25歳で4歳の公爵令嬢に転生しましたが、前世以上に楽じゃないってどういうことでしょうか?~王子の婚約者として普通のことをしているはずなのに、なぜか悪役令嬢っぽくなるのですが?編~
第7話 悪戯王子と闖入者~弱きを助け、強きを挫け!~
第7話 悪戯王子と闖入者~弱きを助け、強きを挫け!~
さて、お誕生日会のハイライト、お誕生日ケーキとお茶の時間です。チョコレートたっぷり、クリームもチョコクリームなケーキが運ばれて来ました。
「殿下は、チョコレートがお好きなのですか?」
私は右隣に座るゼネウス様に尋ねました。ちなみに、左隣は空席です。誰か遅れているのでしょう。
「そうよ」
ゼネウス様のもう一つの隣を占めるフロリアナがなぜか返事をします。やな感じです。
「えへへ。毎年お願いしてチョコレートたっぷりにしてもらってるんだ。シャイスタは、チョコレート好き?」
ちゃんと会話を返してくださるゼネウス様。なんて素敵なんでしょう。
「私も大好きです。特に、ミケーレというお店からお母様がお取り寄せになるチョコレートが大好きで。でも、なかなか手に入らないらしくて、たくさんは分けてくださいませんの」
「へー。僕は城の外の店のことはあまり知らないんだ。今度お願いして持ってきてもらおうかな」
「ぜひ」
「その時はフロリアナにもわけてください」
きっちりフロリアナが会話に割って入ります。どうあってもゼネウス様との会話を私に独占させる気はないようです。別に私はゼネウス様を独占しようとは思っていませんが、割り込まれればむかつきます。心は7+25歳ですが、脳は7歳なのです。感情が全く漏れ出さないというわけにはまいりません。とはいえ、私は訓練された7歳。そんなあからさまに嫌な顔はいたしません。
「じゃあ、今度おかあさまにお願いして、フロリアナにもプレゼントいたしますね」
ニッコリ笑って返しておきました。別にチョコレートはゼネウス様から分けてもらわないといけないわけじゃないのですから。お友達である私が分けてあげますよ。
フロリアナも、言っても7歳です。一瞬ぶーたれた表情をこちらに向けましたが、すぐに笑顔で上書きしてきます。
「ありがとう。シャイスタ」
「楽しみにしていてね」
私もニコニコと返しますが、正直、我々の間には火花が見える気がします。
さて、そうこうするうちに、ケーキに刺さった7本のろうそくが灯され、子ども達の「おめでとうー!」という歓声の中、ゼネウス様が吹き消します。
「みんな、ありがとう」
パチパチと拍手が鳴り響いたその時、事件は起きました。
ボトッ
何やら、葉っぱで覆われた屋根から落ちてきたのです。しかも、
ピョンコ!ピョコピョコピョコピョコ!
飛び跳ねた!
「キャー!」
「何!」
「カエルだ」
「やだ!怖い!」
たちまち子ども達は大騒ぎです。カエルを怖がる女の子。カエルを追い回す男の子。びっくりして転けて泣く子。パニックになって飛び跳ね、こっちに来るカエル。
「キャー!来ないで!」
私も決してカエルは得意じゃないので、思わず悲鳴を上げましたが、慌てすぎて体がうまく動きません。ワタワタと椅子に座ったまま縮こまる目の前で最悪なことが起きました。
ボチャン!
なんと、カエルは私の紅茶に飛び込んだのです。
「えっ?」
いくらか子ども用に冷ましてあるとはいえ、温かい紅茶です。そんな中にカエルが入ったら…
「カエルさん!駄目!」
命の危機です。私は苦手なのを忘れて慌ててカエルを紅茶から出そうと紅茶に指を突っ込みました。しかし、カエルは救おうとしている私の意図などわかりません。もがいて逃げて、手間取っているうちにみるみる動きが鈍くなり、引き上げた時には、逃げる様子もなく、ぐったりとなっていました。
「カエルさん!しっかり!」
カエルは好きではありませんが、小さき者が無惨に死んでいく姿を見れば、なんとかしてやりたいと思う程度の情はあります。私は思わずカエルの蘇生を願って声をかけていました。
その時、隣から険しい声が聞こえました。
「ユリウス!」
ゼネウス様の声です。上を見上げて怒っている様子です。
私も見上げると、そこにはゼネウス様とよく似た金髪碧眼、けれど、悪戯成功に輝く人の悪い目をしたクソガキ…失礼、問題児が、屋根の梁に乗っかっていたのです。
「へへーん!大成功」
「ひどいじゃないか!降りてこい!」
温厚そうなゼネウス様がただの男の子に戻って怒っています。
「やーだね。悔しかったらここまでおいで」
「なんだと!そこを動くなよ卑怯者!」
「やだ。ゼネウス様。フロリアナを置いて行かないで」
「じゃあねー」
ゼネウス様は、カエルに怯えたフロリアナに絡み付かれて動けません。それをわかって捨て台詞を吐くユリウス王子。その瞬間、私の中の何かが切れました。
「謝りなさい!カエルに謝りなさいよ!卑怯者!」
私は、あらん限りの声でユリウス王子を怒鳴りつけていました。
「な、なんだよお前」
渾身の大音量は、ユリウス王子を怯ませることに成功したようです。ユリウス王子は動きを止めてこっちを見ています。
「皆を怯えさせて!カエルを熱い紅茶に飛び込ませて!それを笑って見ている!これが民を導く王族のすることですか!カエルに謝れ!カエルが何をしたって言うのよ!」
正直、自分でも何を言っているか半分わかりません。ただ、掌の上で伸びているカエルがひどく憐れで、私は必死に怒っていました。
「別にカエルが勝手に飛び込んだだけじゃないか!」
ユリウス王子もムキになって言い返してきます。でも、私は負けません。
「あなたがテーブルの上に落とさなければ!こんなことになるはずがないでしょう!」
「そうよそうよ」
「王子のせいよ」
気付くと、何人かの子が味方になってくれていました。
「なんだよ。お前達まで」
ユリウス王子はトーンダウンし始めました。分が悪いと悟ったのでしょう。ガサガサと梁の上に立ち上がり、逃げに入ろうとし始めました。
「逃げるな!カエルに謝れ!」
「やだね」
「謝れー!」
しかし、もう王子の姿は見えず。あぁ、逃げられてしまった、と、私は思いました。その時、
「わあ!離せー!」
ユリウス王子の騒ぐ声が聞こえ、
「サンチェス。受け取れ」
「ギャー!」
淡々とした低い声が命じると同時に、王子が屋根から侍従の腕の中に降ってきました。
驚いて私は、屋根を仰ぎました。
緑の葉の間から、左眼に眼帯をつけた長髪の青年が朧気に見えました。太陽を背にしたその人は、どこか人間離れしていて、その異質な風体と、それでも整って見えるその姿に、私はしばらく目を離せませんでした。そんな視線に気付いたのでしょうか。青年がふとこちらを振り返り、私と目が合いました。
「甥が失礼をした。後で詫びさせるので、勘弁してくれ」
青年は、私にそう言って詫びました。私はハッと我に返りました。王子を「甥」と呼ぶこの方は、つまり…、
しかし、そこで、私の思考は停止します。手に乗せていたぬるりとしたものが、ピクピクと動き始めたのです。
「え?」
次の瞬間、復活したカエルは、なんと私の顔に向けて飛び上がったのです。
「キャーッ!」
あえなく私は思いっきり悲鳴をあげて、尻もちをつきました。
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