突然の・・・・・・、


「さっきオレは確かに警告したよ。逃げるなら今のうちって。でも君は断ったんだ。だからもうその機会をあげるつもりはない。永遠にね。例え君に頼まれても、オレから逃げようとしても、君をもう絶対に手放すことはないよ」



頭の中が爆発しそう。

身じろぎ一つできず、正面を見据えていると、ふわっと体が浮き上がるような感じがして、次の瞬間にはわたしは蓮の目の前に立っていた。

まるで宙に舞う羽毛のようにわたしの体を軽々と扱う。



気がつくと蓮の右腕はわたしの背中に、左腕はわたしの腰に回されている。なんだか足の裏の感覚がない。蓮が左腕を離したら、そのまま倒れてしまいそうになる。

琥珀色の熱を帯びた視線にくらくらする。



腰に回された左腕に力が入り、ぐっと抱き寄せられた。

右手の甲をわたしの髪に滑らせ、そのまま頬をなでる。温かい大きな手が顎の下まで下りてきて、うつむこうとするわたしの顔を上に向かせた。



ゆっくりと優しく。

抗うことは到底無理だ。手足からわたしの力が抜けていく。

蓮の顔がすごく近い。

わたしの皮膚が──蓮の手が触れているところだけが──じんじんと痺れて熱い。

火傷したみたいに。



わたしの視界から蓮以外の全ての輪郭がぼやけて曖昧になってくる。

音も消える。壁の色も。挿してある椿の艶やかな紅も。


──自分自身の存在さえ。


蓮の上品な唇から微かに吐息が漏れる。

あらゆる感覚が蓮にだけ注がれる。


時間も、止まった。

あまりに美しい蓮の顔をずっと見ていたくて、瞳を閉じる一瞬の間さえ惜しくなる。

瞳が艶やかに揺らめいた。

蓮は唇を僅かに開き、わたしの唇にゆっくりと押しつける。



最初は優しくためらいがちに。

触れているのか、そうでないのか分からないくらいの感じで。

でも少しづつ強く、激しくわたしを求めてくる。

何が起きているのか分からず、頭が真っ白になる。



どれくらいそうしていたか分からない。

一秒だったかもしれないし、一分だったかもしれない。あるいはもっと。

蓮と離れたくない。永遠にこうしていたい。

そう思った時、蓮がそっと離れた。



キスの強烈な余韻から抜け出せず、まだ眼が開けられなかった。

腰に回された左手はそのままで、震えて膝から今にも崩れ落ちそうになっているわたしの体を支えてくれていた。



わたしはゆっくりと眼を開けた。

時間が再び動き出した。


きっと顔が真っ赤になっている。


「大丈夫?」

蓮が優しく訊いてくる。そしてなぜか謝った。


「ごめん」


蓮はまだ足下のおぼつかないわたしを抱き上げ、ゆっくりソファに座らせてくれた。



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