知りたいこと②

わたしは咳払いをひとつして、慎重に切り出した。


「実はふたりに訊きたいことがあったんだ。わたしを助けてくれたのって誰? 蓮だよね。意識がはっきりしていなかったから、全部覚えている訳じゃないんだけど、蓮が埋まった雪から引き上げてくれたことだけは、はっきり覚えてるの」


美咲とはずきはお互いに顔を見合わせた。


ちょっと待って。

ひとり焦る。これはこの前の蓮の反応と全く同じだ。


「捜索隊が冬桜を見つけてくれたんだよ。・・・・・・冬桜、もしかして覚えてないの?」

眼を見開いて、美咲が訊く。


──やっぱり。


「覚えてるよ。わたしの記憶では確かに蓮が助けてくれたはずなの。眠りそうになってた時に、冬桜って何度も名前を呼ばれたんだ。・・・・・・それなのに蓮は自分じゃないって言うんだよね」

平静を装ってわたしは言った。


「そりゃ冬桜の勘違いだよ。生徒は安全な室内で全員待機させられていたし、あの状況では誰も自由に動けなかった」


わたしは頷いた。

「それは蓮も言ってた」


「それに、その時もわたし達高下と話したし」


「何を話したの?」


「高下、冬桜が行方不明だって聞いて真っ青になってた。いつどこでどんな状況で冬桜とはぐれたのか、詳しく訊いてきたから説明したんだ。凄く思い詰めた顔をして、今にも飛び出して自分で探しに行くような勢いだったけどね」


「抜け出したとか?」

わたしは身を乗り出した。


「まさか! あり得ない。先生たちもそこに大勢いたし、そんなこと出来ないよ。仮に抜け出せたとしても外は猛吹雪で歩くのも大変なのに、冬桜をどうやって助けられる?」


美咲にはっきり言われると、確かにわたしの言ってることはとてつもなく非現実的なことに思えてきた。


「遭難してる時、きっと冬ちゃんは高下くんを待ってたんだね。それで捜索隊の人が高下くんに見えたんだよ」

はづきがそっと肩をたたいた。


「そういう時ってさ、やっぱり一番会いたい人が出てくるんじゃないの。夢でも幻でも」美咲が言った。


なんだか頭が混乱してくる。


そう言われたら、わたしの確信も急に自信がなくなってきた。

やっぱりわたしの夢なの・・・・・・?


「じゃあ、もう一つ訊いてもいい? わたしを助けたのが誰にしろ、ゲレンデを通って下りていくとき、青と黄色のライトだった記憶があるの。それはどう?」


「どうって言われても・・・・・・ライトねぇ。はづきは覚えてる?」美咲がはづきに視線を向ける。


「分からないなぁ。私達が滑ってる時は、まだライトついてなかったしね。でもなんで?」


「蓮がわたしが夢でも見たんだよって言うからさ。ゲレンデのライトって昼はついていなかったから、わたしは何色か知らない。だから夜になってゲレンデのライトが点灯して、その色が本当に青と黄色ならわたしの記憶は夢なんかじゃなく、現実だったってことじゃない?」


まあね、と美咲が呟く。

「確かにそこは夢じゃなかったっていう証明にはなるかもしれないけど、高下が助けたって証明にはなり得ないね」


「そこなのよ」

わたしは思わず唸った。


蓮と二人の考えは全く同じだった。

つまり、わたしを助けたのは蓮じゃないってこと。


どうしたら本当のことを言ってくれるのだろう。蓮のことだから直接聞いても、どうせはぐらかされるだろうし。


よし、と心の中で言った。

とりあえず、月曜日から学校での蓮の行動を探ることに決めた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る