第20話

ふと、カーテンの隙間から差す日の光に目が覚めた。

俺の左腕は痺れ、感覚はすでにない。

なぜなら、春香が俺の腕枕で寝ているからだ。



少し視線を落とせば、綺麗なつむじが見える。

自由な右手で春香の髪を優しく撫でる。

気にくわないことや我慢していることもあるだろうに、昨夜も俺の気持ちを尊重してくれた。


本当ならば、俺のプライドなど捨てて、春香の思いにこたえてやるべきだろう。しかし、俺は安いプライドを捨てることなどできなかった。

それは、春香の影ではなく、春香の隣に居たいという気持ちのせいに違いない。



春香の身体は柔らかく、いい匂いがした。

なのに、不思議と心地よさが勝って、昨夜も眠ることができた。もっと、悶々とするかと思ったが。



しかし、朝というのは残酷だ。昨夜は落ち着いていた息子も、元気を取り戻していた。

まぁ、朝なのだから仕方ないと思う。



しかし、困ったのは息子のいる位置だ。

春香の柔らかですべすべな太ももに挟まれているのだ。春香が身じろぎをしたり、自分が少し動くだけでも刺激をされてしまう。

果てるほどではないが、擦れるたびに甘やかな快感が時折襲ってくるおかげで、たまっていたものが爆発してしまいそうだ。

その感覚から意識を離そうとすれば、自分の胸でつぶれてしまっている柔らかな弾力が主張してくる。



まさかとは思うが、毎日添い寝するってことにはならないよな?



一旦時間でも確認するかと開いた携帯電話に表示されていた時間は8時20分。

朝礼が9時スタートで、家から学校までは歩いて20分。

まともに準備すれば絶対に間に合わない。


俺は急いで起き上がって、春香の体をゆすった。



「春香!遅刻だ、やばいぞ!」



一瞬寝ぼけ眼をこすった春香が、一時停止をしたように見えた。

すぐに再起動がされ、春香も俺と同じように飛び起きた。



「急がなきゃ!」



春香は立ち上がった勢いのまま、ドアのほうへと駆けていった。

昨日、制服などは脱衣場に置いていたので、すぐに着替えるのだろうと春香を目で追っていたのだが、春香はドアの前で立ち止まってから、振り返った。



「エッチ。」



その目は確かに俺の愚息を捉えていたように見えた。

そして、それだけを言うとすぐに階下へと駆け下りていった。



俺は、膝をついた。

もしかすると起きていたのかもしれないとすら思った。

そして困った。



わが息子は、どうやったら落ち着いてくれるのか、と。

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