第6話 人の心熊知らず
リク君の目線を追ってみる。
するとそこには、玄関の前に説明通りのくまさんがいた。
縫い目が分かりやすい、いかにも子供向けなくまのぬいぐるみ。
「りく、自立して成長した姿を見られたのは嬉しいが、あまりにも早すぎないか?」
くまさんは少し寂しそうな立ち住まいでリク君を見る。
「くまさんが言ったんでしょ、ずっと見守ってるって。そんなくまさんがいなくなったら、成長する意味ないよ」
リク君の言葉にくまさんは言葉を詰まらせた。
「まぁでも、君の、自分なりの自立の結果がこれなら、俺は何も言わないよ。むしろ俺を助けようとしてくれたんだろう、ありがとうな」
ちっちゃな少年はうつむいて耳を赤くさせて、嬉しそうに指をもじもじしていた。
「さてさて、これからはずっと一緒だよ。君の行くところについていく、それがどんなに苦難に満ちていてもね。そしたら俺が守って見せるさ」
すでに機械の補正がなくなった声で、くまさんは言う。
少年はうんとうなずき、くまさんに走り寄る。そしてあと少しのところでこちらに振り向くと、彼は言った。
「本当はここにくまのぬいぐるみがいるってこと知ってた。でもね、このまま誰にも知られないままっていうのはちょっと嫌で、なんというか悲しくて、公園で泣いていたんだ。そしたらお兄さんがいた。話に付き合ってくれてありがとう。これで心残りはなくなったよ。じゃあね!お兄さん、お元気で!」
こちらに手を振ると、改めてくまさんの方へ向いて言う。
「じゃあ行こう、無限の可能性を探しに!」
「ああ、そうだな、俺も息子のためにもう少し頑張るか」
最後にリクがくまさんに飛びかかったとき、それは一瞬くまのぬいぐるみではなく、屈強な体をした男の姿に見えた。
気が付くと朝が近いことを知らせる日の光が横から指すような時間になっていて、先程まであった家は更地になっている。
その更地の真ん中には一輪の彼岸花とくまのぬいぐるみが置いてあった。
申し訳なく思いながらも、くまのぬいぐるみの中に手を突っ込んでみる。
すると小さいくてかたいものが入っていたので、それを取り出して見ると、時代遅れのアナログさにふっと思わず笑ってしまった。
その小さなスピーカーをぬいぐるみに戻して赤い彼岸花のそばにそっと置き、俺は手を合わせる。
少しした後、ゆっくり目を開けると、朝日が完全に廃墟の街を照らしていた。
その日の光に包まれた空間に背を向け、無言の別れを告げると、俺はこの場を後にした。
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