第5話
僕と課長が隣の家の前に行くと、軽自動車がガレージに入ってくるところだった。車から降りてきたのは中年の男。こいつが津嶋か?
男はこっちを振り向いた。
「おや? 涌井さん。どうかしましたか?」
にこやかな顔で挨拶している。白々しい、砂金を盗んでおいて……
「津嶋さん。これはどういう事ですか?」
課長はミクシイの開いているスマホを見せた。
「む! もう気がつきましたか。仕方ないですね」
あっさり認めるのか?
「どうぞ」
津嶋は僕と課長に紙コップを渡した。
この中に盗んだ砂金が? いや、何も入っていない。
その紙コップに津嶋は酒を注いだ。
なんのつもりだ?
ん? 酒の中に何かキラキラ光る物が……砂金か? いや、砂金にしては小さすぎるぞ。
「今年の正月に売れ残った金箔入りの酒が半額で売っているのを見つけましたね。思わず買ってしまいましたよ」
黄金ゲット! てそういう意味かい! 紛らわしい! では砂金は?
「パパ、ただいま」
課長の娘が自転車に乗って帰ってきたのはその時。その後ろから奥さんが……
「あなた! なに昼間から酒なんか飲んでいるんですか!」
「いや……これはだな。津嶋さんからの、お裾分けで……」
「津嶋さん、困りますよ」
「これはすみません。奥さん」
一方、娘の方は自転車を降りると、僕の方へ寄ってきて赤い円筒形の物を差し出した。
「お兄ちゃん。これ見て」
受け取ってみると、万華鏡だ。姉さんのカフェでやっていた手作り万華鏡教室で作ったのだろう。
「どれどれ」
さっそく万華鏡を覗いてクルクルと回して見た。
「ねえ。綺麗でしょ?」
確かに綺麗だ。綺麗だが……これは?
「あの……課長、ありました」
「ん? あったって、何が?」
「砂金です」
「え?」
課長は僕の差し出した万華鏡をのぞき込んだ。
「パパ。これ返すね。ちょっとだけ万華鏡に使ったけどいいでしょ」
娘の手には、砂金の入った小瓶が握られていた。
了
砂金 津嶋朋靖 @matsunokiyama827
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