スーパーマン
蓮はほんの一瞬だけ固まったように感じた。
──わたしの気のせいかもしれないけど。
「大分、現実と夢とがごちゃまぜになってるね」
意識がところどころなかったのは事実だけれど、あの時のことはしっかり覚えてる。むしろ時間が経つにつれて、そこだけ切り取られて保存されたかのように鮮明になっていく。
「もちろんわたしも最初そう考えた。あんな状況だったから、わたしの脳が勝手に記憶を作っちゃったのかなって。でも違うよ、あれは夢じゃない」
蓮はすました顔をして、口をつぐんだまま何も言わない。
「蓮は何者なの? 何を隠してるの?」
「何者って、冬桜にはオレが高下蓮以外の何者に見えるんだ?」
「うーん・・・・・・スーパーマン?」
自分でもおかしなことを言ってるのは分かってる。
「とにかく蓮は力が強いし、とても速く動ける。何か秘密がある、絶対に。でも、地球外生命体ではないとは思うけど・・・・・・」
首をひねって考え込むわたしに蓮は笑い出した。
「これだけは誓って言える。家の裏に宇宙船は隠してはないよ」
まぜっかえす。
「もうふざけて」まだ笑っている蓮を睨みつける。
「ごめん、ごめん。でもオレはいつも君だけのスーパーマンでありたいとは思ってるよ」
上手くごまかされた感じだ。やっぱりね。どこまでも認めないってわけだ。わたしはぬるくなったココアを一気の流し込んだ。
問い詰めたところで、蓮は正直に話す訳ないだろうとは思ってたし、こういう展開になることは想定内だ。
もし本当に秘密があって、蓮がそれを隠したいと思っているなら、絶対にボロをだすようなこともない。頭もいいし、弁もたつから上手くはぐらかされてしまうだろうし。
秘密が多いと学校中の女子の間で噂になってるんだから。
火のない所に煙は立たぬって昔から言うように、蓮には何か秘密がある。
「・・・・・・それで、オレの調査はほとんど終わりかな?」
蓮は頬杖をつきながら、訊いてきた。
口許を僅かに緩めながら。
「何のこと?」声がうわずった。
「ここ最近、学校のあちこちでオレを尾行して、熱烈な視線を送っていた可愛い女の子がいたような気がするんだけど」
気づいてたんだ、わたしがいろいろ探ってたこと・・・・・・蓮は勘がいいから、かなり慎重にやっていたつもりだったのに。完全にバレていたとは。
「調査したんなら、レポートにまとめて提出しないとね。オレは他人の評価は全く気にならない。でも他でもない君の評価は気になるんだ。とてもね」
「言ってる意味がよく分からないけど」
わたしはしらばっくれる。恥ずかしくて顔が赤くなった。
「頑固なお嬢さんだ」
くすくすと笑った。
こうなったらプランBだ。
話すつもりがないなら、あの時と同じような状況、つまりわたしの命に関わる危険な状況もう一度つくればいいだけのことだ。
蓮は超人的な力を使ってでも、わたしを助けてくれるだろう。
わたしの眼の前でその力を見せれば、さすがの蓮もごまかすことはできないんだから。
蓮は店の壁に掛けてあるからくり時計をちらりと見た。
十九時を少し回ったところ。
蓮が時間を気にするようになったら、もう帰る時間だ。
高校生が、親に怒られるからと帰宅する時間じゃない。最近の中学生だって塾とか、習い事でこれくらいの時間じゃ帰宅しない。
蓮はどんな時でもあまり遅くならないように注意を払ってる。帰りは家まで送ってくれるし、危険なんてないのに。心配してくれるのは嬉しいけど、わたしはもっと一緒にいたい。
次のセリフは分かってる。
もうこんな時間だね、だ。
「もうこんな時間だ。そろそろ帰ろう」
ほらね。
「もう少しいてもいい? まだママも帰ってないし」
蓮が首を振ってきっぱり言った。
「ダメだ」
こういう口調で言うときは、これ以上交渉しても無駄な時だ。
わたしは仕方なく立ち上がった。
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