビスが立ち止まりました。

 なんてことはありません。道路を挟んだ通りの向こうにジュリエッタがいるのです。しかし、当然ながら自分からジュリエッタに寄って行くことはしません。

「相も変わらないこの距離感」

 むしろ清々しいです。

 いつもなら、ジュリエッタが去って行くのを何かの映像を見るようにただ傍観していくのですが、今日は違いました。いや、主人は何もしていません。ジュリエッタが倒れたのです。

 その姿を見て、一気に顔を青ざめるビス。

「馬渡目さん!」

 道路を横切って、慌ててジュリエッタに駆け寄って行く。抱き起して必死で名前を呼んでも反応がない。

「に、兄さん!」

「落ち着け。まずはやるべきことをやれ」

「え〜と。あ、安全確認無視マイナス1ポイント」

「お前、冷静なのか、慌てているのかよくわからないな」

 慌ててますよ。しかし私よりももっと上をいく奴がいますよ。

「きゅ、きゅうきゅしゃ」

 呂律の回らない口調でそう言い、慌ててポケットの中を漁るビス。しかし私は知っています。

「ない」

 ビスの悲痛な声に私は俯きます。

 そう、この子今日、携帯を携帯してないのです。

「くそ、ビスが毎日スマホゲームをしながら、登校する癖があったら!」

「歩きスマホは危険だぞ」

 今は正論なんて聞きたくありません。

 助けを求めるように、周りを見渡すビス。だけどここは人通りの少ない通り。駅の動線からも外れていますし、同じ高校の通学路からも外れているいわば裏通りみたいな場所。滅多に車も人も通らない。ことごとく普段のビスの行動パターンが裏目っていますよ。

「ど、どうしよう」

 どうしようもなく途方に暮れるビス。このままじゃ。

 私の脳裏に最悪の結末が横切りました。

「ジョバンニ!」

 ジョバンニに手を出すことに許可を得ようとしましたが。

「駄目だ!」

「どうして!」

「何もしない。傍観者になるんじゃなかったのかよ?」

「そうだけど、でも」

 このままじゃ。このままじゃ。

「やっぱり!」「そうだ!」

 インカムから必死でジョバンニを説得しようとする私の声を重ねるようにしてビスがそう叫び、何をしようとしているのか、ジュリエッタの体を背負ったと思ったら、一目散に走り出した。

「え、ちょっと」

「うわわわわわわあああぁぁぁぁっぁ」

 必死で叫びながら全力疾走するビスを私達は慌てて後を追いかけます。

「この道って」

 ビスが走っている道は間違いなく高校までの通学路でした。しばらくしたら人通りの多い通りにでましたが、ビスは脇目も振らずにただ、がむしゃらに走って行きました。

 周りの人が何事かと注目しても、奇異な目で見られても、春先だというのに、汗をダラダラ流しながら、それでも止まることなく必死で走ります。

 いくらビスの足が速いからといって、いくらジュリエッタの体重が軽いからといって、流石に人一人背負って全力疾走するのは体力がいることで、どんどんペースが落ちて行きますが、それでもビスは止まることなく、校門を潜り抜けました。

