僕の卒業アルバムにはキミが居ない、

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――から、褒めて欲しいんだ。


 僕は小さい頃から、美しいものを写真に撮って収集するのが好きだった。


 そうなったキッカケは恐らく、五歳の誕生日に母さんから貰ったインスタントカメラ。


 ゲームや他の玩具には興味を示さなかったけれど、当時の僕の目にはなぜか、カメラだけは凄く魅力的に見えたんだ。



「あら、ユウちゃん。貴方の撮った写真はとっても綺麗ね」


 母さんが褒めてくれるのが嬉しくて、僕はたくさんの写真を撮った。


 通学路のカーブミラー、沈む夕陽、手足の捥げたカブトムシ……そして父さんの寝顔。僕が美しいと思ったものは片っ端からカメラに収めていった。



 そうしてお気に入りの写真をアルバムにして、母さんに贈った。


 母さんはそれを見て、泣きながら喜んでくれたっけ。



 そうして高校生になった今でも、僕は写真を撮り続けている。


 インスタントカメラはデジカメに代わり、アルバムはインターネットの投稿サイトになった。


 世界中の人たちに、僕の“美術品アート”を届けられる楽しみは、もはや生活の上で欠かせないものとなっている。


 なのにクラスの奴らは“美”というのを分かろうともしない。



「ユウ、お前は何してんだ?」

「また盗撮でもしてんのか~? どうせなら女子のパンチラでも撮ってこいよ」

「それなー」


 放課後、僕が自分の席でデジカメを持っていると、クラスの男子たちが話し掛けてきた。


 まったく、コイツらは何を言っているんだ。


 人間?? そんな醜いモノを撮るわけがないじゃないか。


 特に女。あんな化粧や香水にまみれた人工物のどこが美しいんだ。自然の美しさこそ、僕が収集すべき美術品なんだよ。


 それをクラスの男子どもはサカった猿のようにチヤホヤしやがって。奴ら、女と交尾することしか頭にないのか?



