25歳で4歳の公爵令嬢に転生しましたが、前世以上に楽じゃないってどういうことでしょうか?~王子の婚約者として普通のことをしているはずなのに、なぜか悪役令嬢っぽくなるのですが?編~
第23話 おしろい事案解決に向けて~私、悪役令嬢の演技を覚えました~
第23話 おしろい事案解決に向けて~私、悪役令嬢の演技を覚えました~
皆様ご機嫌よう。転生公爵令嬢シャイスタです。とりあえず昼餐会は終わりましたが、問題は山積しております。その筆頭が、お母様のお化粧問題です。
「お母様。いかが?」
「駄目だわ。赤くなってる」
肌荒れそのものは、一切おしろいや化粧水をつけずに、朝夕ぬるま湯で顔を洗うだけにしたところ、7日ほどで概ね治りました。ただ、お母様が試すために山ほど購入して使っていた各種おしろいは全てパッチテストの結果、肌荒れを引き起こすことがわかりました。
「お母様、化粧水とクリームはどう?」
「こっちは大丈夫みたい」
ホッと私は一息つきました。基礎化粧品はなんとかなりそうです。
「お母様。ひとまず、元の肌をなるべく美しく保つことから始めましょう。荒れないことが確認された化粧品だけを使ってくださいね。入浴剤もですよ」
「ええ、もちろんよ」
私はジェシカにも、パッチテストをクリアした化粧品や入浴剤以外使わないよう伝えて、お母様の部屋を後にしました。
「こうなったら、お母様のお肌に合うおしろいを一から作るしかないかしら」
私はため息をつきました。しかし、素人には、おしろいを何から作ればいいのか、さっぱりわかりません。
「レベッカ、おしろいって何から出来てるの?」
「お嬢様。私は何でも知っているわけではないのですよ」
「そうよねぇ」
言ってみただけです。
「ですが、知ってそうな人が二人ばかり心当たりがあります」
「誰!?」
さすがは元間諜。答えは知らなくても解決法は知っている。
「一人は、メリル夫人です」
「メリル先生?確かに博学だけど、おしろいのことまで詳しいかしら」
「おしろい自体はどうかわかりませんが、恐らくおしろいに使われている原料ならば詳しい可能性が高いかと」
「あぁ、確かに」
メリル先生は私の家庭教師の役割を終えた後は本格的に動植物の研究に邁進しておられます。元は毒と解毒の研究から始まっているのですが、その過程で薬理作用のあるものはたいてい頭に叩きこんだらしく、下手な医者より薬に詳しくなってしまわれました。
「もう1人は?」
「化粧品を作る職人」
「そりゃそうでしょ!」
当たり前すぎる答えに私は思わず突っ込みました。
「作っている人に聞けば間違いありません」
「だけど、商売の種をそんな簡単に教えてくれる?」
「だから、そこで公爵家の権力を振りかざすのですよ」
レベッカは私の耳元でゴニョゴニョと作戦を呟きました。
「えー?私がそれやるの?」
「適役はお嬢様です」
「はぁ…」
レベッカの立てた作戦に、私は本日2度目の深いため息をつきました。
「お前があのおしろいを作ったの!?」
眦を吊り上げた私は目の前で小さくなっている職人に居丈高に問いかけました。もちろん、出入りの商人から辿って呼びつけたのです。
「へ、へぇ。そうでごぜぇます」
小太りで小柄な中年男がさらに小さくなりながら答えます。
「見なさい!」
私は手袋を外した腕を見せます。そこには、赤い湿疹が出来ていました。もちろん、これは仕込みでわざと作りました。
「お前のおしろいを塗った後よ。うっかり顔に塗っていたらと思うとゾッとするわ!誰に頼まれたの!?」
皆様お馴染みでしょう。陰謀論です。
「は?」
「頼まれて毒を混ぜたものを我が家に売りつけたのでしょう!?白状なさい!」
我ながらなかなかに一方的だと思いますが、これも目的のため。ヒステリックで逆らっちゃいけない面倒な令嬢を演じます。
「め、滅相もない。毒なんて入れておりません。そもそも入れたところでこちらを狙って売るなど、間に商人も入ってるのに無理です」
ですよねー。私もそう思いますが、無知なお嬢様は納得しません。
「我が家が贔屓にしている商人がわかっていれば、目星をつけることも出来るでしょう。他にも協力者がいた可能性だってあるしね」
「勘弁してください。本当に毒なんて知りません」
もうちょっと言い訳するかと思いましたが、存外早くに半泣きでひたすら知らないを繰り返すモードに入りました。では、次のフェーズです。
「本当に毒ではないの?」
「はい。もちろんです」
「では、なぜこんなことになるの!?」
「お、恐れながら、ごくまれですが、肌におしろいが合わないご婦人もいらっしゃると聞きます」
「冗談じゃないわ!私に一生おしろいを使うなと言うわけ?」
「いえ、あの、あう、ものを、お使いになればと…」
「では、何が合わないのか、調べなくてはね」
「はい、はい。その通りでございま…」
「おしろいには、何が入ってるの?材料を教えなさい」
「ええ!それはちょっと…。弟子にだけ教えるものですので…」
「…」
予想通りの展開ね。
「そう…」
私はスッと立ち上がり、部屋の出口へ向かいました。
「レベッカ。衛兵に引き渡しなさい。やはり、何か隠しているわ」
「わぁぁ!違う!違います!」
「入れているものを教えられないなんて、後ろ暗いことがある証拠よ」
「いやぁぁ!侍女さん!縛るの手際よすぎない?」
レベッカに無駄に複雑かつ美しく縛り上げられた職人が悲鳴を上げています。あと一息です。
「残念ね。材料を試して、それでも私の肌がかぶれるようなら、納得するつもりだったのに」
「わかりました!教えます!教えますから!解いてくださいぃ」
来た。来た来たー!