「あ、こら」

 校門に立っている教師に注意されながら、昇降口で靴を脱ぎ捨て、そして保健室の扉を開け放ちました。

 突然の来訪者に面喰らう先生。

「ど、どうしたんだ」

「先生!助けて下さい。馬渡目さんが」

 汗だくになりながら、必死でそう訴えるビスとジュリエッタを先生は交互に確認して。

「すぐにそこのベッドに寝かせろ!」

「は、はい」

 ジュリエッタをベッドに寝かしたところで、ビスは保健室からの退場を命じられて、渋々保健室を後にして、そのすぐ横の壁で力尽きて座り込みました。

不安そうな顔でビスは額の汗を拭うこともなく、何かに祈るように瞼を潰すんじゃないかというぐらいに必死に目を瞑っています。まるで何かに祈っているようでした。

「……」

 その様子に心を痛めながらも、私は雑記帳を広げて、記録して行きます。

「何している?」

 インカムから聞こえた声に私は苦虫を噛み締めて。

「何度か人にぶつかりました。それに信号無視も一回しましたし、道路を横切りました。ですから」

「マイナス何点だ?」

「え?」

 その質問の意図がわからず、首を傾げながらもマイナス10だと伝えたらインカムから。

「人名救助。プラス11」

「ジョバンニ」

 またもや涙を流しかけましたが、私は必死でこらえて。

「すいませんでした。また余計な事をしようとして」

 そう謝罪する私にジョバンニは何も言ってきませんでした。

 ビスの乱れた呼吸が落ち着き、額の汗が大分ひいてきたぐらいに保健室の扉がガラリと開き、先生が顔をのぞかせて。ニコリと微笑み。

「心配するな。単なる低血圧で倒れただけだ」

「え?」

「しばらく寝かしていたら、目を覚める。この時期にはよくあることなんだ。ほら、今昼と夜との寒暖差が激しいだろう。体がついていかないみたいなんだ」

 よくあることという先生の言葉がひっかかりました。先生はどこまで知っているのでしょうか。

 一方ビスは一気に緊張の糸が切れたのか、その場に倒れてしまいました。

「おい、森!」

 恐らく精一杯、精一杯だったのでしょう。先生も呆れたような顔をしながらも、ビスをベッドに寝かしつけました。

 しばらくの間好きな人と隣同士のベッドで寝ていたのですが、ビスが目を覚ました頃には、ジュリエッタは母親に連れられて早退した後でした。

 目を覚ましたビスに先生は、

「恰好良いじゃないか」

 と微笑んだ後に。

「お前、本当に馬渡目のことが好きなんだな」

 とからかわれて顔を赤くしながら保健室から逃げるように走り去った。

 次の日、ジュリエッタは学校を休んだ。昨日の今日のことでビスは授業中心配そうに何度も、ジュリエッタの席を見ていた。

「授業中上の空。マイナス1ポイント」

 結局、放課後までそんな感じだったので、無駄に自分の評価を下げただけの一日でした。

 私も仕事をしつつ心配になってくる。もしかして、二人は二度と逢えないのではないかという危惧をするぐらいに。

 しかしそんな心配をした直後のことだった。帰り道の道中、いつもジュリエッタと逢う角に彼女は立っていた。

 真っ白なワンピースに青いカーディガンを着ていたこともあって、その姿はいつもより一層儚げで、存在自体がぼやけているようにも見えた。

 もちろんジュリエッタを見つけたところでビスに話しかける勇気もなく、しばらく立ち尽くしていたら、ジュリエッタの方が先にビスを視界に捉えてゆっくり寄ってきた。

 ジュリエッタはビスのすぐ傍のところで立ち止り、ゆっくり頭を下げたのでビスもつられて頭を下げる。とても10代の高校生が出会った時のようには思えないのですが。

「こんにちは」

「こ、こんにち」

「今、少し時間ありますか?」

 その言葉の意味を理解して、返事をするのになんと3分もかかったのですが、ジュリエッタも時間が止まったかのように何も言わずじっと待っていて、ビスが首を何度も高速で縦に振ったのを見て、踵を返し、

「こっち」

 と言って歩き出した。

 ビスも慌てて後を追ったのですが。

「手を繋げとは言いませんが、せめて横に並べよ!」

 これじゃ、デートっぽくないな。まぁ、デートかどうか微妙なところなんですけどね。

「何?また私のご主人にあなたのところは手を出そうとしているの?」

 そう言っていつの間にかに横にいたリタがまるで私がビスを唆したように、ジト目で睨みつけてきます。

「サボりだ!サボりだ!」

「小学生低学年レベルの発言ね」

 失礼な。こちとらもぅ、数百年俱生神やっているのに。

「だいたい誘ったのはそちらなんですけど。後、我がご主人にジュリエッタを誘惑する勇気は一切無いから安心して!」

「……あなた本当にこの二人をくっつける気あるの?」

 何故か呆れたような顔でリタはジュリエッタの右肩に戻って行きました。

 何も言わずに歩き続けるジュリエッタの目の前に公園が現れました。

 公園といっても、遊具で遊べるようなスペースはほとんどなく、そのスペース以外は木々に覆われています。

 真ん中に大きな池があるのですが、昔ここで溺れ死んだ子がいることからそこはフェンスに覆われていて、今は犬の散歩やジョギングする人達が公園の中を通り抜けるぐらいのそんな何もない場所です。

