スキーレッスン②


リフトから降りてはじによって待っていると、すぐ後ろのリフトから降りて来た二人の女の子の一人が、キャーと声をあげながら突っ込んできた。

わたしのスキー板にぶつかり転びそうになったけど、なんとか堪えた。


「ごめんなさ~い。大丈夫?」


「大丈夫です」


態勢を立て直しているわたしの横を、二人はにやにや笑いながら通り過ぎ、滑っていく。



「じゃあ、そろそろ十二時になりますので、これで最後になります。滑って終わりにしましょう」


リフトに乗って上がっていくとき、真下のゲレンデで濃紺のウエアがコブをひらりと跳び、スピードを落とすことなくもの凄い速さで下まで滑っていくのが見えた。

あ、蓮だ。・・・・・・と思った時には、どんどん視界から遠ざかっていく。

訊くまでもないだろ、という言葉通りだ。すごく上手。


リフトから降りて列の最後に並ぶ。


「じゃあ、下まで止まらずに滑っていきまーす」


インストラクターに続き、間を空けて順番に滑りはじめる。

スキー場に着いた時からずっと雪が降り続けていて、その上風もだんだん強くなってきていた。止まっていると、かなり寒い。グローブの中の手もかじかんでくる。


「あなたが、吉野さん?」


声の方に顔を向けると、さっきリフトを降りた所でぶつかってきた二人だった。

ゴーグルをつけているから表情がよく分からないけど、嫌な感じだ。こういう事にはもう慣れていて、いくらか免疫ができていたと思っていたけど、やっぱりダメだ。

楽しかった気持ちが萎んでいく。


「そうですけど」


「あなた、高下くんとつき合ってるのよね?」


言葉には出さないけど、彼女の声が聞こえた気がした。

なんで、あなたみたいなのが、と。


「転校生なんでしょ」もう一人の子が言った。

二人の不躾な態度に返事をする気もなく、わたしは黙っていた。


「あなたみたいな人のどこがいいんだろう・・・・・・信じられない」


そう言って、わたしの真横をかすめるように滑っていく。

肩がぶつかり、バランスを崩したわたしは尻餅をついた。

立ち止まり、振り返って言った。


「どんくさい子」


くるりと身を翻して見事なシュプールを描いて滑っていく後ろ姿を、呆気に取られながら見ていた。雪まみれになったウェアを両手ではたいて、雪を落とす。

二人とも凄く上手だった。少なくとも、リフトから降りて人にぶつからない程度には。

・・・・・・気にしない、気にしないと呟いた。


我に返り、慌てて滑り降りた。



滑り終わった生徒達が、集まってわたしを待っていた。

すいません、と謝り輪に加わる。


インストラクターがちらりと時計を見た。


「みなさんお疲れ様でした。レッスンはこれで終わりです。これだけ基本的なことができれば、十分中級者コースも大丈夫です。午後からは怪我には気をつけながら、もう少し上のコースもぜひ滑ってみて下さい。それではお疲れさまでした」


「ありがとうございました」

頭を下げて、みんな散らばっていく。


スキーブーツは重くて歩きにくい。ゲレンデの中央に位置するパウダーステーションに向かう。丁度お昼時とあって、中は空席がないほど生徒で埋め尽くされている。むんむんとした熱気で、あっという間にゴーグルが曇る。

ご飯は一緒に食べようとふたりと十二時に約束していた。今十二時十五分。

少し遅れちゃった。

曇って視界の悪いゴーグルを頭の上にずらして二人を探す。


「冬ちゃん」はづきに肩をたたかれる。

「お疲れさま。席とってあるよ」


ウエアもニット帽も脱いで、すっかりくつろいでいる美咲が訊いた。

「レッスンどうだった?」


「楽しかったけど、疲れたぁ。遅れちゃってごめんね」


室内はむわっと暑くてウェアと中に来ているインナーも脱ぐ。

板の上に乗ってるだけだから、たいした運動量じゃないと思っていたのにへとへとだった。変なところに力が入っているのなのか、足のすねも痛い。

ブーツの金具をいくつか外して緩めた。


「お腹空いた。じゃご飯買いに行こ~」

美咲に続く。


中学から文化部であまり体を動かさないわたしにとって、こんな空腹感を感じるのは久しぶり。二人前でもぺろりと平らげてしまいそう。


「二人はどうだった?」


スキー場で定番メニューのカツカレーを頬張りながら訊く。


「頂上まで行ったよ。ちょっと怖かったけど。美咲は余裕って感じだったね」

はづきはカレーが辛いのか、フーフー言いながら水を飲む。


「まあね」

ふふん、と美咲が得意げな顔をする。

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