25歳で4歳の公爵令嬢に転生しましたが、前世以上に楽じゃないってどういうことでしょうか?~王子の婚約者として普通のことをしているはずなのに、なぜか悪役令嬢っぽくなるのですが?編~
第22話 私達、婚約しました~喧嘩を売り買いする仲ですが、何か?~
第22話 私達、婚約しました~喧嘩を売り買いする仲ですが、何か?~
皆様ご機嫌よう。転生公爵令嬢シャイスタです。
さて、お母様の一件がいちおうの落ち着きを見せたわけですが、婚約顔合わせ昼餐会はその5日後に迫っておりました。
「お母様は、ご欠席もやむを得ないのでは?」
家族会議が、お父様の書斎で開かれました。お母様の昼餐会出欠についてです。
「残念だけど、どう頑張ってもこの肌荒れが数日で治るとは思えないわ。おしろいも使えないし」
「うーむ。しかし、アンナベルが婚約に反対していると邪推されはしないか」
お父様は渋い顔です。
「そこはお父様に泥をかぶっていただきませんと。ジオルドを引き取ったことでお母様がストレスを感じているうちに本当に熱を出したとかなんとか」
「しかし、ジオルドが社交界にお披露目された時にそれでは陰口を叩かれるぞ」
「確かにジオルドが気の毒だけれど、今のお母様の現状が外にばれる方がお母様の名誉を損ないましてよ」
「それだけは知られたくありませんわ」
お母様は肩を落として呟かれます。
「まぁ、それも、そうか…」
お父様は、不承不承お母様の欠席を受け入れられました。
「お父様。お母様が誤解されないよう、くれぐれも、きちんと説明、お願いしますね」
「…わかった」
お父様は両手を軽く上げて、降参のポーズで了承されたのです。
で、当日ですが。
「公爵夫人は余程この婚約がお気に召さないと見た」
「これ、ユリウス!」
お父様がお母様が急病で欠席と謝罪を伝えた途端に嫌味を繰り出してきたのが何を隠そう私の婚約者となるユリウス殿下です。毎度毎度口が悪い。
私は思わず手に持っていた扇をキュッと握り締めました。
「とんでもございません。妻の急病は、実は私の行いのせいでして。話せば少し長くなりますので、食事を頂きながらゆっくりと」
というわけで、今回は私とユリウス殿下の婚約昼餐会なのですが、ご飯のお供は専ら突然現れた公爵家の跡取り息子とそれを巡っての夫婦の危機と相成りました。
「まあ、お堅いとばかり思っていたセザランド公爵がねぇ」
「面目ありません」
「いやいや、しかし後継ぎが出来たというのはめでたいことだ。今度是非私にも会わせてくれ」
「ありがとうございます」
そんな大人の会話を尻目に、本日の主役二人は、黙々と食事を楽しんでいます。いや、だって、ねぇ。幼い頃からの腐れ縁。会えば喧嘩の売り買いになるという私達が、今日から婚約者ですと言われても、そう簡単に関係が変わるわけではないですから。
「でもよかった。セザランド家の跡取り娘を無理に召し上げたみたいで、私少し後ろめたかったの。これで安心してお話を進められるわ。シャイスタ、どうかよろしくね」
突然話を振られた私ですが、慌てた様子は見せません。にっこりと微笑んで、
「身に余るお言葉です。王妃様。王妃様をお義母様と呼べる日を楽しみにしております」
少々フライング気味なコメントですが、あくまでも王妃様を慕ってる感を重視してみました。
「まあ、嬉しいこと。ユリウス。わかってるわね。愛想尽かされないように、ちゃんとシャイスタを捕まえておくのよ」
「尽きるような愛想があるとは思えませんがねぇ」
「また!ユリウス!」
本当に、親たちがいる前でも減らず口を叩く根性は、1週回って最早感嘆に値するような気がします。
しかし王妃様は息子の暴言が許せなかったようで、クドクドと小言を言っておられます。ざまあみろ。
そして、デザートのシャーベットが終わる頃になって、ようやくお小言は終わりました。まぁ、言い聞かせられていた本人は、聞いていなかったようですが。
「そうそう。せっかくだから、ユリウスとシャイスタで、中庭を歩いていらっしゃい。全然二人で話せてないでしょう?」
お心遣いありがとうございます。私は全くこいつ、じゃなくて殿下と話したくはありませんが。
なんて本心は押し隠して、私は頷きます。
「そうですね。ありがとうございます」
「俺は話すことなんてない」