「ねぇ、やめなって。ユウが嫌がってるじゃん」


 教室に、凛とした声が通った。


 男子たちの前に、僕を護るようにして一人の人物が立ち塞がる。



「ケイちゃん……」


 それはクラス一の人気者である、ケイちゃんだった。いや、学校の中でもケイちゃんの人気は男女問わず絶大だ。陰キャの僕とは違って、誰にでも好かれている。



「んだよ、それならケイが俺たちと付き合ってくれんのか?」

「はいはい。それより、そんなに暇なら勉強でもしたらどう? 受験はもう目の前だよ?」

「う、ぐぅ。たしかに、そうだけどさ……」


 あぁ、やっぱりケイちゃんはさすがだ。馬鹿な男子たちを簡単にあしらってしまった。


 頭が良くて、顔も綺麗で、カッコイイ。



「大丈夫だった?」

「う、うん……ありがとうございます」

「ちょっと、クラスメイトに敬語なんて使わないでよ。……そうだ、放課後ちょっと付き合ってくれない? 一緒に遊ぼうよ」


 そう言って僕の肩をぺシッと叩き、悪戯っぽく笑う。


 アイツらには勉強しろだなんて言っておきながら、僕を遊びに誘ってくれた。それがたまらなく嬉しくて、口元が自然と緩む。


 あぁ、なんて優しいんだろう。ケイちゃんはまさに、僕のヒーローだ。



 そうだ、ケイちゃんなら撮って良いかもしれない。きっと僕にとって、特別な被写体になるに違いない。


 ちょうどいい。放課後、写真を撮らせてもらえないか頼んでみよう。



 ――そう、思っていたのに……。



「なんだ、千景ちかげは今日も欠席なのか?」


 ケイちゃんは次の日から、学校に来なくなってしまった。人気者だったケイちゃんが不登校になったとあって、クラスメイト達は不思議そうな顔をしていた。


 だけど僕だけは、その理由を知っている。



「僕の……せいかな」


 昨日の放課後。ケイちゃんが男子たちに呼ばれて、どこかへ行ったのを僕は見た。


 僕を庇ったばっかりに、アイツらに目を付けられたんだ。


 全部、僕のせいだ……。



「んだよ、アイツ。せっかく声を掛けてやったのに、いきなり不登校かよ」

「ホントだよなぁ。盗撮魔なんかより、俺らと仲良くした方が良いと思って気を利かせたのに」


 自分たちが何をやったのか理解もせずに、勝手なことを……クソッ、許せない。


 だけど無力な僕は、拳を握りしめることしかできなかった。



 ◆


 ある朝、クラスの男子が駅のホームにいるのを見掛けた。


 名前は佐々木だったか、佐藤だったか。アイツの名前なんて興味もないけれど、ケイちゃんに嫌がらせをしたうちの一人だってことは覚えている。


 奴は電車を待つ列の先頭で、眠そうに欠伸をしながらスマホを弄っていた。



 今日は運行の遅延があったのか、いつも以上に人が溢れ返っている。この人混みでは、次の電車に乗るのは難しいかもしれない。


 奴の後ろには多くの人が並んでおり、みな一様にしてうんざりとした表情を浮かべている。これからやってくる電車も混んでいるのが想像に難くない。


 僕も人の波に流されながら、すでに帰りたい気持ちでいっぱいだった。



 そんな時。ふと何かを感じた僕は、そちらへ視線を移した。



「――ケイちゃん?」


 目に飛び込んだのは、ここにいないはずのケイちゃんの姿だった。なぜかホームの最前列に立っていて、他の人たちと同じように平然と電車を待っている。



「良かった……外に出れるようになったんだ!!」


 さすがはケイちゃんだ。人込みの中でも目立つほど美人だから、すぐに分かった。周りよりも頭一つ分飛び抜けているし、そのスタイルの良さもあって、とても目立っている。



 もう二度と会えないと思っていた僕は嬉しくて、思わず笑みが零れた。


 なぜケイちゃんが急に学校へ行けるようになったのかは分からない。だけど僕にとって理由なんてどうだっていい。



 声を掛けたくなる気持ちを抑えつつ。僕はそっと鞄からスマホを取り出して、ケイちゃんに近寄っていく。


 二度とチャンスは逃さない。今のうちに、ケイちゃんの顔を写真に収めておかなくては。


 画面越しに見えるケイちゃんの姿は、まるでこの世のものではないように思えた。



「うわあっ!?」


 突然、列の最前列から、誰かの驚いたような声が上がった。つられて僕はそちらを見た。なぜか先ほどの場所に、佐々木の姿がない。



「人が落ちたぞっ!」


 今度は別の誰かの声が響いた。数人の会社員たちがホームぎわに集まっていく。


 僕もそこへ混じり、ホーム下を覗いてみる。


 あの佐々木が驚きの表情を浮かべながら、線路の上で仰向けに横たわっていた。