「ほんとね?」
「本当ですぅ。お助けを~」
私は踵を返して職人の前に戻ります。
「じゃあ、聞かせて。何からおしろいは出来てるの?教えてくれたら解くわ」
「酢と鉛でごぜぇますぅ~」
鉛!?そうか。鉛白しかこの時代にはないんだ。
「それだけ?他にも材料はないの?」
「混ぜ物として小麦粉やらトウキビの粉やら、貝の粉を混ぜているものもありますが、鉛から出る白が最上級でごぜぇます。高級品ほど混ぜ物は少ないかと…」
なるほど。
「レベッカ。縄を解きなさい」
「かしこまりました」
自由の身になった職人は、あからさまにホッとした顔をしています。
「手荒なまねをして悪かったわ。教えてくれてありがとう。あなた、名前は?」
「へい。あの、あの、スティーブと申しやす」
「では、スティーブ。あなた、その混ぜ物に使う粉類も、仕入れることは出来るわね?」
「へ?あ、まぁ、出来ますが」
おどおどとこちらの顔色をうかがいながら、スティーブは返事をします。
「出来るだけ多種類の粉類を仕入れて持ってきてちょうだい。どれが大丈夫か、試したいの」
「しょ、承知しました」
「もちろん。無料でとは言わないわ」
私は、レベッカに目配せして、革袋に入れた銀貨をスティーブに渡させました。金貨でもよかったのですが、金貨だと仕入れ値よりも余剰が出過ぎてしまうとレベッカに釘を刺されたので、市井の取引でよく使われる銀貨です。
「これで足りるかしら?」
「は、十分でごぜぇます」
この反応を見る限り、適量だったようです。分不相応なお金は人を狂わせるので、変な気を起こしてトンズラされたら面倒ですし。
「持ってきてくれたら、手間賃としてこれと同額出すわ」
「へ?ほ、ほんとに?」
「ええ」
「あ、ありがとうごぜぇます」
「その代わり…」
私は畳んだ扇をスティーブの首筋に突き付けました。
「逃げたり、私のことやここでのことを人に漏らしたりしたら、許さないわよ。私の毒殺未遂容疑で訴え出て、地の果てまで追い掛けてでも捕らえるから」
「わぁぁ!わかりました!肝に銘じますぅ!」
脅しがききやすいタイプで助かります。まあ、いちおう監視は手配しますけどね。
「今日は帰っていいわ。馬車を出してあげる。レベッカ。手配を」
「かしこまりました」
レベッカがスティーブを連れて出て行くのを見届け、私はグッタリとソファに腰を下ろしました。慣れないキャラを演じるのは疲れます。
「お疲れ様でした。お嬢様」
戻ったレベッカは、ティーセットを用意していました。正直喉はカラカラなのでありがたいです。
「あれでよかったかしら。レベッカ」
「はい。素晴らしい出来でした。スティーブさん、完全に飼い慣らされてましたよ」
いい笑顔でレベッカが褒めてくれますが、全然嬉しくありません。
「もんのすごーく、不本意なんだけど」
「いえいえ、演技力があるのは良いことです。惚れ惚れするような高飛車ぶりでした。お嬢様の見た目も相まって、すごい迫力でしたよ」
「全く嬉しくない…」
ぶすくれる私をものともせず、レベッカは茶の用意をします。私はぶつけどころのないもやもやを、角砂糖の数に反映させ、いつもより二個多く入れて飲み干してやりました。
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