余韻
「ちょっと待ってて」
わたしはまだ放心状態で、すぐそばにいる蓮の声がどこか遠くから聞こえる感じがした。
・・・・・・蓮とキス。
・・・・・・しちゃったんだ。
経験がないからキスについてはよく分からないけど、とにかく情熱的なキスだった。いつものクールな蓮からは想像も出来ないくらいに。
──熱くて、刺激的で、心を奪われるような、そんなキス。
「飲んで。熱くないから」
蓮の声で我に返る。
「冬桜の好きなホットココアだよ」
「ありがと」
カップに伸ばした自分の手が微かに震えている。
わたしにも飲める丁度良い温度で、いつもの甘い味に少しだけほっとした。
蓮は何も言わずずっと押し黙ったまま。
視線を感じるけど、恥ずかしくて蓮の顔を直視できない。
「少しは落ち着いた?」
首をぶんぶん振った。
「苦しいくらいにまだドキドキしてる」
下を向いたまま白状した。
あんなキスをされたのに、ホットココアを飲んだぐらいで平常心に戻れるはずがない。
「それは重症だな。オレが家まで抱きかかえていくよ」
そう言って、立ち上がろうとする。
「そ、それは大丈夫!」
飲もうとしてたカップを慌てて置いて手のひらを振って断る。また抱きしめられたら心臓が持たないし、お姫様抱っこで帰るなんてあり得ないし。
蓮がいたずらっ子のような笑みを浮かべてるのを見て、冗談だと気が付いた。
まったく・・・・・・冗談好きな鬼だ。
わたしが時間をかけて全部飲み終えると、蓮は立ち上がった。
「もう遅い。今度こそ本当に家まで送るよ」
さっきママには遅くなるって連絡したし、今日はもう少しだけ蓮のそばにいたかった。
まだ訊きたいこともいっぱいある。
いや、本当は話なんてしなくてもいいから、ただ蓮の側にいたい。
「もう少しだけ一緒にいちゃだめ?」
勇気を出して訊いてみる。
「ダメだ」
蓮は優しく、でもきっぱりとした口調で言った。
こんなこと言うなんて初めてなのに、にべもなく断られて、それまで風船みたいにふわふわ浮かんでいた気持ちはあっという間にぺしゃんこに潰れた。
わたしの落ち込んだ様子に気がついたのか、蓮はため息をついてわたしの隣に来て頭を撫でる。
「オレだって本当はもっと冬桜と一緒にいたい。でも今日はダメだ。こう見えても平静を保とうとかなり我慢してるんだ。でもこれ以上冬桜と一緒にいたら、またこの前のように自分を見失ってしまうかもしれない。そしたら君をこのまま帰したくなくなる。今夜みたいな日はね」
首を傾げながら、どこかやるせない表情をして呟く。
蓮が正直に本心を打ち明けてくれたことと、わたしと同じ気持ちだったことが嬉しくて、にやけそうになる。
あまり感情の浮き沈みはしない方だと思っていたのに、蓮の一挙一動で目まぐるし変わっていく自分の感情についていけない。
「ん、分かった」
素直に応じた。
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