私もないわ!と言いたいですが、ここは我慢です。ほんの少しでも、二人で過ごして親睦を深めた感があれば、王妃様も納得されるでしょう。
「殿下。エスコートしてくださいますか?」
しゃあねぇ。ここはお姉さんがリードしてやろうじゃない。
「なんで俺が」
「内々とはいえ、婚約者ですよねぇ?」
いいから言うことを聞け。解放されるのが遅くなる。と、圧を込めて視線を送ります。もちろん口角だけは上げていますが。
「わかったよ。しゃあねぇな」
渋々差し出された腕に軽く手をくぐらせ、私達は中庭の四阿まで散策に出ました。
そこまではよかったのですが…
───シーン
二人とも話すことがなさすぎて、沈黙がうるさく感じるという異常事態に陥っております。どうしたものか。
まあ、いいです。たぶん時間を潰して戻ればそれでいいでしょう。
そう腹を括った時、
「残念だったな。兄上の婚約者の座を逃して」
突如ユリウスがそう言い始めました。
「は?」
私も思わず素で反応してしまいました。
「俺は出来の悪い第二王子の方だ。同じ王子でも、王太子と比べたら天と地程の差がある貧乏くじだろう。兄上に群がる女はいても、俺を相手にする女はいない」
そう言ってユリウスは行儀悪く備え付けられたテーブルに足を上げてそっくりかえります。
私は呆れ返りました。
「お言葉ですけどねぇ。私は確かに王太子妃狙ってましたよ。それは家から課せられた使命でもありますから。でもねぇ、私はあなたがきら…じゃなくて、婚約者で不本意なのは、昔っから意地悪したり、嫌味を言ったりばかりしてきたあなたの行いのせいで、ゼネウス様と比べてとか、王太子じゃないからとか、そういうの抜きにしての話ですからね!」
うっかり「嫌い」と言いそうになりましたが、そこはいちおう自重しました。今後の関係を少しでも穏やかなものにするには、オブラートにくるんだ物言いが必須です。
「それに、出来が悪いと言いますが、騎士としての能力は、ゼネウス様よりもずっと上でしょう?騎士団の中でも、剣術でユリウス様に勝てる騎士は片手で数えられる程度と聞いてますよ」
そう。むかつくことに、ユリウスは騎士としてはピカイチの腕前を誇るのです。幼い頃から色々なところに潜んで悪さをしてきた副産物なのか、運動神経が良いのでしょう。国王陛下に騎士団に放り込まれて厳しい訓練を受けるうちに、メキメキと腕を上げたのです。ですから、御前試合などでユリウスを見かけた令嬢の一部には、隠れユリウスファンがいるくらい。ただし、幼なじみの令嬢一同は基本的に昔からの嫌がらせの数々を知っているので、アンチ第二王子が多数派。実は憧れられていても、大っぴらに出来ない空気が漂っています。
「まぁな。けど、王子が強くても、あんまり評価されないがな」
「平和な時代ゆえですけどね」
意外と、自尊心が低いんですよね、この人。悪さばかりするのも、恐らくは出来の良い兄への注目を、なんとか自分にも向けたいからなのでしょうね。やればやるほど叱られて評価が下がるという逆効果なのですが。それでも、気に止められないよりましなのでしょうね。
「言っとくけど、俺だってお前が相手なのは不本意だ。勘違いするなよ」
これまたカチンとくる物言いです。が、こちらが先に「不本意」と言ったので、仕方ありません。
「わかってます。ですが、縁あって婚約することになったのですから、公式の場だけでもそれらしく振る舞ってください。それ以上は私も求めませんから」
「何で嫌いな女と腕組んだりしないといけねぇんだよ」
こいつ、「嫌い」言いやがった。私は自重したのに。
「貴族の結婚は、家と家との結びつきであり、契約です。私達の仲が傍目に見てもわかるくらい悪ければ、両家の仲も疑われかねません。内心どうあれ、そこだけ周りに誤解されないよう、お願いしますね」
「はいはい。わーった。ほんと、めんどくせえなぁ」
面倒くさいのはこっちじゃ。王子のくせに奔放で直情的すぎて、本音と建て前の使い分けをさせるのも大変。ん?もしや、これからはその辺なんとかするのも私の役割?
私は改めて自分の置かれた立場を認識し、げっそりしながらも、渋る王子の尻を蹴飛ばしてエスコートをさせ、中庭を後にしました。
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