第4話 会うは別れの始め
リク君がくまさんと出会ってから日々の生活が前より明るくなった。
くまさんに支えられながら数年経ち、リク君は小学生に上がる。
小学生と言っても、その時にはもう戦時下だったので寺子屋のようなところに子供たちが集まって学ぶようなところに通うだけだった。
そこでリク君は初めて人との友達を作り、友達と遊ぶことの楽しさを知った彼は毎日のようにその子たちと遊んだ。外で遊ぶこともあれば、友達の家でゲームをしに行ったり、それはもう有意義な時間だったという。
そしてその分くまさんとの時間は減っていってしまった。
もちろん帰ったら、話したりなどしていたが、一緒に遊ぶことは少なくなってしまった。
しかし、何気ないことを話すのは楽しかったし、友達とうまくやるための相談も聞いてくれたりもした。
くまさんという存在はいつしか自分の人生の先輩で、友達で、何よりくまさんをくれて次の日にいなくなってしまったお父さんを彷彿とさせる雰囲気に、嬉しく感じるとともに悲しくも感じた。
そう、くまさんはお父さんではないのに、お父さんがもし帰ってこなく...
「お父さんがいつ帰らないと言ったのさ」
顔を上げると、くまさんがリク君を見つめていた。
「お父さんは絶対帰ってくる、それとも帰ってきてほしくないのかい?」
「ちがう、ちがうけど、ぼく知ってるもん、パパはたかかいに行ったんだって」
くまさんは息を飲んだような気がした。
外はだんだんと暗雲に覆われていく。
「友だちが言ってたんだ。たたかいに行った人がもどってくるのはほとんどないって」
男の子のふっくらした頬に生ぬるい粒が零れ落ちる。
「その子はだいぶひどいこと言うね。今の日本は昔みたいに戦争から帰ってきた人を誰も非難したりしないのにね」
「でも、でも!じゃあパパはいつかえってくるの?ねぇ?答えてよ、くまさん。なんでも知ってるんじゃないの?いつもいろんなこと教えてくれるじゃん!」
くまさんのおなかに縋り付きながら、叫ぶように訴える。相変わらず、このぬいぐるみは人間のような温かさを感じる。生きているわけでもないのに。
「ごめんね、それはわからないんだ。元からあった知識は言えるけど、未来のことについては誰も知ることができないんだ」
体を揺らされても抵抗せず、くまさんは淡々と話す。
その喋り方がしゃくに障り、リク君はとうとう言ってしまった。
「昔のことなんてどうでもいいの!今を知りたいの!なんでパパはかえってくるって言わないの?なんでそんな普通でいれるの?お父さんの事をなんにも思ってないくまさんなんか大っきらいっ!」
すべてを言い切った後、自分がとてもひどいことを言ってしまったと気づいた。
今までやって来られたのはくまさんのおかげなのに、友達ができて一緒にいる時間が少なくなっても、不満を言わず自分の話をうんうんと聞いてくれたのは他の誰でもない、くまさんだっていうのに。
何も言えず、お互いが黙ってしまう。何分経ったかわからない。自分にとっては長い長い沈黙のあとにくまさんは言った。
「ならもう、私の役目はないみたいだね」
降り出した雨が強く窓を叩いていた。
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