スキーレッスン①

「レッスンはいつまでなの?」


「お昼までだよ。それくらいやれば少しは上達できるかなぁ。蓮は友達と滑るの?」


蓮は少し考えて答えた。

「そうするつもり」


「運動神経抜群の蓮は、もちろんボードも上手なんでしょ」


「訊くまでもないだろ」唇の片側を上げてニヤリとする。

だと思った。蓮が出来ないことを見つけることが難しい。


「今日ばかりはわたしの子守はしてくれないのね」

拗ねた口調で言ってみる。


「いや、冬桜が一緒に滑ってくれるならオレはもちろん嬉しいけど」


わたしは笑った。

「冗談よ。わたしは初心者だから上まではとても行けないし。蓮は友達と楽しんで」



わたしはレッスンの集合場所に視線をやった。

すでに何人かの生徒達が集まり始めている。


「・・・・・・じゃあ、そろそろ行くね」


「自然相手のスポーツだからね。最初は基本をしっかりと教えてもらった方がいいよ」


わたしは頷いた。

「しっかり勉強してきます」


「ところどころロープが張っていない所もあるから、端には行っちゃだめだ。それと周りを見ていないボーダーもいるから衝突事故にも気をつけて」


「うん、分かった。インストラクターもついてくれるし、初心者コースしか滑らないみたいだから大丈夫だよ」


「午前はインストラクターがついてくれるからいいけど、午後は?」

心配そうな表情。


「午後は美咲とはづきと滑るよ。二人は経験者だし、何かあったら助けてくれるから」


「・・・・・・じゃあオレがぴったり張り付いていなくても大丈夫かな。冬桜はなんだか危なっかしいところがあるからさ」


優しく笑う。わたしの好きな笑顔。

思わず見とれて、雪の深みにはまり転びそうになる。

蓮が腕を伸ばし、わたしの身体を支えてくれた。


「・・・・・・ったく。言ってるそばからこれだから」


蓮はわたしをぐっと自分の方に引き寄せた。


「これだから、オレはいつも心配で冬桜の側を離れられないんだ」

耳元で囁いた。


ちょ、ちょっと、他の生徒もいるのに・・・・・・動揺する。

鏡を見なくても分かる。わたしは耳まで真っ赤なはずだ。

蓮はくっくっと肩を揺らしてる。


からかわれたのに気がついて、雪をぶつけてやろうと、雪を丸める。

蓮はいち早くそれに気がついて、笑顔で行くね、と手を振り行ってしまった。

ふと顔をあげると、保健室の林先生と眼が合った。蓮とのやりとりを見られていたらしく、林先生は笑顔で小さく手を振ってくる。


スキーの初心者レッスンを受けるのは十五人くらいだった。二年生は三百人くらいはいるのに、そのほとんどはボード、スキーの経験者だということだ。

男子も数人はいたけど女子がほとんど。


まずはスキーの履き方、板のはずし方、歩き方。転んだ時の起き上がり方。

それができるとやっと滑り方の練習。滑るのは簡単。板をまっすぐにすれば勝手に滑っていってくれる。そして、止まり方、曲がり方。一人一人順番に滑って、丁寧に教えてくれる、ふかふかの雪だし、転んでも全然痛くない。スピードが出ると、やっぱり怖くて腰がひけちゃうけど。



ある程度練習したら、みんなでリフトに乗ってもう少し傾斜のきつい所まで行った。ゲレンデを下から見上げると大したことないのに、いざ斜面の上に立ってみると足がすくむ。


先生がお手本を見せてくれるので、それに続いてゆっくりと滑っていけばいい。鈍くさいわたしでも、これくらいなら楽勝だ。

油断して何回か転んだけど。

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