疑惑

それから一週間後には無事、退院となった。

肋骨の骨折は、鎮痛薬とバストバンドを使えば、生活には支障はない程度には回復していた。

ギプスも外してもらった。足首の腫れは大分引いてきていて、色も紫色から黄色になってきている。ゆっくりとなら歩くこともできる。運動はまだ当分ダメということで、学校へは足首を固定するサポーターをつければ行ってもいいと先生から許可をもらった。


「忘れものはないわね。じゃ、帰ろうか」

ナースステーションに寄り、スタッフに挨拶をして病院を後にした。




天気は快晴で外はぴりりと寒い。

今日で退屈すぎるこの入院生活から解放され、やっと蓮に会えると思ったら鼻の奥がつんとする。

今は十時二十分。金曜日だから地学の時間だ。

学校は週明けからと言われたけど、このまま学校に行って早くみんなに会いたいな。



「ただいま~」

誰もいないのに、自然に口から出た。

久しぶりの家はほっとする。


「昼食は何食べたい?退院祝いをかねて、どっか美味しいものでも食べにいかない?」


「オムライス」考えることなく即答する。


「オムライス? そんな簡単なものでいいの?」


「うん、ママのオムライスがいい」


「オッケー」


わたしのリクエストがよっぽど嬉しかったのか、上機嫌で鼻唄を歌いながらキッチンに行き、エプロンをつける。


「ちょっと先にお風呂入ってきてもいい?」


病院じゃ体は毎日拭いてもらってたけど、髪は一度洗ってもらっただけだ。

ギプスで固定されていた右足が、ずっと痒くてしょうがなかった。


「いいわよ」


お気に入りの柑橘系の入浴剤をいれた湯船に浸かると、生き返った気がする。



そしてまたあの事を考える。

やっぱりおかしい。入院中に何度考えても、どう視点を変えてもこの答えに辿りつく。


──蓮は嘘をついている。


だとしたら、蓮は何者なんだろう? 普通の人より足が速くて怪力な人?

頭を振った。そんなものじゃわたしが経験したことは説明がつかない。のぼせかけてる頭をも言う一度整理する。



二つの事がはっきりしている。

一つ目は蓮は嘘をついているということ。

人が嘘をつくのはいろんな理由があるだろうけど、この場合恐らく何かを隠すためだ。蓮は何を隠そうとしてるんだろう。


そして二つ目は、彼は・・・・・・かなりの確率で人間じゃないってこと。


バカげてる!

人間じゃないとしたら、一体何者だって言うの?

自分の答えに自分でツッコむ。



こんなに化学が発達している時代だから、サイボーグとか人体実験されて特異な能力を身につけたとか、宇宙人とか・・・・・・はっきりいって、どれも映画か漫画の昔からあるありきたりな設定だけど。



思考がここから一ミリも先に進まない。行き止まりだ。

考えてみれば付き合ってから半年以上経つのに、わたしは蓮のことをあまり知らない。住んでいる場所だって、わたしが住む上芝市の隣の市のはずれってことしか聞いたことはない。



正確な住所は知らないし、実際に行ったこともない。知ってるのは家族は両親と兄がいるということだけ。蓮は秘密が多すぎる。



だめだ、のぼせて頭がくらくらしてきた。

雪山で低体温で死にかけたばかりなのに根根今度は風呂場でのぼせて倒れたりしたら目も当てられない。

そんなバカなことしたら、間違いなく怒り狂ったママに息の根を止められそう。

右足に気をつけながら、ゆっくりと湯船からあがった。

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