知りたいこと①
呼び鈴がなって玄関のドアを開けると、勢いよく二人がバッと抱きついてきた。
「退院おめでとー!」
「ありがとう!」
二人から可愛いピンクの花束を渡される。
「ほんと元気そうで良かった。入院中はなかなか面会できなかったし、顔みたら安心したよ」言いながらはづきは瞳を潤ませる。
「心配かけてごめんね」
わたしももらい泣きしそう。
さっき十分で片づけた部屋に二人を案内した。
すぐにノックの音がして、お盆の上に紅茶とケーキを乗せて、ママが部屋に入ってくる。
「こんにちは」
「お邪魔してます」ふたりが頭を下げた。
「この度は冬桜のことで心配かけてごめんなさいね。それに学校の連絡とか、いろいろ助けてもらったみたいで、ありがとうございます。私は出かけちゃうけど、ゆっくりしてってね」
「ありがとうございます」
美咲とはづきが声を揃えて言った。
「無事に退院できて良かった。怪我の状態はどうなの?」
ママが部屋から出て行ったと同時に、美咲が訊いてくる。
「うん、肋骨にひびは入ってるけどそれは自然にくっつくって。ねん挫した右足はまだちょっと痛いんだけど、ゆっくりなら歩けるし。怪我はともかく、もう少し遅かったら本当に大変なことになっていたねって、病院の先生が言ってた」
「あの時、いくら待っても二人が来なかったから、先に行ったのかと思って先に降りて来ちゃったの。待ってれば良かった。冬ちゃんごめんね」
手を合わせてはづきが言う。
「私も冬桜の姿が見えなかった。ごめん」
「ちょ、ちょっと待って。二人のせいじゃないよ!」
「でも私が三人で滑ろうって言って、初心者の冬桜をゴンドラに乗せたから、結局こんなことになっちゃってさ」
「だから違うってば。第一、ゴンドラに乗ろうって言ったのわたしだよ。誰かがぶつかってきて、それで崖の方に落ちちゃったの。だから誰のせいでもないってば。二人が下に降りて先生に言ってくれたから、すぐに捜索が始まってわたし助かったんだよ。二人にはすごく心配かけちゃった。ほんとごめんね」
三人で手を取り合って、無事と退院を喜び合った。
・・・・・・五分後。
ようやく落ち着きを取り戻した美咲は口を開いた。
「さっきの誰かがぶつかってきたって話、どういうこと?」
わたしは病院で蓮に話したことをもう一度、かいつまんで説明した。
美咲とはづきは驚いた顔をしてる。
「・・・・・・じゃ、事故だったんだね」
はづきが力の抜けたような声で言った。
「うん、そう。多分ぶつかってきたのはわたしと同じ初心者じゃないかな。吹雪いてよく前が見えないところに、わたしがあんな所につっ立っていたから」
わたしはそのままになっていたお盆の上のケーキをお皿に取り分けた。
「紅茶が冷めちゃったね。食べよう」
いただきまーす、と皆で食べ始める。
「わたしがいないってなった時、みんなはどうしてたの? すごい騒ぎになってたでしょ?」
「そりゃあもう」と、美咲。
「はづきと下で冬桜を待ってたんだけど、そのうちに下の方も猛吹雪になってきちゃって。もう一度上に行こうと思ったんだけど、強風でリフトが止まったの。それでも冬桜が下りて来ないから、何かあったのかもしれないと思って渡辺先生に言いに行った。先生もスキー場のスタッフにすぐに相談して、スタッフ数人がスノーモービルで探しに行ったみたい。周りは暗くなりはじめたのに、それでも見つからなくて、いよいよ警察も救急車も出動してきたから、騒然となってた」
わたしが雪に埋もれて死にかけていたときに、ロッジで何が起きていたのかを聞くのは初めてだった。
「ふたりは事情を訊かれたりしたの?」
「私とはづきは先生と警察に事情を聞かれたよ。いろんな人が出入りしているうちに、みんなも生徒の誰かが行方不明になってるらしいと気づいて」
そんな場面を想像するだけで、ぞっとする。
自分のためにそんな大騒ぎになってたなんて、変な話だけどそこにいなくて良かった。
でもわたしが訊きたかったことは、そんな事じゃない。
・・・・・・一体、誰が助けてくれたのかってことだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます