スキーレッスン②
リフトから降りてはじによって待っていると、すぐ後ろのリフトから降りて来た二人の女の子の一人が、キャーと声をあげながら突っ込んできた。
わたしのスキー板にぶつかり転びそうになったけど、なんとか堪えた。
「ごめんなさ~い。大丈夫?」
「大丈夫です」
態勢を立て直しているわたしの横を、二人はにやにや笑いながら通り過ぎ、滑っていく。
*
「じゃあ、そろそろ十二時になりますので、これで最後になります。滑って終わりにしましょう」
リフトに乗って上がっていくとき、真下のゲレンデで濃紺のウエアがコブをひらりと跳び、スピードを落とすことなくもの凄い速さで下まで滑っていくのが見えた。
あ、蓮だ。・・・・・・と思った時には、どんどん視界から遠ざかっていく。
訊くまでもないだろ、という言葉通りだ。すごく上手。
リフトから降りて列の最後に並ぶ。
「じゃあ、下まで止まらずに滑っていきまーす」
インストラクターに続き、間を空けて順番に滑りはじめる。
スキー場に着いた時からずっと雪が降り続けていて、その上風もだんだん強くなってきていた。止まっていると、かなり寒い。グローブの中の手もかじかんでくる。
「あなたが、吉野さん?」
声の方に顔を向けると、さっきリフトを降りた所でぶつかってきた二人だった。
ゴーグルをつけているから表情がよく分からないけど、嫌な感じだ。こういう事にはもう慣れていて、いくらか免疫ができていたと思っていたけど、やっぱりダメだ。
楽しかった気持ちが萎んでいく。
「そうですけど」
「あなた、高下くんとつき合ってるのよね?」
言葉には出さないけど、彼女の声が聞こえた気がした。
なんで、あなたみたいなのが、と。
「転校生なんでしょ」もう一人の子が言った。
二人の不躾な態度に返事をする気もなく、わたしは黙っていた。
「あなたみたいな人のどこがいいんだろう・・・・・・信じられない」
そう言って、わたしの真横をかすめるように滑っていく。
肩がぶつかり、バランスを崩したわたしは尻餅をついた。
立ち止まり、振り返って言った。
「どんくさい子」
くるりと身を翻して見事なシュプールを描いて滑っていく後ろ姿を、呆気に取られながら見ていた。雪まみれになったウェアを両手ではたいて、雪を落とす。
二人とも凄く上手だった。少なくとも、リフトから降りて人にぶつからない程度には。
・・・・・・気にしない、気にしないと呟いた。
我に返り、慌てて滑り降りた。
滑り終わった生徒達が、集まってわたしを待っていた。
すいません、と謝り輪に加わる。
インストラクターがちらりと時計を見た。
「みなさんお疲れ様でした。レッスンはこれで終わりです。これだけ基本的なことができれば、十分中級者コースも大丈夫です。午後からは怪我には気をつけながら、もう少し上のコースもぜひ滑ってみて下さい。それではお疲れさまでした」
「ありがとうございました」
頭を下げて、みんな散らばっていく。
スキーブーツは重くて歩きにくい。ゲレンデの中央に位置するパウダーステーションに向かう。丁度お昼時とあって、中は空席がないほど生徒で埋め尽くされている。むんむんとした熱気で、あっという間にゴーグルが曇る。
美
ご飯は一緒に食べようとふたりと十二時に約束していた。今十二時十五分。
少し遅れちゃった。
曇って視界の悪いゴーグルを頭の上にずらして二人を探す。
「冬ちゃん」はづきに肩をたたかれる。
「お疲れさま。席とってあるよ」
ウエアもニット帽も脱いで、すっかりくつろいでいる美咲が訊いた。
「レッスンどうだった?」
「楽しかったけど、疲れたぁ。遅れちゃってごめんね」
室内はむわっと暑くてウェアと中に来ているインナーも脱ぐ。
板の上に乗ってるだけだから、たいした運動量じゃないと思っていたのにへとへとだった。変なところに力が入っているのなのか、足のすねも痛い。
ブーツの金具をいくつか外して緩めた。
「お腹空いた。じゃご飯買いに行こ~」
美咲に続く。
中学から文化部であまり体を動かさないわたしにとって、こんな空腹感を感じるのは久しぶり。二人前でもぺろりと平らげてしまいそう。
「二人はどうだった?」
スキー場で定番メニューのカツカレーを頬張りながら訊く。
「頂上まで行ったよ。ちょっと怖かったけど。美咲は余裕って感じだったね」
はづきはカレーが辛いのか、フーフー言いながら水を飲む。
「まあね」
ふふん、と美咲が得意げな顔をする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます