第10章 後輩

タケシは国際ホテルに電話した。

そして、繁忙期ではないため予約が取れた。

滞在期間は決めてはいなかったが、しばらくこの地に滞在しようとしていた。


予算はまだ例の遺産が少し残っていたため

スウィートルームにした。

まだタケシの頭の中には(消えてしまいたい)と言う考えは少しだけ残っていた。

だから最後に一番贅沢な時間を過ごそうとした。


ホテルにはam11:00にチェックインした。

部屋は5階の507号室。

ベルボーイに案内されカバンを置くと

さっさと部屋を後にした。


タケシは窓際に向かい景色を見渡した。


2階にはプールがあり、山々に囲まれているが

このホテルは少し高い丘の上にあったため

金沢の街並みが一望できた。


しばらく景色を見たあとにベッドに座り込み

タバコを取り出して深いため息をついた。


何を思うわけでもなくボーッ窓の外の空を眺めていた。


すると。。。


「たーくん。。。私を探して。。。生きて。。。」


また何処からともなくあの車の中で聞こえた女性の声が聞こえてきた。


「あれ。。。またあの声が聞こえる。。。」

「君は誰?」

何処から聞こえてきた声に答えた。

しかし、返事が返って来るわけでもなかった。

タケシは自分の時間を止めようとしてるから死んだ親戚の誰かが言っているのかと思った。

彼には少しばかり黄泉の人間の姿や声が聞こえることがあった。いわゆる、霊感があったからだった。

「死神なら早くこいとか言うんだけど。。。生きてって言ってる。」


しかし、返事はなかった。


やはりこの声には思いや温かさがある声。この声を聴くと熱いものが込み上げてきて優しさがある。でも聞いた事のない声にどうすることもなく

気のせいか。。。とその声を流した。


気がかりなのは慕ってくれていた後輩と唯一の味方であった姪っ子。

しかし、彼等にも旅立つことは言わないでいた。

後輩は心が弱くアル中になりいつもタケシに迷惑をかけていたが、そんな後輩を実の弟のように可愛がっていた。


後輩を思い出し、LINEを開いた。

通話ボタンに手をやるがすぐやめたりしたが、また深いため息をつき、通話ボタンを押したのだった。


呼び出しの音がなる。

しばらくその音はなる。

しばらくすると眠そうな後輩の声がした。

「もし、、もしもし、、誰?」


「しゅんか?。。。」


「あっ!た、タケシさんっすか?」


「お、、おう。久しぶり。。。元気か?まだ飲んでるんか?。。」


「久しぶりっす!タケシさんっ!の、飲んでないすっよ!」


苦笑いしながら

「しゅんは嘘つきだもんな笑、呂律まわってへんぞ。身体気をつけろよ。お前彼女出来たばかりやろ?彼女は大切にしろよ。」


しゅんはタケシに似た幼少期を過ごしているから特に目をかけていた。

そんなしゅんもタケシをいつも兄貴って呼ぶくらい信用していた。


「兄貴?すずさんとは上手くいってるんですか?めっちゃ綺麗な彼女いいですやん。羨ましいな〜。なんで兄貴みたいなおっさんにかわいい子と付き合えるんか世の中はわらない笑。美女と野獣っすよ笑タケシさん笑」

何も知らないしゅんはおどけ交じりに言った。


「うっせ~わw、誰が野獣や。。。あのな?しゅん。。。」

急に真剣に話し出すタケシ。


「な、なんかあったんすか?」


「あ~、いろいろあってな別れたわw」


「え?あっ?えっ?」


「まーね。。。そういうこと。。。騙されてたわ俺。。。別れた。」


「マジっすか。。。すみません。」


「なにも謝ることないよ。」


そしてことの経緯を話して怒り出すしゅん。

タケシは人が良すぎますとか後輩に怒られる始末。だが、しゅんは事の重大さを知り慰めにかかった。

そしてタケシは

「身内とかもいろいろあってさ。。。めっちゃしんどいわ。。。今さ岐阜には居ないんよな。。。」


察したしゅんは

「兄貴。。。まさかと思うけど、兄貴は居なきゃいけない存在っすっ!兄貴の作るメシはみんなを幸せにする。俺は信じてます。兄貴はメシ作り続けてください。」


「あ。。。うん。。。」しばらく沈黙し

「ありがとうな。。。しゅん。。」


「死なんでください。またペペロンチーノ食べさせてくださいっ!俺はタケシさんのように作れないんです。だからまた教えてください。そして彼女にも自慢してるんすっ!タケシさんのことを。そして彼女にもタケシさんのパスタ食べさせて下さい!頼みます。」


「お、おう。。。また連絡するわ。。」


「た、タケシさん。。!?」

そういうとタケシは通話を一方的に消した。


それからしゅんから通話がくるが、拒否しつづけたタケシだった。


部屋に閉じこもり一歩も外には出ず、やがて夕方にさしかかろうとしていた。


この日は雲一つない青空が広がっていた。


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