「おい、引き揚げろ!」

「ボタン押せ、停止ボタンだっ!!」

「駄目だ、もう電車が来てるぞ!」


 電車が来るまであと数秒。このままだと確実にかれるだろう。そんな状況なのに、僕は冷静だった。



 スマホのカメラを構えて、シャッターを切る。すると、世界がモノクロになった。これは写真の世界だ。被写体である佐々木だけが、色鮮やかなまま目を見開いた。


 カシャリ、と音が響いた。同時に、世界に色が戻ってくる。



「キャアァァアッ!!」


 甲高い女性の叫び声が耳に届く。そして鳴り響く警笛とブレーキの音。


 スマホの画面から目を離すと、そこにあったのは凄惨な光景だった。



 ブレーキは間に合わなかった。列車が通り過ぎた後に残っていたのは、血まみれの肉片だけ。


 泣き叫ぶ女性。それを見守る駅員たち。騒然となるホーム。あれだけ混み合っていた人々が、波のように引いていく。


 誰もが呆気に取られていた。当然だ。



 だけど僕は胸の高鳴りを抑えきれなかった。周囲が騒然とする中、僕は敢えてホーム際へとさらに近付いて行く。



「……美しい」


 無意識に、僕はカメラのレンズを向けていた。ファインダー越しに見える世界はまるで絵画のような光景だ。


 死を目前にして恐怖に歪む顔も、絶望に染まる瞳も、物言わぬ肉片となった後も……全てが美しいと思った。



 僕は誰かにその場から引き離されるまで、無我夢中でシャッターを切っていた。


 ――ケイちゃんの姿がどこにも無いことに、僕は気付きもせずに。



 ◆


 あの日以来、僕の創作活動はさらに加速した。ホーム下で撮った作品をネット上に投稿し、大反響を呼んだのだ。



 初めは投稿サイトに作品を載せていたが、あっという間に削除されてしまった。

 ただのグロテスクな画像だという判定を受けてしまったのはとても心外だったが、そんなことで諦めてなるものか。



 自分でサイトを作り、そこで作品を発表するようになった。

 最初は自分が美しいと思える作品を撮れることに、喜びを感じていた。だけど次第にエスカレートしていく欲求に、僕は次第に溺れていった。



 もっと多くの人に、この美しさを見て欲しい。もっとたくさんの写真を撮りたい。


 そう思うようになってからは、毎日が楽しくて仕方がなかった。



 一方で、ケイちゃんが学校に来ることはあれからも無かった。


 せっかく、ケイちゃんを傷付けたアイツがこの世からいなくなったのに。もしかして、アイツらが全員いなくなるまで待っているのだろうか。



「――いや。ケイちゃんはきっと、自分でケリをつけるつもりなんだ。きっと佐々木のことも、ケイちゃんがやったに違いない」


 きっとそうだ。だってケイちゃんは、僕のヒーローなんだもの。


 なら、僕はその瞬間を撮ってあげたい。ケイちゃんの本当の姿を唯一知る僕が、記録に残してあげるべきなんだ。



「そうだ……それこそが、僕ができる恩返しだよね……」


 待っていてね、ケイちゃん。


 僕は決意を固めると、また新たな被写体を求めて街へ出た。



 ◆


 僕がケイちゃんの偉業を撮り始めてから、二年が経った。


 あれからケイちゃんは二度と学校には来なかったし、成人式にすら現れなかった。


 だけど、それでいい。おかげでケイちゃんは見事に復讐を果たした。残るのは苦しみからの卒業式だけ。



「……あぁ、今日もケイちゃんは綺麗だ……」


 いつものように僕は近所にある公園のベンチに座り、デジカメに記録されたケイちゃんの姿を眺めながら溜め息を吐いた。



 僕は大学へは行かず、自分の創作意欲を満たすために日々を過ごしていた。


 そして今宵もまた、僕はカメラを片手に夜の街を徘徊するのだ。



「――ん?」


 とある直感が働き、思わず顔を上げた。


 視線の先に映ったのは、ジャージを着た長身の人影だった。その人物は公園の脇にある道を歩いていく。



「……ケイちゃん?!」


 珍しい。いつもは制服を着ているのに、今日は私服だ。コンビニにでも寄って来たのか、右手からはビニールの袋が提げられていた。


 そうか。ケイちゃんにとって、制服とは戦闘服なんだ。戦隊モノのヒーローが自分の姿を隠して戦うのと同じ。


 でももう戦う必要もないから、ようやく普段の恰好になたんだね。ある意味では、ずっと僕が待ち続けていたケイちゃんの姿だ。



「待って、ケイちゃんっ!」


 僕は慌てて後を追いかけた。この日のために、準備をしてきたプレゼントがあるんだ。


 だけど思っていたよりもケイちゃんは足が速く、ひ弱な僕ではついていくので精一杯だった。



