25歳で4歳の公爵令嬢に転生しましたが、前世以上に楽じゃないってどういうことでしょうか?~王子の婚約者として普通のことをしているはずなのに、なぜか悪役令嬢っぽくなるのですが?編~
第5話 24時間お嬢様、できますか?~令嬢に休みはありません~
第5話 24時間お嬢様、できますか?~令嬢に休みはありません~
皆様ご機嫌よう。転生公爵令嬢シャイスタです。あれから3年、だいぶお嬢様っぷりが板についてきました。
当然です。私は寝ている時間以外、ずっと「令嬢」でいることを強いられてますから!会社員なら退勤後まで営業スマイルはいりませんでしたが、公爵令嬢は年中無休の24時間営業らしいですから!
おっといけない。だいぶストレスが溜まっているようです。
「お嬢様、聞いていらっしゃいましたか?」
メリル先生の指摘で我に帰りました。
「すみません。聞き逃しました」
「仕方ありません。では、もう一度。このアスパラガスは、ネサニア地方で採れたもので、特に今年は出来が良いとのことです。ネサニアのアスパラガスは、他の地方のものよりも、甘みが深く、かつ、アスパラガス特有の風味も濃厚なのが特徴です。アスパラガスと言えば、生産量第一位はユージェニア地方ですが…」
断っておきますと、授業時間ではありません。昼食の時間です。私はネサニア産アスパラガスをゆっくり咀嚼しながら、その味を必死に頭に叩き込みます。なぜかって?余所でお食事をいただいた時に出されたら、気付いて褒めなくてはならないからだそうです。流石に朝食は免除されていますが、昼食と夕食は、何か名食材や特徴的な料理が出ると、こんな感じで解説と味を覚え込む時間になります。ええ、正直、プレッシャーで味なんてわかりませんと言いたくなりますが、味を覚えなくてはならないので、味わっていただきます。ちなみに、適当に聞き流してればいいじゃん、と思った貴方!これ、テストに出ます。1ヶ月以内にまたアスパラガスが出て、それがネサニア産かどうか、当てさせられます。間違えると、体に良いけど、超不味い栄養たっぷりジュース一週間の刑に処せられるので、頑張らなくてはいけません。
「ところでお嬢様、こちらのローストビーフはどこの牛を使っていると思われますか?」
ほら来た!覚えるのと当てるのが別々の時なんて甘いことはないのです。私はローストビーフを小さく切って口に入れ、慎重にその食感と味を感じます。比較的あっさりと軽い味わいなのに柔らかい。これはきっと…
「ブルストフ産です」
「よろしい。正解でございます」
ホッと息をつきます。ようやく、お肉美味しいという気持ちになりました。
「では、こちらのソースに使われているタマネギはどこのものでしょう?」
「え?」
タマネギ?タマネギ…。タマネギの名産地はどこだったかしら…。慌ててソースを肉に付けて口に放り込みながら、私は記憶を絞り出します。
「えっと、アール島産ですか?」
「違います」
「あぁっ!」
思わず私の口から悲鳴が漏れました。これで栄養ジュース一週間の刑です。
「これは、都の郊外から届いたばかりの朝採れタマネギよ?臭みがまだきつくないもの」
「お母様…」
向かいの席から優雅に答えが告げられた。
「流石は奥様でございます」
正解のようです。恐ろしいことに、お母様もお父様も涼しい顔で、この食材テストをクリア出来るのです。これが貴族の嗜みというものでしょうか。
「さあ、あと15分で召し上がってくださいませ。午後の授業に間に合わなくなります」
「はい」
残りはさほど多くはありませんが、様々な制約を守りながらの15分は、本当にギリギリです。私は、焦った様子をほんの少しだって出さないように、優雅な手つきでカトラリーを操ります。穏やかな微笑を讃えながら、ゆったりと食事を楽しむ振りをします。内心は、作法と時間を守ることで頭がいっぱいです。
「ご馳走様でした」
「時間ぴったりですね。では、お嬢様、お部屋へ」
「はい。お母様、では、お先に」
私は、まだお茶を楽しんでいるお母様に会釈をします。
「えぇ、シャイスタ。午後も頑張ってね」
「はい」
子どもらしい無邪気な、計算され尽くした笑顔をお母様に向け、私はメリル先生と共に部屋へ戻ります。食後の休憩ではありません。食後の着替えです。
「お嬢様。お帰りなさいませ」
部屋ではばあやが待ち構えています。ここでメリル先生はばあやにバトンタッチです。
「では、また後ほど」
この部屋の中は、ばあやの聖域です。私の部屋ですが、ばあやの聖域です。大切なことなので、二度言いました。
「では、お嬢様。まずはドレスを脱ぎましょうね」
言うのが先か、手が先か。気付けば、ばあやは私のドレスを脱がせ、シュミーズ一枚にしてしまいました。そして、既にスタンバイ済みの午後のドレスを着せつけてくれます。
「やっぱり、色のはっきりしたドレスの方がお嬢様には映えますね。雪のような白い肌が引き立ちます」
「そう?」
返事は適当です。ばあやはだいたい何を着ても何やかやと褒めてくれます。確かに最初は贅沢なレースや豪華なフリルに胸をときめかせていました。しかし、着心地はシビアなのです。さらに言えば、うっかり子どもらしい粗雑な動きをすれば、あっという間に汚したり、引っ掛けたりして台無しになります。無論その後はメリル先生からのお小言と、不機嫌ばあやの文句を聞きながらのお着替えという二重苦が待っています。そんな不快極まりない状況の諸悪の根源が、つまりはこのフリフリ可愛らしい贅沢ドレスなのですから、最早憧れなんてものはありません。むしろ、動きやすい庶民の服に憧れます。なにしろ前世は筋金入りの庶民なのですから。
「さぁ、お嬢様。よろしいですよ」
「では、行ってくるわね」
「はい。午後も頑張ってくださいませ」
午後一はピアノか声楽かフラワーアレンジメントか刺繍の授業、続けて外国語が日替わりで3カ国分、お茶の時間を挟んでダンスレッスン、もちろんダンスの前にはお着替えです。ダンスの後は汗を清拭して晩餐のドレスへ着替え、夕食。これも食材テスト付き。食後のお茶を楽しんだら、晩餐ドレスを脱ぎ、部屋着に着替え、本日のレッスンの復習と、魔術を高めるための瞑想の時間。最後にお風呂に入って就寝です。あ、ちなみに午前中はメリル先生による国史、国語(文字の練習含む)、算術、科学と魔術の基本講義があります。休む暇はほぼありませんが、ギリギリ体力がもつ程度に計算されているようで、悲しいかな、私はいたって健康です。
遊ぶ時間?そう言えばありませんね。起床直後と就寝前にお人形のララを着せ替えるくらいでしょうか?ウッ、なんだか自分で自分がかわいそうになってきました。
中身が25歳+7じゃなかったら、確実にグレる自信があります。いや、ゲームの設定では、性格歪むんでしたね。正直私の魂と入れ替わりに逃げたと思われる本物のシャイスタがこの仕打ちを受けていたらと思うと、恐ろしささえ感じます。しかし私の精神年齢はもはや三十路越え。清い心のまま、この試練に耐えて、この国一番の淑女になってやりましょう!
でも…。
「○☆*#?」
「あの…お手洗いに行きたいのですが?」
「※☆◎◇△▲!」
トイレに行く許可も外国語でなければ通じないというのは、あまりにあんまりだわ!
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