第21章 探していたものは何ですか?
年明けのリゾート地は内陸部よりも暖かい。
しかし、北風が吹く日は肌寒く感じる。
南の島と言ってもやはり冬期はある。普段の気候に慣れてしまえば旅行者には暖かく感じても
島民には冬である。
そんな中、正月休みもないまま働くタケシであった。
ある公休の日の事、タケシは寮でゆっくりとくつろいでいた。
突然、見覚えのある番号からの着信があった。
そう。後輩のしゅんからだった。
いきなりしゅんは
「タケシさん!できました!できたんですよ!」
しゅんが何を言っているのか分からなかった。
「何がだ!」
少し呆れ顔
「こ、こ、こ~~~っ!」
「落ち着けっ!しゅん!何ができたんや?」
深呼吸する声がスマホ越しから聞こえてきて
「子供ができました!」
「はぁ?お前結婚してないやん。彼女はいるの知ってるけど」
「はい!でも出来たんすよ!俺、子供出来ないって言われてたんですけど出来ました!」
「それはいいんだけど、お前結婚するん?」
タケシは落ち着いていた。
「はい!責任とって涼花を一生守ります!」
涼花とは以前からしゅんと付き合っていた彼女だった。
しゅんは数年前に高熱が出て男性の大切な場所に菌だかウィルスだかが入って将来、子供が出来ない可能性があると医者から言われていたらしい。
結婚も考えていたが子供が産みたい彼女に申し訳ないから結婚出来ないといつも言っていたしゅんだった。
そんなあいつからいい知らせの電話だった。
タケシは自分の事のように嬉しかった。
何故ならば彼はタケシにとって弟のような存在だったから。。。お互い身内のいない二人には家族のような存在でもあったからだ。
まだ地元にいたころしゅんと居酒屋に行き、酒を酌み交わしながら【幸せになる条件】について語りあったこともあった。
そして大切な守るべき人が現れた時にきっと幸せと感じる事ができるんだとしゅんは言っていた。
幸せを探すことは
生きて行くには大切な事なんだと。。。
タケシは以前の会話を思い出していた。
「しゅん?探してたもの見つかったか?」
「はい!涼花と産まれてくる子供です!」
「それにはお前はアルコールやめなきゃな」
「やめるすっ!働いて二人幸せにします!」
「あぁ。幸せになれ!俺の分も幸せになれ。いつかお前達の子供を抱っこさせてくれな」
「タケシさんに子供抱っこして欲しいっす!。それはそうとタケシさん?」
「何?」
「タケシさん。。。言い難いのですが、、タケシさんは離島に移住してから探しているものは見つかりましたか?」
「。。。そんなに早くは見つからないよ。」
「タケシさんにとって、本当の探しているものって何ですか?俺はタケシさんは幸せにならなきゃいけない人です。あんなに心込めて幸せになれる飯を作れる人なんですよ。俺はタケシさんはあまり語る人じゃないけど、タケシさんの
賄い食べて思ったんす。寂しい顔たまに見せるけどみんなを幸せにしたいって笑顔にしたいって思って料理してる姿見てきました。だから幸せになって欲しい。」
「ありがとう。。。しゅん。俺にはそんな資格がないから。。。とにかくよかったな。おめでとう。しゅん」
話を遮り、通話を切ろうとした時、その向こうでしゅんは
「タケシさんの探しているものは何ですか?タケシさんも幸せや安らぎ探してたんじゃないですか!」
タケシは通話を切った。
そして、タバコに火をつけ
深い深呼吸をし、煙をいっぱい吸い込んで
ベランダ越しから見えるコバルトブルーの空に
思いっきり煙を吐いた。
「ふぅ。。。幸せか。。。」
一人呟いたタケシだった。
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