第21話 シナリオのその先
パチッ、パチッ。走る光。
それはとても綺麗なのに、物悲しい。
ここは、どこだろう。
私は、何をしているのだろう。
蘇る記憶。
お母様に向かって放たれる稲妻。
あぁ…やってしまった…
ごめんなさい
「お母様!」
次に見えたのは天井。知っているけれどどこか見慣れない天井。あぁ、そうか。私の寝室はズタズタになっていたから、使えなかったんだ。
私は、その現実に、また涙しました。あれほど抗おうとしたシナリオなのに、結局はシナリオ通りに事は進んでしまったのです。
知らなかった。お母様にあんな力があったなんて。
知らなかった。私にあんな力があったなんて。
でも、あの時放った稲妻は確かに私のもので。そして、あの時見えた稲妻の光はお母様のものに負けないもので。当たれば、きっと…
「っく…。お母様…」
私は嗚咽を漏らしました。
「んん…」
あれ?
「シャイスタ?」
あれれ?
恐る恐る右を見ると、私のお腹の脇からムクムクと起き上がる人影がありました。
「お、か、あ、さま?」
ベールを下げた白いドレス姿。それは確かに、昨夜見たお母様の姿でした。
「シャイスタ。具合はどう?おかしなところはない?」
声も、お母様です。
「なん…で…」
私はまだ泣き声を帯びたしゃがれ声のまま問いかけました。
「まずは、謝らせて。シャイスタ。お母様が悪かったの。間違ってたの」
お母様が、ひし!と、私の頭を抱きしめてきます。ドレスからは、まだ少し焦げたような匂いがしました。
「顔が、こんなになって。誰にも会わないで、秘密で何とかしようとするうちに、どんどん悪くなって。もう、死ぬしかないと思い詰めていたわ。子どもを産む能のない、しかも、魔力を暴走させるという曰くつきの女。だから、私には、美しくあることしか価値がないとずっと思ってきたの。でも、どんなにお手入れをしても、年には勝てないわ。お化粧はなくてはならないものだったの。それが出来なくなったら、おしまいだと思ってたし、だから、あなたまでおしろいが駄目だなんて聞いたら、あなたも不幸になると思い込んでしまったの」
時折、涙声になりながらお母様は語ります。私は、お母様の温もりに包まれながら、それをぼんやりと聞いていました。
「私ね。あなたが産まれるまでに、3回も流産しているの。やっとあなたがお腹に入ってからも、悪阻がずっと続いて、また流れてしまうんじゃないかって怖くて。その時にそばにいてくれたのが、ナタリーだったの。ナタリーとは、髪の色も、背の高さも一緒。不思議と気があって、まるで妹が出来たみたいで、本当に仲良しだったの。だから、あなたが産まれる少し前に突然寝込んで、辞めて実家に帰ると言い出した時は、心配したし、悲しかったわ。それ以来、手紙を出しても届かなくて。どうしてるんだろう。まさか、亡くなってたらどうしよう。いいえ、自分勝手な親戚にひどい扱いを受けてたらって、時々思い出しては、また心配して。だから、お父様の子を産んでいたと知った時は、足元が崩れ落ちるみたいな思いをしたわ。あの時、本当は、私を裏切っていたのかって。それを知らずに心配していた私、馬鹿みたいって」
私はそっと頷きました。私も同じ事を考えましたから。
「昨夜、お父様から、ナタリーの事を聞いたわ。それで、お父様もナタリーも、私のことを裏切っていたわけじゃないってわかったの。すっきりしたわけじゃないけどね。それに、あなたは、私に大事なことを思い出させてくれた」
お母様が腕をほどき、ベールを上げました。まだ、肌は痛々しいですが、目は穏やかな光をたたえています。
「あなたが無事に産まれて嬉しかった。あなたに、美しくても醜くてもお母様はお母様って言われて嬉しかった。産まれてきてくれてありがとう。生きててくれて、ありがとう」
「おかあさま…」
私は、もう駄目でした。幼い子のように、声を上げて、お母様の胸でワンワン泣きました。
「で、結局何がどうなったの?」
泣いて一眠りして、軽食をとった私は、ようやく人心地がつきました。そして、結局聞きそびれた私の記憶が飛んでる間の事情をレベッカに報告させています。
「お嬢様の魔力が放たれた時、奥様はそれまで攻撃に使っていた魔力を防御に回されました。それで、ご無事だったのです」
聞いてみれば何ということはない話でした。考えてみればそうです。お母様だって魔法学院を出ていらっしゃいます。防御魔法も使えないわけではなかったわけです。
「私は、魔力が切れるまで、全力で放ち続けて倒れたというところかしら」
「その通りです。ちなみに、旦那様も魔力枯渇一歩手前まで行かれまして、今日は静養されています」
本当にお母様の力は凄まじいのですね。仮にも国の大将軍にして軍務大臣であるお父様の魔力に優る力をお持ちとは。
「それから、レベッカ」
「何でしょう」
私はわざと溜めました。嫌味ったらしくするために。
「あなた、お母様がおしろいかぶれに悩んでいるって知ってたんじゃなくて?」
わざとらしく高飛車系の言葉も使ってみました。だって、腹立たしいですから。どう考えても、わかっていてあんな脚本を書いた。今から考えるとそうとしか思えない言動だったからです。
「いいえ。ただ、可能性の一つとして考えてはおりました」
「なら、なぜ教えてくれないの?」
「違った時が怖いので」
「私、そんなことで怒らないわよ」
「でも、奥様にとっては大問題でしょう」
「あぁ…」
確かに。
「まぁ、私もまさかあそこまで思い詰めておられるとは思っておりませんでしたので、お嬢様をお守りするのが遅れて、その点については責任を感じております。如何様にもお裁きを」
頭を垂れるレベッカ。しかし、私自身もあの展開は予想外だったわけなので、
「もう、いいわよ。あなたのお陰で助かったわけだし。訓練の成果も試せたしね」
そうため息混じりに答えました。
「ありがとうございます」
レベッカは、飄々として本気かどうかわからない礼を述べてきました。
ところで気付いてしまったのですが、毒教育だけでなく、護身術教育も、生かされたのは我が家ばっかり!?ちょっとおかしくない!?
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