 幸いにも、目的地は近くだったようだ。


 ケイちゃんは住宅街の中にある、小さなアパートへと入っていった。僕は少し遅れて到着したものの、なんとか見失わずに済んだ。どうやら階段を使って上へ向かったらしい。


 二階の奥の部屋が、ケイちゃんの家なのだろう。


 僕ははやる気持ちを抑えつつ、ゆっくりと扉の前に立つ。



「――ケイちゃん。君が帰ってきたことは知ってるよ。だから、今度こそ会ってくれるよね……?」


 思い切って玄関のチャイムを鳴らす。ピンポーン、という音が鳴り響いてから数秒後、「はい」という返事があった。



「こんばんは、ケイちゃん」

「……えっと、どちら様ですか」


 ドアが僅かに開かれ、隙間から警戒心をあらわにした瞳が向けられた。


 それも当然だよね。だって、今まで君は正体がバレないように、僕から逃げ続けてきたのだから。



「僕は――」


 君のファンです、と言いたくなる気持ちを押さえ、にこやかに答えた。



「僕は、ケイちゃんの写真を撮りに来た、ただのカメラマンだよ」


 その瞬間、ドアノブを握る手に力が込められた。だけどチェーンロックは掛かっていない。それに僕の足はすでに、ドアの隙間へ挟んであるんだよ。



「さぁ、ケイちゃん。早く始めよう」


 僕は力任せにドアを開き、その勢いのまま部屋の中へと入った。


 驚いたケイちゃんは四つん這いになって、廊下の先へと逃げていく。



「ふぅん、ケイちゃんって独り暮らしだったんだ」


 後を追っていくと、そこは六畳ほどの狭い部屋だった。


 中はゴチャゴチャと散らかっている。家族や恋人がいる様子はない。



「ちょ、ちょっと! いきなり来てなんなんだよ、お前は!!」


 慌てるケイちゃんの声を聞きながら、僕はカメラを構える。


 ファインダー越しに見えるケイちゃんは、あの頃のままだった。



「大丈夫。全部分かってるから。ケイちゃんが佐々木を殺したことくらいね。そして、あの男だけじゃなく、クラスのみんなを殺したこともね」


 そう言って微笑むと、ケイちゃんは顔を強張らせた。



「……佐々木? いったい何のことだよ。人違いなんじゃねぇのか!?」


 そんなわけない。あの頃と同じ、男の割に綺麗な顔と細身の身体。そして可愛い悲鳴。



「嘘が上手いね、ケイちゃん。だけど、ずっと見てきた僕には分かるんだ。ケイちゃんがどれだけの人を憎んでいるか。僕だけは、ちゃんと理解してあげられるから」

「……ふざけんな。俺は、誰も殺してなんかいない」

「またそうやって、僕に嘘をつくんだね。いいよ、なら証拠を見せてあげる。ほら、見てごらん。これが、ケイちゃんの本当の姿だ」

「こ、これはっ!?」


 僕はデジカメの液晶画面を、ケイちゃんの方へ向けた。


 そこには全裸の女性が映し出されている。



「これはあの日、僕がケイちゃんにされたことだよ。ケイちゃんは放課後に僕を空き教室へ呼び出し、そして――」


 僕は、あのときのことを鮮明に思い出す。



「――僕のことを、無理やり押し倒したんだ。そして、それを写真に撮った。そうだろ?」

「ま、まさかお前……ユウなのか!?」


 ふふっ。やっと思い出してくれたね。



「久しぶりだね、ケイちゃん。元気にしてたかなって言いたいところだけど、そうじゃないみたいだね」

「うるさい!! お前のせいだ、お前のせいで俺は人生を滅茶苦茶にされたんだぞ!!」


 あははっ、そうだよね。だってまさか、僕が別のカメラで一部始終を撮影していたなんて思いもしなかっただろうし。


 途中であのバカ男子共がケイちゃんを探しに近くを通りかからなければ、そのカメラの存在に気付けたかもしれないけれど。


 証拠写真のおかげで、ケイちゃんは僕に怯えて学校に来れなくなっちゃった。だから、ぜーんぶアイツらと僕のせい。



「でも安心して。ケイちゃんの復讐は終わったから。さぁ、やれなかった卒業式をやろう。僕、この日のために卒業アルバムを持って来たんだよ」


 僕は常に持ち歩いていたバッグの中に手を突っ込み、そこから一冊のアルバムを取り出した。



「や、やめてくれ! お願いだからもう許してくれよぉ!」

「ダメだよ、ケイちゃん。僕はもう君を逃さない。さぁ、これを受け取って」

「ひっ!?」


 僕は泣き叫ぶケイちゃんに向かってゆっくりと歩み寄り、卒業アルバムを開く。


 そこに収められているのは、これまで僕が撮影した元クラスメイトたちの死に様。この世で最も美しい、“死”という芸術品だ。人間が一度だけしか表現できない“死”こそが、人間という生物が持つ美しさの本質なのだから。



「ねぇ、ケイちゃん。ほら見て、どれも美しいだろ? 全部、ケイちゃんがやったんだよ? ケイちゃんだって一緒に写ってるじゃない」

「や、やめろ……」

「あれ、おかしいな。どうして泣いているの? 僕はただ、ケイちゃんの勇姿を写真に収めただけだよ?」


 僕はケイちゃんの隣に腰を下ろし、一緒に卒業アルバムを見つめた。



「し、知らないっ。そもそも、俺はどこにも写ってないじゃないか……全部お前がやったんだろ……やっぱお前、頭おかしいよ……おええっ……」


 苦しそうな声を漏らしながら、ケイちゃんは床の上に胃液を吐き出していた。


 別にとぼけなくたって良いのに。あっ、分かった。照れているんだね??



「安心して、僕は君の味方だよ?」

「うぅ……もうやめてくれぇ……」


 ケイちゃんは涙を浮かべ、必死に懇願してくる。



「これから僕が、あの時ケイちゃんが僕にしてくれたことをそのまま返してあげる――」


 僕はケイちゃんの華奢な首に手を当てる。ずっと太陽の光に当たっていなかったのか、日焼けのない白い肌が汗に濡れて官能的に映った。



「さぁ、ケイちゃんはどんな顔を見せてくれるのかな?」


 僕はあの日、ケイちゃんが僕にそうしたように指先に力を込めた。



「――ぐぎゅるるるるるるっ!!」


 凄まじい勢いで喉仏が上下する。瞳孔が大きく開かれ、口から泡を吹き始める。



「かひゅー……かひゅー……」

「あはははっ! ケイちゃん、とっても素敵だよ! ほら、もっと見せて!」

「ごぽっ……がぼっ……」


 ケイちゃんは白目を剥きながら、ビクンッと身体を痙攣させ始めた。そして股間からは黄色い液体が流れ出し、部屋中に異臭が立ち込める。



「ケイちゃん、最高だよ。大好き」


 仕上げにケイちゃんを抱き寄せる。すると、ケイちゃんの全身がひと際大きくブルリと震えた。



「ああ……愛してるよ、ユウ……」


 ケイちゃんは最期にそう言った気がした。



「うん、僕も愛しているよ」


 僕は微笑みながら、ケイちゃんの唇に自分のそれを重ねた。



「ふふっ、やっぱりケイちゃんのキスは甘いね」


 こうしてケイちゃんはこの世で一番美しい存在となり、僕の長きにわたる卒業制作の活動は終わりを告げた。



「ふふっ」


 窓から月の柔らかな光が差し込む部屋で、僕はベッドに横になりながら今日撮った写真を眺めていた。



「あぁ、なんて美しいんだろう」


 写真の中のケイちゃんは、とても幸せそうに笑っている。



「だけどごめんね。もうすぐお別れなんだ」


 ケイちゃんには申し訳ないけど、そろそろこの世界に飽きてきちゃったんだよね。



「だから、また次の世界で遊ぼうよ」


 ケイちゃんは僕のことを好きだと言ってくれた。ならきっと、ケイちゃんも喜んでくれるはず。



「だから今は、少しの間バイバイしようか」


 僕はケイちゃんとの思い出が詰まったアルバムを閉じる。



「大丈夫。次に目が覚めたときには、ケイちゃんにも僕と同じ景色が見えるから」


 だから、心配しないで。


 僕はケイちゃんの部屋で最後の準備に取り掛かる。縄はある……椅子は借りよう。



「ふふっ、楽しみだなぁ」


 この世界はもう要らない。だから次は、別の世界を探さないと。


 卒業式で定番の旅立ちの歌を口ずさみながら、僕は最後の一歩を踏み出した。

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