田中工務店

「じゃあ、そっち引っ張ってー……よいしょっと!」

 田中のおじさんと、その息子さんと、僕の3人で、おやしろは解体されていった。とは言っても僕は柱を押さえたり、木を運んだり、ごみを掃除したりのお手伝いをしているだけだ。道具に触ったり、危ないような仕事は頼まれていない。

 木槌で叩いて壁を取り外したり、ノコギリで柱を切り離したり、僕の知っているおやしろが、どんどん僕の知らない姿になっていく。ものの2,3時間で、おやしろはすっかり解体され、トラックに載せられてしまった。残ったのはコンクリートでできた建物の土台と、石畳の道の跡だけだ。


「よし、じゃあこれで上がりだな。友也くんありがとうね、助かったよ。」

 田中のおじさんが腰を伸ばしながら言う。

「これ、バイト代っていうか……お駄賃かな?とっときなさい。それと友也君、これ欲しいかい?」

 おじさんが封筒と、オレンジ色の布の袋を僕に渡してきた。

「なんですかこれ?」

 袋の中には黒い石が入っていた。ピンポン玉をきれいに割ったような形と大きさをした、半球状の石だ。

「これは神社にあったご神体だね。桑原さんに聞いたら処分して良いとのことなんだけど、何かゆかりのある物のようだし、大切にしてくれるなら君にあげようと思ってね。」

「へぇ……、ありがとうございます。大切にします。」

 僕は石を袋に戻し、ポケットにしまい込んだ。


 そうして田中のおじさんたちはトラックに乗って去っていった。おじいちゃん達が夜までお酒を飲んでいるはずなので、そっちに合流するらしい。

 トラックに一緒に乗っていくか?と聞かれたけど、なんとなくまだここに居たかったので、それは遠慮した。あと単純に、お酒の入ったおじさんたちは僕にウザ絡みしてくるので、あんまり帰りたくない。


 僕はおやしろが建っていた場所の土台の上を軽く払うと、そこに寝っ転がった。

 夕方まではもう少し時間がある。簡単な仕事とはいえ肉体労働の後なので、横になると気持ちがいい。季節は初夏だけど、周囲の木々が木陰こかげを作り、また風が通るおかげで心地良い。僕が寝転んでいるコンクリートも地面に接しているせいかひんやりとしていて、体を冷ましてくれる。


 昔はよく、嫌なことがあったりしたらここに来て、こうやって軒下で不貞寝ふてねしていたものだ。神様が祀られている神聖な場所ということもあるのだろう、不思議とこの場所に居ると心が落ち着くのだった。

 僕はポケットからご神体の石を取り出して、眺めながら片手でくるくる回す。

「これって、アレだよなあ……」

 偶然だろうが、この形にはとても見覚えがある。


 そんなことをぼんやりと考えていると……ジッ、というノイズのような音が耳に入ってきた。

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