第29話 相場side

 私はいわゆる大企業の一人娘だ。

 幼いころから習い事や勉強ばかりで、友人と遊ぶような時間も取らせてもらえなかった。

 いつか、会社を継いだり会社を継ぐ人と結婚するために育てられていたといっても過言ではないと思う。


 母は、日本でも有数の名家の生まれで、政略結婚で父と結婚した。

 当然、父は婿養子として家に相場家に入ったわけだが、家の名とは裏腹に落ちぶれていた相場家は簡単に金のある父に乗っ取られた。

 当然、母は家のために政略結婚をするなど当たり前の意識だし、祖父や祖母もそうだった。


 ある朝、めったに来ない私の私室に母が訪れた。

 そして母は、「紗月、貴方の結婚相手が決まりました。」と一言だけ告げて私の部屋を去った。


 後でばぁやから聞いたが、相手は今40歳のおじさんで相場家の人間だった。

 相場の血を濃くするために、私は結婚し子を生せということだったのだ。


 すぐにでも結婚をさせようとしている母と祖父母は、学校をやめるように言って生きた。

 女が学業に励むなど恥ずかしいだのなんだのと言っていた。




「世界が、真っ白になったように感じた。」


 私は目の前にいる甘江田君に洗いざらいすべてをぶちまけた。


「だから、せめて初めては大好きな人に奪ってほしかったの。

 それに、子供ができれば今回の話は全部なくなるかもしれない。それなら、嫌われてもいい、最後に楽しかった毎日の思い出が欲しかった。」


 どれだけ涙がこぼれ、どれだけ化粧が落ちているのかわからないくらい、私は泣いていた。

 春ちゃんには悪いことをしたと思っている。


「それって、なんとかならないのか。」


 私のことを考えてくれる、私という人間を見てくれる甘江田君や春ちゃん、友子のことが大好きで、高校生の間は一緒にいられるんだと毎日が楽しかった。

 いつか、父の言うとおりに政略結婚の駒になるんだとしても、高校生活の間はそんなことを考えなくていいんだと思っていた。


「何とかなんてならないよ。

 18歳までは婚約って形だけど、実質すぐにでも婿養子に貰って子供をこさえたらラッキーって感じ。

 相手に会ったけど、相手は気持ち悪い太ったおじさんで、私のことを見てニチャっと笑うの。」


 聞けば、ご両親の会社に役員として席があって、実質ニートみたいな暮らしをしているらしい。

 私をいやらしい目で見てくるし、私の胸やお尻を触ってきた。何度拒否しても、結婚するんだからと言いながら触ってくるのが嫌で私はすぐに逃げ出した。


 母と祖父母は逃げてきた私を叱ったけど、部屋に立て籠もってやり過ごした。


「何とか、できるかも知れない。」


 ずっと静かに聞いていた愛原君が、まっすぐ私の目を見て言ってきた。

 その目は真剣で、決して冗談で知っているようには見えなかった。

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