第25話 人脈は最大限に活用します~婚約者にすっぽかされたのを幸いに、王妃様とお茶会します~

 皆様ご機嫌よう。転生公爵令嬢シャイスタです。私は今、王宮の一室に向かっております。第二王子用の応接室です。目的は、婚約した第二王子、ユリウス様との親睦を深めるお茶会のため。週に1回登城しているのですが。

「あの、シャイスタ嬢、申し訳ございません。ユリウス殿下は本日…」

「また差し障りがあって来られないのね」

 ユリウス様の侍従であり、ロッソ伯爵家次男のルーイ様がオドオドと言い訳と謝罪を口にします。細身で童顔の彼は、いかにも主に振り回されています感があって、怒る気も失せます。まあ、本来ならば、主人を管理して、きちんと客を対応させるのも侍従の仕事のうちだと思いますがね。言っても仕方のないことは黙っておきましょう。

「はい。申し訳ありません」

「…ま、いいわ。私だけお茶をいただくわね」

「もちろん。どうかおくつろぎくださいませ」

 深々と腰を折った彼の背後から、侍女がお茶をサーブしにやって来ます。いつものことです。しかし、そろそろすっぽかしも三回目なので恐らく今日あたり…、

「シャイスタ。ごめんね。またうちの馬鹿息子が約束をすっぽかして」

「王妃様。ご機嫌麗しゅう存じます」

 予想通りの狙い通りです。息子の尻ぬぐいのため、三回連続すっぽかされると、王妃様が私の相手をしてくださりに登場なさるのです。ちなみに、王妃様登場の次回は、王妃様の命によって捕まえられたユリウス殿下が、不機嫌そうにお茶会に出て来られます。正直、いくら婚約したとはいえ、別に好きでもない不機嫌な男と茶を飲む時間は苦痛です。だから、もうお茶会なくてもいいんじゃね?って、内心思っていますが、外聞もありますし、口には出せません。王妃様と親しくお話できるのが報酬と思って頑張っています。

 で、本日はこの王妃様という最大最強の人脈を使って手に入れたいものがあるのです。

「王妃様のお肌はいつも肌理が細かくてお綺麗でうらやましいです。お手入れは何をなさっているのですか?」

 まずはさりげない雑談から入ります。玄人の淑女はいきなり本題には入りません。

「あら、シャイスタから褒められるなんて嬉しいこと。そんなに特別なことはしていないのだけれど、私は…」

 しばらくお肌のお手入れ談義に花を咲かせました。王妃様も美容への関心がかなり高いようで、あれこれと色々なお話が出て来ます。これはこれでなかなか…。っと、本題を忘れてはいけません。

「そう言えば、先日、冒険家のダンゼル氏のお話を小耳に挟んだのですが、南方の国で使われるおしろいは、植物の種からとるそうでございますね」

「あら、よく知ってるわね」

 王妃様は少し驚いた様子です。まあ、冒険と言えば男の浪漫。どちらかと言えばあまり女性が食いつく話題ではありませんからね。

「えぇ、実は私、悩みがありまして…」

 お母様のことは伏せるために、私は自分の肌がおしろいでかぶれるのだという話を王妃様にしました。まだ若い私なら、今すぐおしろい化粧は必要ありませんし、体質が変わったと言って、おしろいを使えるようにすることも出来ます。でも、おしろい必須世代のお母様がおしろいが駄目になって引き籠もっていると世間に知れれば、あることないこと言われるでしょう。厚化粧の下は皺だらけでとても見られたものじゃない、とかね。

 切々と、この先お化粧が必要になった時に不安だと訴えると、王妃様は同情してくださいました。

「なるほど。それは困ったわね。鉛白が駄目だとすると、かなり粗悪なものしかないものね」

 王妃様は片手を頬に当てて思案顔になられます。情報通の王妃様でも、鉛白以外のおしろいには心当たりがないようです。

「やはり、そうなのですね。それで、南方のおしろいならひょっとしたら、と思って…」

 私は一度言葉を切りました。いきなり直接的なお願い事はさすがの私もちょっとしにくいのです。

「わかったわ。今回は南方の国の発見と航路開拓ばかり目が向いていたから、私も化粧品のことまでは通りいっぺんに聞いただけで、よく知らないの。よかったら、ダンゼル氏を招いてお茶会をしてあげるから、直接お話しなさい」

「!ありがとうございます」

 うっかり大きな声にならないよう抑えましたが、願ってもない展開に思わず声が弾みます。

「あら?そんなに可愛らしい顔で喜んでもらえるなんて、嬉しいわ。つい甘やかしてしまいそう」

「え?」

 王妃様がクスクス笑うものですから、私は思わず両手で頬を押さえました。そんなにわかりやすい顔をしていたのでしょうか?いけません。淑女の資質を問われます。

「近いうちに招待状を出すわ。楽しみにしていて?」

「はい。ありがとうございます。お待ちしております」

 私は改めて、淑女にふさわしい微笑でもって応えました。

「そんなに畏まらなくても、さっきみたいに年相応の顔を見せてくれたらいいのに…」

「そ、そうでしょうか?」

 これぞ完璧な淑女スマイルと思っていたのですが、逆に王妃様には残念そうです。

「そうそう。素に近いあなたの方が、可愛くて私は好きよ」

「はぁ…」

 思わぬところを褒められて、私は困惑しながら王妃様とのお茶会を終えたのでした。

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