第21話
最低限の準備だけして、二人で学校に走った。
10分ほどで月、最速を更新しつつチャイムが鳴るギリギリに到着することができた。
俺は気が付けば春香の手を引くように走っていたようで、教室についても手をがっちりとつないだままだった。
教室内にはほぼすべての生徒が揃っていて、教室内に駆け込んだ俺たちは全員の視線を集めた。
その目は確かに、俺たちの手がつながっているのを見ていた。
そして、クラスメイトの多くがにやりと笑った感じがした。
「え、あのさ、ついに?」
教室の後ろ側の出入り口のあたりに座っている春香の友人、嶋野 涼子しまの りょうこがにやにやと笑いながら声をかけてきた。
クラス中が聞き耳を立てている気がする。
「そうなの。ついに、真一が告白してくれたの。
めでたく、昨日からお付き合いを始めました。」
繋いだ左手はそのままに、右手でピースをする。
俺たちの関係をあまり茶化さずに見守ってくれ、時には背中を押してくれたクラスの温かさを感じた。
黒板側のドアが開く音がして、藤堂 晴馬とうどう はるま先生が現れた。
「おーい。イチャイチャ突っ立ってないで、席座れよー。」
俺たちの担任であり、36歳独身の藤堂先生はノリがいいため生徒から人気な先生だ。
だが、今回はそれが災いしたと俺は感じざる負えなかった。
「藤堂せんせー、この二人ついに付き合い始めたんだってー。」
またしても、声を上げたのは嶋野さんだった。
「おー、おめでとう。
長らくクラスのみんなで見守って来た甲斐があったな。
よし、クラスのみんなで拍手をしておめでとうと言ってあげよう。」
藤堂先生の悪乗りに嶋野が乗り、その波はクラス全体に広がった。
みんなが口々におめでとうと言いながら、手をたたく。
まるで、結婚でもしたかのような状況に、俺は絶句していた。
ふと、窓辺の席の男が目に入った。
祝うのではなく、こちらをにらみつけている男。
先日、春香とデートしたと聞いた相原君がこちらをにらんでいた。
俺と目が合ったからか、相原君は目をそらした。
彼の口がパクパクと動いていた、何か独り言を言ったようだった。
何となく、いやな感じがした。
こんなにも悪意を向けられるのが初めてだったからかもしれない。と、自分を納得させて、気が付けばこのことは忘れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます