第2話 クメイに首ったけ

「突然2070年に連れてきて申し訳ない」


 マスク姿のリーダー、Kは本当に申し訳なさそうに頭を下げた。


「いやいやいやいいや、こちらこそ牢屋の中は嫌だったんで」


「それにしても令和人はおしゃれですね」


 俺は思わぬ褒め言葉にうっとりとする。


「靴と皮のベルトとイヤホンを赤で揃えて、それ以外は黒で統一している。実におしゃれだ」


 褒められることがあまりないので、どんな顔をしていいのかわからなかった。


「ちょっと褒められたくらいでニヤニヤしやがって。

リーダーに目をつけてもらって本当によかったな」


 半サイボーグの発言にKは人差し指をクロスさせた。


「軽口であっても令和人を侮辱するな。

彼は私たち『カント』の救世主なんだ」


「し、失礼しました!」


 半サイボーグは反省をうながされ肩を落とした。ざまあ。


「令和人よ、我々人類はAIの支配を受けるべきではないと思わないか?」


 ちょっとよくわからなかったが、ここは調子を合わせて「AIによる支配には大反対です!」と唱えた。


「知能が人類を超えたとはいえ、AIが人類が築き上げた世界を支配すべきでなかった。

例え世界の紛争を全てなくしたり、核の完全廃絶に成功していても、政治の全てをAIに移譲すべきでなかったんだ」


 核の完全廃絶なんて令和の時代からしたらありえないことだ。

俺は素直にAIすげーって思っていたが、口には出さずにいた。

半サイボーグと違って空気が読める人間なんだな。


「令和人はレジスタンス『カント』の方針に賛成ということでいいか」


「もちろんです!」


「すでにミッションをこなしてくれているが、

これから正式に『カント』のメンバーとして、チームの一員として活動してくれるか」


「もちろんのろんもちです!」


「ろんもちか! 令和人!」


「ろんもちです! リーダー!」


「よくぞ言ってくれた! 

今日から私たちは運命を共にする仲間だ。

基地内をクメイに案内させるよう伝えておく」


 評価のポイントがよくわからないリーダーだが、俺の牢獄行きを阻止してくれた人だから恩返しをしなきゃな。


 俺は違う部屋に通され、待たされた。

かなり狭い部屋で、5人いたら誰かが窒息死するレベルの狭さと密閉度だった。

俺はクメイという人物を待っていた。

すぐに来ると言っていたのに1時間経ってもまだ来ない。

クメイという人物が来たら、嫌味のひとつでも言ってやろうと考えていた。


「おまたせ! クメイですけど令和人さんっているかな?」


 まるでアイドルのような可愛らしい女性が現れて俺は面食らった。

丁寧に巻かれた茶色の髪が彼女の可愛さをより際立たせている。

スタイルの良さもあるが、それ以上におしとやかなしぐさが、彼女のチャーミングポイントのように感じる。

ピンクと紫が基調のフリフリの服はどこかで見たことがあるような気がしたが、

彼女の笑顔が眩しすぎて全く思い出すことができなかった。


「ごめん、待ったよね?」


「俺も今来たところです」


「よかった」


 笑顔のクメイは俺にとっては天使のような存在だった。

小さな部屋だったのでクメイの息遣いが間近に伝わってくる。

クメイの胸が大きな鼓動を鳴らせていてる。

むしろ大きな胸がプルプル動いているという方がわかりやすいか。

もっとわかりやすくいうと、おっぱいが間近で見れて嬉しすぎるってことだ。


「どうしましたか?」


「人類の生命力を身をもって感じていたところです」


「そう、人類は尊き存在。

それを身をもって感じているのですね。素晴らしいことです」


 俺は横目でクメイの胸がプルプル動くのを確かめる。これが人類の尊き鼓動なんだ!


「さあ、基地を案内しますね」


 楽しかったプルプルタイムは終わりを告げた。

基地にあまり興味はなかったが、ある程度把握しておく必要はある。

まあ一通りなんでもできる基地のようであった。この施設が地下にあることも教えてもらった。


「私は令和人さんに親近感が湧きます」


 なんということでしょう。

たった今、俺たちの恋愛関係が始まってしまったのだ。

もう引き返すことなどできやしない。俺は勇気を持って付き合いを申し入れる。


「よかったら友達から始めましょう」


 クメイちゃんはクスクス笑っている。

これは一体どういう反応なのか。

女の子と付き合ったことがない俺には判断がつかなかった。


「友達からだなんて、私たちもう大切な仲間なのよ。

そして令和人さんは私たちの大切な切り札なの。なくてはならない存在なのよ」


 きっと運命には逆らえない。

クメイちゃんのなくてはならない存在として俺は一生そばにいる。そのために俺は生まれてきたのだ。


「私も過去から来た人間だから、令和人さんの不安な気持ちはよくわかるの」


「過去っていつですか?」


「平安時代かな」


 レジスタンス「カント」は、思っていた以上に壮大なスケールで動いている組織だと認識する。

クメイちゃんの両親に結婚の報告をするときには、俺も平安時代へ行くことになるのだろう。


「私、霊を操れるから平安時代では不気味がられて、幼い頃から幽閉されていたの。

そこにテレスが力を貸してほしいって未来からやってきたの。

この人なら信じられると思い切って胸に飛び込んだの」


 胸に飛び込む、だと?ほっぺたを膨らませながら、俺はクメイちゃんを問いただす。


「テレスって誰?」


「あれ? 令和人さんのとこにもテレスが行ったはずなんだけど。

セカンド・テレスっていう名前。彼、名乗ってないのかな」


「半分機械のやつか?」


「そう!」


 あの半機械野郎、もしかして俺のクメイちゃんに手を出しているんじゃないだろうな。

あいつは女にモテそうだから要注意だ。


「テレスの奴、この前の戦闘で助けてやったのに、ありがとうの一言もないんだからっ」


 霊を操る、ピンクと紫のフリフリの服、この前の戦闘で半機械野郎を助けた……。


「狐のお面はクメイちゃんだったのか!」


「そう。AIは霊属性の攻撃に弱いのよ。だから私はよく戦闘に駆り出されるの」


 そうだったのか。どちらかというと俺より役に立っているんじゃないだろうか。

そんなことをぼんやり考えていたら、俺の肩に何かが乗っかった。


「あらー、悪霊が令和人さんの肩に乗っちゃった。ごめんね〜」


 クメイちゃんが操る霊なら悪い奴はいないはず。

でも悪霊って言い切ってるしな……。


「私に周りには常に成仏できない霊が纏っていて、たまにこういうことがあるのよ」 


 成仏できない霊って……危険な香りしかしない。


「あの、除霊とかしてもらえませんか」


「私除霊は苦手なのよね〜」


 悪霊のせいか、全身から脂汗が吹き出してくる。なぜか寒くてたまらなかった。

「俺、死ぬんですかね?」と冗談気味に聞いてみる。


「かもね〜」


 いなくてはいけない存在とは一体何だったのか。


「冗談よ。令和人さんったら間に受けちゃって、可愛い」


 いや、実際に脂汗が出まくって死にそうなくらい苦しいんですけど……。


「私が令和人さんにキスしたら悪霊は消えるけど、今回はそこまでしなくてもいいよね」


 何基準で判断してんだよ。

ガチで死にそうだから、キスで除霊できるならしてくれよ……。


「あ、他の方法があったかも!」


「そちらでいいので悪霊を退散してください……」


「じゃあ、まずマムシの頭を焼いて丁寧にすりつぶしてください」


「はーい、ってできるかー!」


「その粉を炙って鼻から吸えば、悪霊は逃げてくわ」


「そんなもん、みんな逃げていくわ!」


 悪霊のせいで俺は惨めな思いをすることになった。

この悪霊、絶対に許さん。

復讐の黒い炎がメラメラと燃え上がる。

悪霊はその黒い炎に包まれて燃え尽きてしまった。


「令和人さんすごい。その深すぎる心の闇で悪霊をやっつけたのですよ」


 全く褒めていないクメイちゃんの言葉に少なからず傷ついてしまう。

その時、綺麗な花にはトゲがある、という美人あるあるを思い出した。


「ごめんね。霊のことになると大雑把な性格になってしまって。

そうじゃないと怨霊とか扱ってられなくて」


 傷心の俺は言葉を発することができなかった。


「今日は初対面だったからごめんね。

今度悪霊が乗り移ったらキスして除霊してあげる」


「マジで!」


 今度悪霊が乗り移ったら、クメイちゃんとキスができる!

悪霊よ、次回は遠慮なく俺の肩に乗り移ってこい。

それにしてもクメイって変わった名前なので由来を聞いてみた。


「名前の由来?美人薄命の最後の三文字を取ったものなの」


 ビジンハクメイ。なるほど。なんだか儚い名前だな。


「令和人さんの名前は?」


 そうだ、俺の名前を言っておかなければならない。

結婚したら俺の苗字になることだし大切なことだ。


「俺の名は……」


 ううううううううううううううううー

また基地にサイレンが鳴り響く。

Kがやってきてクメイに声を掛ける。


「急げ! イヴが見つかったぞ!」


 クメイは感極まったように声を震わせる。


「あの子が発見されるなんて!」


 家出少女でも見つかった感じだが、さてどうやら。


「令和人、今回も君の活躍に期待する」


「ハッキングならいくらでもするぜ!」


 そこへ半機械野郎がやってきてK、クメイ、俺の4人が揃う。


「無駄口叩いてないでさっさと準備しろ。空間移動するぞ!」


 イヴという存在が俺の人生に多大なる影響を与えるなんて、

このときは全く予感すらしていなかった。

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