25歳で4歳の公爵令嬢に転生しましたが、前世以上に楽じゃないってどういうことでしょうか?~王子の婚約者として普通のことをしているはずなのに、なぜか悪役令嬢っぽくなるのですが?編~
第16話 本題はどっち?~父の説教に忙しくて自分の縁談に構っていられません~
第16話 本題はどっち?~父の説教に忙しくて自分の縁談に構っていられません~
「お父様!よりによってなんで今打ち明けるのですか!タイミングが最悪です!」
皆様ご機嫌よう。転生公爵令嬢シャイスタは怒っています。最悪のタイミングで隠し子の存在をお母様に告げたお父様に。
「いや、その、お前が王太子妃に内定した直後を狙ったつもりだったんだが…」
落選する可能性を考えてなかったのでしょうか?
「なぜ私が内定すると思われたのですか?明らかにフロリアナ優勢だったでしょう?」
「いや、そうでもない。家臣団はお前がふさわしいとする者の方が多いくらいだった」
それは初耳ですが、今聞かされてもあまり嬉しくありません。だって、
「結局はゼネウス殿下のご意向が一番の決め手になるのですから、少し考えればわかりますでしょう。茶会の度に毎回毎回ゼネウス殿下とフロリアナはべったりだったじゃないですか」
ベタベタするのはフロリアナですが、まんざらでも無さそうにそれを許していたのは殿下です。
「いや、普段冷静沈着で物事を感情で決めない殿下のことだから、それはそれ、これはこれで、王妃にふさわしい人物を選ぶと…。まさかあそこまで意地を張られるとは思わなかったんだ」
それだけフロリアナが良かったか、私に魅力がなかったか、その両方か。う、それほどゼネウス殿下に固執していなかった私ですが、なんだかへこみます。
「そうですか!余程私よりもフロリアナが魅力的だったのでしょうね!それは置いといて、お父様!話を元に戻しますよ!」
「う…」
つい、八つ当たりで口調がきつくなりますが、本題から外れてはいけません。大切なのは、弟の話でお母様を傷付けたことです。話をはぐらかさせないよう気を付けなければ。
「いいですか。お母様は未来の王妃の母となる夢も潰えたところに、この家の跡取りの座すら、自分ではない女が産んだ子どもに取られることになったのですよ!せめてその急に現れた弟の話はもっと前にしておくべきだったのではないですか!?」
「そ、そうかもしれない、が、遅きに失したなら一刻も早く告げなくてはと…」
「そうは言っても、落胆しているところに、追い討ちをかければ、余計にショックを受けるに決まっています!」
「う、それもそうか…」
「もう少しタイミングをずらすべきだったと思いますよ!」
「す、すまない」
「謝るのはお母様にでしょう?」
「そうだな。今から…」
「今はダメです!私すら拒絶されたのですよ?しばらくそっとして差し上げてください。謝って気が済むのはお父様の側だけですからね。今謝られてもお母様のお気持ちが慰められるとは思えません」
「う、わかった」
本当に、お父様はこういうところが駄目なのです。お堅い真面目なお父様は、曲がったことは嫌いで、不誠実なことはしません。ただ、デリカシーがない。自覚はあるようで、お母様には必死に贈り物をしたり、言葉が足りないなりに褒めたりと、出来ることはやって来た様子でしたが、まあ、付け焼き刃という奴です。前例のない事態では、完全に女心を読み間違え…、いや、ゼネウス殿下のことも含めば、男心も読み間違えてますね。ともかく、人の心の機微に疎い!ほんとにもう!
「お母様が落ち着くまでは、お母様がどんな態度を取られても許して差し上げてください!いいですね!」
「わかった」
とりあえず、お父様へのお小言はこれくらいで良いでしょう。次は、弟についての情報収集です。
「それで、その弟は何というお名前ですか?」
「ジオルドという。なかなかしっかりした子だ」
「母1人子1人では、しっかりせざるを得なかったのでしょうね。しかし、なぜナタリーさんは今まで弟の存在を黙っていたのでしょう?お父様の援助があった方がずっと楽だったでしょうし、それこそ娘しかない我が家の事情を鑑みれば、我が子を公爵にしようと野望を抱く方が自然ですのに」
ちょっと皮肉もこめておきました。私が爵位を継ぐには難ありな性別で悪かったですねぇ。ほんと。
「彼女は後継を叔父に持って行かれたが、元は伯爵家の出で、爵位を叔父に譲り渡す引き換えにそれなりの財産を分けられていたらしい。だから、子ども1人くらいなら養える財産があった。それに、息子のことが知れたら、叔父にも公爵家にも利用されて、結果的に子どもが不幸になることを恐れたと。それに、父親の正体が不明な方が、結婚から逃げるためにも好都合だったそうだ」
「結婚から逃げる?未婚の母になってまでですか?」
私は少々その発想についていくのに時間がかかりました。意に染まない結婚から逃げたい貴族の子女というのは珍しくありません。しかし、一生結婚出来ないような瑕疵を負ってまで逃げたいという者は少ないでしょう。要は我慢出来ないほど嫌な結婚はしたくないけれど、気に入った人とは結婚したいのです。
「彼女の叔父は野心家で、ナタリーを使ってより高位貴族との結びつきを作ろうとしていたらしい。そこで、ナタリーの財産目当ての、爵位だけは高い碌でなしと縁組させようとはかっていたと聞いている」
「お相手は余程嫌な人だったんでしょうね」
お母様との社交で仕入れた貴族リストから数名が思い浮かびますが、まあ、そこをほじくり返すのは無粋なのでやめましょう。
「それで社会勉強と称して、うちに奉公に来た。なかなか頭の回転が早くて、アンナベルも気に入っていた」
ほう。お母様お気に入りの侍女だったんですね。しかも伯爵家出身の、侍女としては高位の出自の…。
「なのに、お父様、手を出したんですか?」
これは手を出して懐妊したことが明るみに出ていれば、事実上第二夫人扱いになる案件でしたね。お母様のショックを上乗せする相手ですね。
「酔っていてアンナベルと間違えたんだ。背格好や髪の色が似ていてな」
なんですと?
「…まさか無理やり…」
「いや!そうではなかった、と、思う…」
私もそうではなかったと思いたいです。父親が性犯罪者同様かと思うと、今後どう接したらいいか悩みますから。
「まあいいです。で、妊娠したまま辞めて、それからは?」
「どこの馬の骨ともわからぬ男の子を身籠もって帰るようなふしだらな女はいらないでしょうと、縁組を破談にして、受け継いだ田舎の家に引き籠もったそうだ。何も知らせなかったのは、公爵の子だと知れて叔父が甘い汁を吸おうとするのも許せないし、主人であるアンナベルを裏切ったことも後ろめたかったと。生まれたら生まれたで可愛くなって、万一公爵家に知られて取り上げられたらどうしようかと思うと、余計に言い出せなくなったそうだ」
「はぁ…」
幸せの形って、人それぞれなのですね。私は普通の感覚しか持てないので、未婚の母より高位貴族の愛妾の方が幾分ましに思えるのですが。
「よく、わかりません」
「あぁ、私にもわからない。ただ、子どもが成人する前に自分が早世しそうだと悟って、私に託す決心をしたそうだ」
「そうですか」
まだ若い、いえ、幼いに近いでしょう。そんな子どもを1人残して逝かれたナタリーさんを思うと、気の毒です。しかし、この弟の存在の発覚が、今後のお母様の精神に多大な悪影響を及ぼすだろうことは想像に難くありません。また、引き取られる弟の気持ちも複雑でしょうし。この家族の危機、どう乗り越えるか…。
「ところで、ユリウス殿下との婚約についてだが」
「あ…」
すっかり忘れてました。そもそも、私の王太子妃落選と、第二王子妃内々定のお話だったのに…。
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