25歳で4歳の公爵令嬢に転生しましたが、前世以上に楽じゃないってどういうことでしょうか?~王子の婚約者として普通のことをしているはずなのに、なぜか悪役令嬢っぽくなるのですが?編~
第12話 子の心、親知らず~ライバル令嬢の胸の内~
第12話 子の心、親知らず~ライバル令嬢の胸の内~
『きょうだいなんて、いない方がいいわ』
皆様ご機嫌よう。転生公爵令嬢シャイスタです。
ミッドレスター公爵家からの帰りの馬車の中私は、絞り出すように呟いたフロリアナの声を反芻していました。そんな私の横では、お母様がレベッカ相手に公爵夫人とのやり取りをぶちまけていました。
「なーにが、『時にはわざと気の抜けた格好で出ていくのも効果的』よ!自分がいっつも気の抜けた格好でいるからって、私を引きずり込もうとするんじゃないわよ」
「ごもっともです」
「だいたい夫婦関係冷めてるって前提であれこれ語り出すのがむかつくのよ!」
「そーですね」
あの、これ、私が聞いていい話なのでしょうか?
「だから言ってやったのよ。毎晩気の抜けた格好見せてるからこそ、明るい間くらいは綺麗でいたいのよねって。その時の顔ったら!」
「さすが奥様」
「ただその後がさぁ…」
お母様は、延々とレベッカ相手にしゃべり続けます。お子様に聞かせる話ではない内容ですが、本物のお子様だったらたぶん、わかんないんでしょうね、この際どさ。
『きょうだいなんていない方がいいわ』
『お母様はいつも、お腹が大きくて大変だから、あっちへ行ってなさいばっかり』
『赤ちゃんが産まれたら、今度は赤ちゃんのことばっかり。私のことなんて、どうでもいいのよ』
私とフロリアナが手に手を取ってやってきたのは、人工的に引き込んだ小川のほとり。私は単なる会話のきっかけに、フロリアナにきょうだいについて尋ねました。すると、フロリアナは花びらを川に流しながら俯いてそう言ったのです。
『でも、私がゼネウス様と同い年で、婚約者になれるかもしれないから、ゼネウス様に会う日のお仕度だけは、お母様が気にかけてくださるの』
『そう』
『それに、ゼネウス様も私と同じ、きょうだいの1番上だから、私の気持ちをよくわかってくださるの』
『…そう』
『だから、私、ゼネウス様のお嫁さんになりたいの』
『…』
『ね、シャイスタ。私がゼネウス様のお嫁さんになれるよう、応援して?』
『うーん。考えておくわ?』
あの時のフロリアナのウルウルした瞳は確かにクラッとくるものがありましたが、言ってることはなかなか図々しいものでした。まぁ、正直婚約破棄からの追放エンドを避けるという意味では、いっそ王太子妃競争から引いてしまうという手段もあるのですが、それをすると家庭環境が悪化しそうなので、いちおう正々堂々とそこは戦い抜く予定なのです。かわいくお願いされたからと言って、はいはいと言うこと聞くつもりはございません。
その後、わざとらしくフロリアナは拗ねていましたが、気付かないふりで夢中で川遊びに興じてやりました。大きな葉っぱを船にして、花をいくつも乗せて、いくつまで耐えられるのかを試しているうちに、お子様脳の私達はさっきのやり取りは忘れてしまい、結局普通に川遊びを楽しんでさよならしたのでした。
ただ思い出すとなんとなしにもやもやするのです。赤ちゃんに手を取られてお母さんが構ってくれないなんて悩みは巷に溢れています。だけど、フロリアナの思い詰めたような様子と、一方で子だくさん自慢に終始する公爵夫人。なんだかなぁ。
「ねぇ、シャイスタだって、綺麗なお母様の方がいいでしょ?」
「えっ?」
ぼんやりと物思いにふけっていた私は突然のお母様からの会話の振りにびっくりして、少々嗜みを忘れた声を出してしまいました。
「お母様が太ったり、いっつも寝間着みたいなドレス着てたら嫌よねぇ?」
うわぁ…、と内心私は引きました。当てこすってるんでしょうね、公爵夫人のことを。つまり、ここはお母様のお気持ちをなだめるためには、「今みたいに綺麗なお母様がいいです」という答えが望ましいのでしょう。しかし、私の頭の中で警鐘が鳴りました。その答えは駄目だと。
「どう?シャイスタ?」
お母様が答えを迫ってきます。なんて答えればいいのでしょぉ~?模範的お子様は、こんなときなんて言うの~?
「お、お母様は、お母様です」
そう!それよ!子どもにとって、お母さんはお母さん。不細工だろうが綺麗だろうがそんなの関係ない。不幸にも虐待するような母親の子に産まれたって、子どもはお母さんを慕わずにいられない。
「お母様が綺麗な方が嬉しいですけど、どんなお母様でも、私にとっては大好きなお母様です」
お母様は、キョトンと目を見開いて固まってしまいました。と思った次の瞬間。
「シャイスタ~~~」
ムギューと、私はお母様に抱きしめられました。
「シャイスタはかわいい賢い世界一の娘よ~。そうよね。お母様はシャイスタのお母様だもの。こんなかわいい娘が産まれてくれたんだから、何があっても無敵よね」
「お母様、苦し…」
とりあえずお母様のご機嫌が急上昇してはホッとすると共に、手放しでかわいいかわいいと抱きしめられて、私はちょっぴりの照れくささと共に、ほんわかした幸せ気分に浸っていました。
しかし、この一言が7年後、大きな意味を持つことになるとまでは私も予想していませんでした。7年後、14歳になった私は、この時の私に多大な感謝を捧げることになるのです。
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