クリスマス
学校に戻り、会議室で顧問の先生と生徒会メンバーも交えて今日の反省会。
一時間ほどで終了。
一大イベントを終えて、これでようやく冬休みに入れる。
とんとん、と肩を叩かれ振り返る。
これ、と直井くんが何かを差し出す。
「何?」
「クリスマスプレゼント。なんか吉野にいろいろ無理させちゃったし、そのお詫びもかねて」
「そんなのいいのに」
「別に高価なものじゃないから、受け取って」
「ありがとう」
雪だるまの絵柄の小さな袋で、金色のリボンで縛られている。
「開けてみて」
リボンをほどき、破れないように気をつけながら開けると、コントラバスをモチーフにしたチャームが入っていた。
「わ、可愛いっ」思わず声をあげた。
コントラバスの細部まで精巧に作られている。
「うれしい。大事にするね」
「喜んでもらって良かった」
一緒に帰る約束をしているのに、蓮の姿がさっきから見えなかった。
どこ行ったのかな。
『今、どこ?』
LINEで送る。暫くしても既読はつかない。
四階の教室をざっと探したけど、人のいる気配はなかった。
どこにいるんだろう・・・・・・。
三階に下りてみると、廊下の突きあたりの教室の明かりがドアのガラスから廊下に漏れていた。
誰かいるみたいで、教室の中から女の人の高い声が聴こえた。
近づいてみると、次第にはっきり聞こえてくる。
万華さんの声だ。少しだけ開いているドアからちらりと覗くと蓮もいた。
ドキリとした。
蓮を向かい合うように立っている万華さんが見えた。
蓮は廊下に背中を向けるようにして立っているから、ここから表情は見えない。
万華さんと蓮がふたりきりで、何の話をしてるんだろう。
「・・・・・・だからと言って、私の気持ちはどうにもならない。蓮のことが好きなの。このまま諦められない」
ドアの隙間から漏れる万華さんの声は少しいつもと違う、鼻声だ。
泣いてる・・・・・・?
人の話を盗み聞きするなんてダメなのに、足が動かない。
蓮が万華さんに向かって、何か言っている。
でも低い声でよく聞き取れない。万華さんが眼を見開き驚いたような表情になる。
「期限付きってどういうこと?」
万華さんの声がオクターブ跳ね上がった。
期限付き。その言葉に凍り付いた。
期限付きで始まったわたし達の交際。蓮はそのことを万華さんに話しているんだ。
「・・・・・・それなら、期限が終われば私にもチャンスはあるってこと?」
ガツンと、頭を思い切り叩かれた気がした。
沈黙が流れる。
また蓮が低い声で話し始めた。それも聞こえなかった。
わたしがずっと考えていたことだ。期限が終わったらどうなるのか。
これ以上は聞いていたくなかった。早足でその場を離れる。
頭の中は、万華さんのセリフがぐるぐる回ってる。
『期限が終われば私にもチャンスはあるってこと?』
蓮に呼び出されたあの日のことを思い出す。
なんで期限を決めたのか。今でも蓮に訊けないでいる。
答えを知るのが怖いからだ。
・・・・・・蓮はどうしてそんなこと万華さんに言ったんだろう。
期限が切れれば、わたし達は終わってしまうのかな。
賞味期限がきれた冷蔵庫の中の食べ物みたいに、わたしは捨てられてしまうのだろうか。
それを万華さんに言ったことも、ショックだった。
階段の踊り場でうずくまっていると、スマホの液晶が光った。
『会議室にいるよ。冬桜はどこにいる?』
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