尋問
「ふう~」
頭をタオルでぐるぐる巻きにして、お気に入りのバスローブを羽織りソファーに横たわった。湯に浸かりすぎて、まだ頭がぼ~っとしてる。
入院中ずっと寝てばかりいたから、ただでさえなかった体力が、今は限りなくゼロに近い。
「のぼせなかった? あんまり長いから見に行こうと思ってたのよ」
キッチンからママが声をかけてくる。
「ずっとお風呂に入れなかったから、つい長風呂になっちゃった。でもほんと、さっぱりした~」
「オムライス、もうできるけど食べられそう?」
もちろん、と返事してゆっくり起き上がる。
「顔真っ赤よ。はい、麦茶」
「ありがと」
コップにたっぷりと注がれた麦茶を一気に飲み干す。
「いただきます」
オムライスを一口頬張って、噛み締める。うん、この味。ずっと味気ない病院食だったから、より美味しく感じる。やっぱりママの作ったオムライスは最高。
まだ一口も食べていないママが唐突に切り出した。
「ね、蓮くんてさ・・・・・・」
お風呂でずっと蓮のこと考えていたから、ママから蓮という名前が出てきてちょっと面食らう。
「あり得ないほど美形だよね」
うんざりするほど聞いてきた言葉だ。
「そうだね」
「で、彼は冬桜の彼氏・・・・・・なんだよね?」
これも森徳の生徒達からうんざりするほど訊かれた質問だ。
「まあね」
付け合わせのサラダのブロッコリを口に入れたまま答える。
「やっぱり! 入院中も付き添ってくれたし、凄く心配してくれてたもんね。ただの友達じゃないとは思ってたけどそういうことか。冬桜にあんなカッコいい彼氏がいたなんて」ママは嬉しそうな顔をした。
「いつ知り合ったの?」
早速、尋問が始まる。
「転校したその日。思いっきりトイレの前でぶつかったの。それからも事あるごとに助けてもらったんだよね。ピンチの時には何故かいつも」
「アンパンマンみたいね。いつから付き合ってるの?」
例えだとしても、蓮をアンパンマンに例えるなんてセンスなさすぎる。
せめてスーパーマンにして。
「三湖夜祭が終わって少し経ってから」
答えながら、頭の中で蓮とまん丸のアンパンマンの似ても似つかない顔を比べていた。
「どっちから告白したの?」
ママは前のめりになる。
「三湖夜祭でちょっとした事件があったんだけど、そのことで蓮に呼び出されたの。その時に自分の気持ちを言ってくれたから、蓮と言えば・・・・・・蓮なのかな。でもその時にわたしも蓮に告白をしたから同時なのかなぁ」
「三湖夜祭のちょっとした事件て何?」
ママの好奇心はとどまるところを知らない。
「それは黙秘権を行使します。尋問はおしまいです」
質問はいつまでも続きそうだから、わたしはぴしゃりと言った。
「けちなんだから」
ぶつくさと言って、やっとオムライスを食べ始めた。
「まあとにかく入院中も、何回か学校の帰りに寄ってくれたでしょ。だから蓮くんには感謝してるの。それで、落ち着いたら蓮くんとご両親にきちんと挨拶したいと思ってるんだけどどう思う?」
「蓮の家に行くってこと?」
「そこまでしてもらったからお礼に行きたいのよ。だから蓮くんにご両親の都合を聞いておいてくれない? もちろん行ってもいいのか、蓮くんに聞いてからだけど。もし大丈夫なら近いうちに一緒に行きましょ」
「分かった。蓮に訊いてみる」
これは絶好のチャンスかもしれない、とひらめく。ベールに包まれてる蓮の家と家族。これを口実に蓮の秘密に迫れるかも。
スマホが鳴った。三人のグループラインに美咲から。
退院おめでとう。体調はどう?
もし大丈夫なら明日、はづきと一緒に遊びに行ってもいいかな?
ふたりの顔を暫く見ていなかった。
入院中、見舞いに来てくれたのに、わたしが検査で部屋を空けていたから会えなかったのだ。
「ママ、明日美咲とはづき、家に呼んでもいい?」
「いいわよ。ちょうど午後から用事があるから、ママはいないし」
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