 そしてここには見覚えがあります。

「ジョバンニ。ここって?」

「ああ、ここは確か」

 それはもちろんビスもわかっていて、同じで公園に一歩踏み入れてからずっとソワソワしています。

「あ、あの、ど、どこ」

 さっきから先を歩くジュリエッタの背中にずっと語りかけていますが、当然そんな蚊が鳴くような声じゃ、ジュリエッタどころか、世界中にいる誰にも聞こえません。

 そうこうしているうちに森の中の少し開けた場所に辿り着きました。

 扇形に軽やかな斜面になっているその場所には傾斜を利用して木の椅子がポツポツと置いてあり、その要の中心には小さなステージがありました。

 ステージといっても大人が横に四人ぐらいしか並ぶぐらいの幅しかなく、奥行も1メートルぐらいの無機質なコンクリートで出来たお立ち台のようなステージ。イベントで使われることなんて、年に1〜2回程度。

 いつも風雨に晒されて、所々コンクリは欠けていて、ペンキも剥げています。それでもこの時期はすぐ横にある桜の花びらが散り、綺麗です。

「ほとんど葉桜だがな」

 なんとも情緒のないジョバンニの発言なんて無視して、二人に視線を送る。

 ジュリエッタはその場で立ち止り、じっとステージを見ていると思ったら、急に斜面を降りだしました。

「え、馬渡目さん?」

 ビスにとっては見るのも嫌なそのステージに向かって。

 しかしジュリエッタはステージの途中の木の椅子に座った。

「よく座れるわね、こんな椅子」

 木といっても風雨にさらされてほとんど真っ黒でとても座れるような感じの椅子ではないのに。ジュリエッタってあまりそういうところ気にしないのかな?

 ちなみに我がご主人は椅子の後ろで座りあぐねている。汚れているとかそういう問題ではなく、ただ単にジュリエッタの隣で座って良いのかということを迷っている感じである。ヘタレ。

「森君も座ってくれるかな?話しづらいし」

 ジュリエッタの許可を得てようやくビスは彼女の隣に腰を下ろす。

 しばらくステージをじっと見ていたと思ったら。

「ねぇ、森君はさ。運命ってあると思う?」

 その言葉に私は目を見開き、ビスは……赤くなっています。この脳内いつでもおめでた男は。

「ど、どういうことかな?」

 必死で動揺を隠しています。

「ジョバンニ私は無性にこの男を殴りたい」

 神の気も知らないで。

「お前、今執行猶予中だぞ。暴力沙汰起こしてみろ!」

「……私の寛大な心のおかげで命拾いしましたね」

「お前、もう一度岩宿戻れ!」

 ビスの質問にジュリエッタはゆっくり空を見上げて。

「あのステージに人が立つでしょう?その人ってそのステージに立つのって必然じゃなかったのかな?」

 まぁ、あんなステージ立つなんて誰にでも出来そうな感じがしますけど、そういうことではないのでしょう。

 しかし私にも返答が困る質問です。

 私達は基本見守る存在。つまり、その人が右に行けば右に行くし、立ち止まるというなら立ち止ります。

 だから運命という言葉には正直ピント来ないというのが本音です。

 一体そういうところ人間がどう思っているのか興味があり、不本意ながらもビスの返答を待っていました。

 ビスはしばらくの沈黙の後。

「……ステージに立ちたいの?」

 散々考えた答えがそれですか。いや、恐らく今の沈黙は考える時間じゃなくて言葉にする時間でしょう。

「わからない、かな」

 ジュリエッタの曖昧な返事に流石に首を傾げるビス。

「でも、私には無理かな。耐えられる自信がない」

「た、たえる?」

「うん、ステージに立つってね。凄く大変なことでしょう?何度も何度も失敗や絶望を繰り返して。

 入退院を繰り返していたらね、そういう感情になることが多くてね。一週間後に退院出来ると言われて、その日まで待っていたのに急に病状が悪化して無理になったとか。

 ほら、小さい頃自分の影を踏もうとして大きくジャンプしたことない?

 そして寸前のところでするりと交わされるでしょう?それと一緒で希望が簡単にするりと逃げて行くんだ。そう言うのを繰り返すと思ったら。ねぇ」

 まるで自分に言い聞かせているようなそんな口調で、ビスはその言葉を聞いて何も言えずにただ沈黙していました。その気持ちがわかるとかいうほど、ビスは無神経じゃないです。

「だから、この前も病院をサボってしまって。せっかく出てこられたのにまた逆戻りするんじゃないかって、思えて。でも、その結果が人に迷惑をかける形になったね」

 そこまで言って、ジュリエッタは突然ビスの方を向いて。

「遅れたけど、昨日はありがとう。先生から聞いた。森君が助けてくれたって」

 そう言ってふと笑うその微笑にビスは顔を真っ赤にして、その視線から逃げるように急に立ち上がった。

 もちろん反射的に立ち上がっただけなので、その後のことなんてビスが考えているわけがなく。しばらくウドの大木のようにその場に突っ立っていました。

「あ、ちなみにウドの大木なんてものは存在しないようですよ」

「余計な説明はいらない」

「立ってみない、ステージに」

「「「え?」」」

 思わず私とジュリエッタとジョバンニの三人が同時にその言葉に反応してしまう。

 しかし当の本人、私達はもちろんのことですが、ジュリエッタの返事も聞かずして駈け出し、途中で転んで雑草の上に顔からダイブして、それでも立ち上がりステージに立ちました。

 立った瞬間に一気にビスの顔が真っ赤になりました。それは別にジュリエッタと目が合ったとか、森の中で犬を散歩しているおばさんにクスクス笑われたとかそういうのではないと思います。

 ただ、自分の黒歴史に触れて、必死で一気に羞恥心が込み上がって来たのでしょう。しかし、それでもビスは必死に耐えて、徐に近づいて来たジュリエッタにステージの上から彼女をじっと見つめて。

「ぼ、ぼくも、ステージに立つきもちはよくわからないし、そ、それにぼくはステージに自分が立てることなんて思ったこともない」

 若干の嘘と本音をミックスさせながら、ビスは拳を握りしめて、震えながらも続ける。

「でも、もし馬渡目さんがステージにた、たつことをあきらめずにいてくれるのなら。ぼ、ぼくが、先にステージにたって、そして馬渡目さんをひ、ひきあげるから。だから、その、あ、あきらめないで」

 どうして最後の最後で言葉が萎んで、目を逸らしますかねこの人は。そんなんじゃ、ジュリエッタは……え?

 なんとジュリエッタは目を丸くして、そしてそのか細く細い腕をビスに向かって伸ばしているのです。

「これはあれです。蜘蛛の糸ですよ!蜘蛛の糸!」

「別に救済ってわけじゃないだろう。それに引き上げる立場が逆だし」

 そんな細かい事はどうでもいいのです。これは確かに蜘蛛の糸です。お先真っ暗なビスの人生に垂らされた救済の糸です。

「お前の方がご主人様よりもお先真っ暗なの、自覚してるか?」

 伸ばされたその腕を見てビスは目を見開き、そしてゆっくりとその腕に手を伸ばして掴み、そして力を込めてジュリエッタをステージに引き寄せました。

 ジュリエッタはしばらくステージの上で呆けていました。別にそこから見えるのは木々と荒れ果てた芝生だけなのに、ジュリエッタは目を見開き、必死で周りの景色を自分の目に焼き付けるようにみていましたが、やがて顔を真っ赤にしたと思ったら。

「じゃ、じゃあね。変な話ししてごめんなさい!」

 ジュリエッタにしてはとても早口でそう言って、そして逃げるようにその場から去って行きました。

 なんだったの?

 不意にリタと目が合いました。彼女は何か意味深な不敵な笑みを浮かべていて、私の困惑は益々増すばかり。

 まぁ、でも、何はともあれ。

「よくやったじゃん」

 残されたビスはまたステージの上で一人ぼっちでした。

 いや、ちゃんと私たちが見ているよ。そう言ってやりたい気分でした。

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